41、それぞれの話
遅くなりました。
今後もこのようなことが増えると思いますがお願いします。
コツコツという足音だけを響かせながら一行はフロワールの父が捕らえられているところへと向かう。
そこは他よりもずっと寒かったため三人は寒そうにしている。その一方でイレーネはいつもと変わらず、フロワールはどこか力が入った表情をしている。
一番前を歩くシヴァイゼルはいつもよりどこかうれしそうな足取りだ。
皆が違った様子で歩いていたがついに目的の場所についた。一応貴族なので一室に拘束されており扉の前には騎士が二人立っている。
シヴァイゼルに気付くとすぐに敬礼をした。
「この者に用があってここに来た。入らせてもらうぞ。」
「はい。....あの、この方々も、でしょうか?」
「ああ。何かあった時の責任はすべて私がとる。お前たちも逆らえなかったということでいい…通してくれ、これが最後やもしれん」
その言葉の意味を悟ったのだろう。二人の騎士は扉の鍵を開け、離れた。
「すまないな」
シヴァイゼルはそう一言呟くと扉を開ける。
そこは貴族にしては質素かもしれないがそれなりの部屋だった。そこに、一人の太った男性が座っていた。くすんだ水色の髪に水色の目、この人物こそフロワールの父クレイ・ハオイス子爵だった。
「ハオイス子爵、私が分かるか?」
「ああ、もちろんだ。力しか取り柄のない思いあがった小僧だろう」
「まあ、そうだな。」
シヴァイゼルは先ほどよりもだいぶ低い声で問う。だが、ハオイス子爵も負けていない。ギラギラとした目でシヴァイゼルを睨んでいる。
「…お父様」
少しためらいながらフロワールが声をかける。
「おお、フロワールか。せっかく王妃にしてやったというのに何もできんのだな...お前は。それで、何だ、私を救いに来てくれたのか?
もしそうなら、もっとお前に力をやるぞ。今の地位よりも上にしてやる」
気持ちの悪い笑みを浮かべながらそう言いだす父の姿にフロワールは思わず絶句する。そんなフロワールの肩にイレーネは手を置く。
「フロワール。この者は何かの薬も使っていたようです。欲に飲み込まれて見境がつかなかったのでしょう。もう、あなたが思う父はいないと思いなさい」
厳しいがフロワールのためを思って言われるイレーネの言葉にフロワールは支えられる。
「王妃様。残酷なことを言うようですが、私の目から見ても、もう手遅れです。ここまで来てしまえばいくら竜でも、元には戻れないと思って下さい。
.....もう少し早ければ何とかできたかもしれませんが…ここまで来ると意識が混濁してしまい自分でも何を言っているのかわからない、考えられない状態になってしまうのです。」
申し訳ないと謝るリザイナにフロワールはすぐに首を振る。
「いいえ。こちらこそ、そのように考えていただいてありがとございます。.....私が逃げてしまったから、このようになってしまったのですね。」
「ははは、フロワール、そこをどけ。今にそんな奴らなど殺してくれる」
相変わらず、目をギラギラさせてこちらを罵るハオイス子爵を皆、冷たい目で見つめた。
「まったく、クレナがこいつの手に落ちなくてよかったよ。ここまでとは、思ってなかった。」
「本当にね。どんな奴だと思ったけど、この状態なら仕方ないかもね。ちょっと同情する」
恭珠とシャルロッテの言葉にも全く堪えた様子もなかった。そんな中、フロワールに声がかけられる。
「....フロワール、もう、会えないと思った方がいい。そろそろ、時間だ」
シヴァイゼルの言葉にこくりと頷くとフロワールは一歩前に進み出る。
「お父様、私が目を背け、逃げてしまったことは謝ります。ですが、許されるものではないでしょう。この様子でも私の父です。
…いままで、お世話になりました。心配することは無いので安心してください。ありがとうございました」
「は、知ったような口をきくな」
最後まで変わらない様子のハオイス子爵を一瞥すると一行は部屋を後にした。
部屋を出るとフロワールは少しうつむいた。
「.....これから、ハオイス子爵夫人と子息に会いに行こうと思うが、大丈夫か?」
「はい。...ここで、区切りをつけなければなりませんから。」
フロワールは顔を上げると悲しげに微笑んだ。それを見た、シヴァイゼルも小さく頷いて歩き始める。
これから向かうのはがハオイス子爵夫人と子息のいる医療を担っている場所だ。
この国一番の医者に見せているらしい。
少し歩くと部屋についた。案内に従って中にはいると、そこは光が差し込む明るい一室だった。
部屋の真ん中にあるベットの上にはフロワールの面影がある、水色の髪に水色の目の女性が寝ている。そしてその横には青年と言うのがふさわしいくらいの水色の髪に水色の目の人物がいた。こちらはさっきいたハオイス子爵に似ている気がする。
二人はこちらに気付くとすぐに礼をする。夫人の方は起き上がろうとしていたためシヴァイゼルが制す。
「無理をせず、そのままでいい」
「しかし、シヴァイゼル様」
「シヴィがいいと言っています。今は、無理をなさらない方がいいと思いますよ」
「....はい、ではそうさせていただきます」
夫人がやっと横になってくれたためまずは自己紹介から始めることにした。
