39、事件の首謀者
小説情報を編集しました。内容に関してはあまり変わっていません。
スペルディア大将軍の大体の年齢の範囲を変更しました。そんなに影響はないです。
和やかな空気だったがその中にある人物が入ってきた。
「失礼します。王妃様がいらっしゃいました。」
「フロワールがか?何か用事でもあるのか?」
「シュバルツ、私が呼んだのです。通してください。」
イレーネは一気に表情を引き締めた。他の者たちはなぜそうなるのか?この場に王妃を呼んだのかが分からず困惑している。そんな中、王妃が中に入ってきた。
「お義姉様、私をお呼びとのことでしたが?何か御用でしょうか?」
「ええ、まあ、お座りなさい」
イレーネは椅子を用意させて座らせた。
普通ならば、いくら義理の姉とはいえ王妃を呼ぶことなどできないだろう。だが、イレーネは『漆黒の竜』、王と同等の立場にいるのだ。
だからこそできる芸当でもある。
「姉上、なぜフロワールを呼んだのか私たちにはわからないのですが?」
「まあ、聞いていなさい。フロワール私がどうしてあなたを呼んだのか、本当にわかりませんか?」
「はい、心当たりがありませんもの?」
フロワールは本当にわからないというように首を傾げた。
イレーネは相変わらずの鋭い目でフロワールを見ている。はたからすればイレーネが悪いようにしか見えなかっただろう。
「フロワール、あなたが今回の事件に関わっていることはわかっていますよ。」
え!?全員の心の声がはもった。
「ま、待ってください姉上。クレナがさらわれたんですよ。実の母親がそのようなことをする意味が分かりません。」
「そ、そうよ。だって証拠がないんでしょ。イレーネ伯母様!」
シュバルツとクレナはイレーネに言う。
「証拠、そうですね。これに見覚えは?」
そう言ってイレーネは何かを取り出した。
それは一冊の題名が書いていないきれいな本だった。ほとんどの者は何かわからなかったのでイレーネを見ていたが三人だけは違った。
「ねえ、キュラス。これって図書室にあったやつ?」
「きれいな本だよね」
恭珠とクレナは驚いているようだ。そして最後の一人、フロワールは目を少しだが見開いていた。
「ええ、フロワール」
そう言った瞬間イレーネがフロワールの手をつかみ本に触れさせようとした。
「キュラス!」
「だめ!やめて!」
どうなるかわかっている恭珠とクレナは声を上げた。だが、フロワールの手は本に触れていない。握られ震えている。
「これが、何よりの証拠でしょう」
イレーネはそう言うと手を離した。
「姉上。フロワールに危害を加えるのならいくら姉上でも許しませんよ」
シュバルツは鋭くイレーネを睨みつけた。それでもイレーネは平然としている。そんな中、言葉を発した者がいた。
「陛下。私が悪いのです。どうかお義姉様を責めないでください」
「フロワール!」
「お義姉様は私を試したのです。この本を置いたのは私です。そして、首謀者も私なのです。」
フロワールは申し訳なさそうな顔で言った。そして、立ち上がるとクレナと恭珠のもとへ行きひざまずいた。
「お母様!」
「クレナ、恭珠殿。私を許せとは言いません。せめて謝らせてください。申し訳ありませんでした。」
これには皆、何も言えなくなった。
宰相やスペルディア大将軍、オルワイズ騎士団長補佐も目をそらしている。だが、賢者の二人はどちらかと言うとばつが悪そうな顔で何かを待つように窓の外を見ていた。
そんな中、イレーネはまたフロワールに声をかけた。
「フロワール、まずは頭を上げて私の聞くことに『はい』か『いいえ』で答えなさい」
「はい」
フロワールは小さな声で返事をした。
「では、この事件の首謀者はあなたなのですか?」
「はい」
「あなたは自分から望んでこのことを起こしたのですか?」
「はい」
「クレナと恭珠を捕らえた場所にいた者たちもあなたが集めた者たちですか?」
「はい」
質問を重ねていくうちにシュバルツに怒りが表れる。だが、そんなことを気にした様子もなくイレーネは質問を続けた。
シュバルツの怒りがもう少しで怒りが爆発するというところで何かが部屋に入ってきた。
シリウスだった。皆が唖然としている中シリウスはイレーネの肩に止まり手紙を落とした。
イレーネはそれを受け取り裏の印章を見ると満足そうに微笑んだ。
そしてなんとフロワールの髪に手を伸ばしたのだ。それには賢者たち以外首を傾げた。
シュバルツも今にもとびかかっていきそうだったがスペルディア大将軍とオルワイズ騎士団長補佐に押さえられていた。
だが、フロワールは違った。
「っ!?」
フロワールが驚いて声を上げそうになったのを見て、イレーネは自身の唇に人差し指を当てて制した。
そしてそのまま何かを取り出した。一見宝石のように見えるそれを魔法で壊すと言った。
「フロワール、これを読んでみなさい」
そう言って渡したのは先ほどシリウスから受け取った手紙だった。
フロワールは全く意味が分からないような様子だったが読み始めた。すると一気に表情が変わる。
「お、お義姉様、これは?」
「書いてある通りです。これを知ったのは賢者たちの力があってこそですよ。『氷結の竜』からなので信頼できますよ。」
「シヴァイゼル様が…いつの間に」
「私が頼んだのです。シヴィなら間違いなくやってくれると思っていましたが大丈夫の様ですね」
「はい、本当に何から何までありがとうございます。これでやっと真実を話せます。」