しなくてもいいと思ったのだが『氷結の竜』シヴァイゼルを愛称で呼ぶ人物が誰か知りたかったようだったのですることにした。
「『漆黒の竜』イレーネ様ですか…」
「アドルフォの言いたいこともわかる。今は私もリーネも圧力を抑えているんだ。」
「解放してもいいのですが…お体に障るといけないので止めておきます。髪が一房白いのは生まれつきです」
フロワールの弟が少し納得しきれないような表情をしていたため説明すると納得したようだった。
「私はフロワールの母べルティーナ・ハオイスです。」
「弟のアドルフォ・ハオイスです」
二人とも丁寧にお辞儀をする。
「私たちのことは気にするな。.....もしかするとフロワールがここに来るのは最後になるやもしれん。時間がたってから、またここに来る。それまで話をしていろ」
「はい、ありがとうございます。皆さま」
シヴァイゼルがそう言ったため私たちは部屋から出て行った。
「さて、しばらく暇だな」
シヴァイゼルが小さく呟くと恭珠がおずおずと手をあげた。
「.....あ、あの~。どこかに、体を温められるようなところはありませんか?」
「....確かに、結構堪えるよねこの寒さ」
「私も、行きたいかな」
三人の希望を聞いてシヴァイゼルは考える。
「風呂なら、あるな。」
「「「お風呂!」」」
「確かサウナもあったはず」
「「「サウナ!」」」
三人の目がキラキラと輝いた。それを見てシヴァイゼルは苦笑する。
「手配をしておくから使っていいぞ。」
シヴァイゼルはそう言うとメイドを呼びそのことを伝えた。
「はい、わかりました。こちらにどうぞ」
そう言って案内をしてくれた。
「あ、キュラスはどうするの?」
「私が少し借りるよ。話があるんだ」
「話ですか。まあ、いいですよ。私はそこまで冷えていませんから」
「「話だって~」」
シャルロッテと恭珠がにんまりしながら言うとリザイナがチョップを落とす。
「ほら、邪魔しないの。....では、失礼します」
そう言って三人はメイドについてお風呂に向かい、シヴァイゼルとイレーネは反対の方向に歩いて行った。
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「はあ~、気持ちいいね~」
「うん。だいぶ寒かったんだよね」
「シャルって氷の賢者なのに寒さに弱いよね」
「仕方ないじゃん。猫だもん!」
わいわいがやがやと雑談をしながらお風呂に入る。そこはとても広く、また貸し切りにしてもらえたので三人しかいなかった。
「にしても、キュラスに話って何だろうね?」
「告白じゃない?こ・く・は・く!」
「ずっと前から....好きでした。的な!」
「はいはい、そこまでにしようか。....好きだね~、恋バナ」
「楽しいじゃ~ん!ほかの人の話聞いてニヤニヤするの」
シャルロッテはそう言うとリザイナに二ヤ~と笑顔を向ける。
「そういうリザイナは~、誰かいないの?」
「あ、気になる~!私も聞きたい!」
するとリザイナは嫌そうな顔をする。
「いない。興味ない。それしてて、楽しい?」
「うん、超楽しい。でも、いないのか~。あ、恭珠はどう?誰かいないの?」
「ええ~、私は~、本の中のかっこいい人はいるけど~、現実はいない。.....まあ、本の中のかっこいい人を好きっていうのは恋愛的な意味とはまた違うんだけどね。なんか居ない?そういうの?」
恭珠の問いかけにシャルロッテは笑顔で答える。
「う~ん....本読まないんだよね!」
「それ、笑顔で言う?本って面白いと思うんだけどな~。読んだ方がいいよ」
「読むには読むよ。長いと飽きるし最後まで読まないこともあるけどね。....あ、でも恋愛は最後まで飽きずに読める」
その言葉に二人は肩をすくめた。
「あ、露天風呂がある。雪見風呂だよ。行かない?」
「いいね。いくいく」
「わかった。行こうか?」
三人は扉を開けると外に出る。そこは一面が雪に囲まれた露天風呂だった。
「さむ!早く入ろ」
「そうだね。」
「うん」
三人は急いで入る。普通だったらダメ何であろうが寒いので飛び込む。
「あ~、これもいいね。気持ちいい」
「うん。また違った感じ」
「寒いけど、あったかい。なんかいいね」
しばらく暖かさに身をゆだねていたがシャルロッテとリザイナは視線を感じて目を開ける。
「....な、なに、恭珠」
「いや、なんか、私って胸ないなって、くびれてもないし」
「いや、まだ子供の体じゃん。それに私だってそんなにスタイル良くないよ」
「いいよ!リザイナは全体的にバランス取れてるし、シャルは胸そこそこあるし、足細いし」
「....くびれてはないけどね」
「私を見てよ!!寸胴じゃん!」
「だから、子供だからでしょ!その年齢の体、だ・か・ら!」
「気にすることないって」
リザイナとシャルがそう言ったけど恭珠はまだ釈然としないようだった。
「キュラスがいるでしょ」
「そうだ!キュラス!....どんな感じなんだろ。気になるな~」
にやにやしながら言う恭珠にシャルはエロオヤジか!と思い顔をひきつらせていた。
なお、リザイナは何を思っていたのか、わずかに眉間にしわを寄せていた。
このどうでもいいようで楽しい雑談はイレーネが呼びに来るまで続いた。