フロワールとイレーネの間では会話が成立しているが他は話についていけていない。
「あの、お取込み中悪いが…イレーネ殿下、王妃様、一体どういうことだ?」
「ああ、シヴァイゼル殿がどうとか?まったくわからないんだが?」
今まで黙っていたスペルディア大将軍とシュバルツが言葉を発した。
まあ、二人の言葉はその場にいる全員が思っていることなのだが…
フロワールはさっきとは全く違う晴れ晴れとした表情になっていた。
「すみません。先ほど言った事のほとんど嘘です。」
「「「「「「え!?」」」」」」
「事情があるんだよ」
「私も最初は驚きました。」
みな、理解が追い付かず何も言葉が出てこないようだった。
「まず、事件の首謀者は氷竜の国にいる私の父です。分不相応の欲を抱いて飲み込まれてしまったんです。
きっかけは私が闇竜の国の王妃になったことでした。そのころから闇竜の国を手に入れたいという欲が出始めたんです。」
「分不相応の欲ですか…」
「身を亡ぼす原因ですね」
みな、それぞれに自分の意見を言っていく。
「その欲は日に日に高まっていきました。ですが母と弟がいたため何とか抑えられていたのです。 ですが、クレナが生まれてからと言うものその欲は大きくなっていく一方でした。
そして、つい先日母が倒れてしまったのです。それで弟も母につきっきりになるようになり、父を抑えられなくなってしまったんです。」
「そのようなことになってしまっていたのか?力になれず申し訳ない」
「いいえ、言っていなかったんですもの」
シュバルツが情けなさそうに言うがフロワールはそれを否定した。
「その後、父は私に手紙を送ってきたのです。中には協力しなければ母の命はないと書かれていました。
だからこそ、協力しなければなりませんでしたが、実行させるわけにはいかなかったのでクレナをお義姉様がいるテンバール王国に送り出したのです。」
「だから、急にこちらに来たのですね。いや、どういう風の吹き回しかと思いました。」
イレーネは肩をすくめた。
「その後、賢者の方々と共にこちらに帰ってきたときは気づいてもらえるのではないかと思いましたが、そんな願いもむなしく父から手紙が届いたのです。それどころか影の存在が送られてきたのです。
その者はいつもどこかで私を見張っていました。ですが途中からこの宝石型の通信魔道具に変わったのです。だからこそ、うかつな言動もできなくなりました。ましてや、母の命を握られているのです、逆らえませんでした。」
「それで、協力したということですか?」
リザイナの言葉に黙って頷いた。
「あの、一つ聞いていい?あの本に仕込まれてた魔法陣をキュラスに再現してもらったんだけど... 最初からあれだった?
ところどころおかしかったんだよね」
「それは、私が少し手を加えたんです。あまり詳しくはやっていませんが多少勉強していたので魔法陣の効果はわかったんです。転移だけでなく記憶を消すような効果もあったんです。
なので私はそんなことをされてはたまらないと思い記憶を消すところを失神に変えました。ちょっとしかやっていなかったのでうまくいったかはわかりませんでした。」
「だからか……いやギリギリ動くくらいだったけど何とかなってたよ。」
シャルロッテは純粋な疑問が解決されて嬉しそうだったし、フロワールも魔法陣がしっかりと動いていて安心したようだ。
「私がやったのはここまでです。この後どうなったのかはわかりません」
「では、ここからは私ですね」
そう言って今度はイレーネの説明が始まった。
「私がまだ処刑される前です。影などを使って情報を集めているときにシャルロッテが気付いたんですよ。この件にフロワールが関与していることに…
それで、氷竜の国のフロワールの父のことを調べたんです。そしたら、案の定引っ掛かりましてね。そこですべての事情を知ったんです。」
「シャ、シャルロッテ、どうやって情報集めたの?」
「ん~?秘密」
シャルロッテがニヤリと笑った。それを見て恭珠は聞き出すのをあきらめたらしい。
「その後私は処刑されることになってしまったのでシヴィに手紙を送ったんです。すべての事情を書いて送ったのでそれで対処してもらいました。
それで、報告が今届いたわけです。絶対にやってくれるという信頼があったのですぐにフロワールに見せたんですよ。案の定、大成功でしたけどね」
イレーネは少し微笑んでいる。そんな中、恭珠が手を挙げた。
「キュラス、質問。さっきからシヴァ…なんとか?っていう人が出てきてるんだけど誰?」
「シヴァイゼル、最強の竜の一柱です。『氷結の竜』ですね。闇竜で言うと私と同じような感じです。」
「でも、よく急に手紙を送って信じてくれたね。ふつう疑わない?」
「う~ん、年が近いんですよ。昔は結構会っていたので頼りにしています。私はシヴィと呼んでいますがね」
「「「ふ~ん」」」
シャルロッテ、リザイナ、恭珠の三人が意味ありげな返答と視線を送ってきたのでそれを理解したイレーネが返す。
「別に、期待しているようなことは何もありませんよ。もうずっと会っていませんからね…」
「ねえ、ここにきてからずっと気になっていたんだけど.....キュラスって本当に同い年だよね?」
「何を失礼なことを言ってるんですか?」
「いや、だってなんかみんな年齢不詳だし姪とかいるから信じられなくなっちゃって」
「確かに、龍族は寿命が長いので他の種族より年齢が変わらない期間は長いですが、疑いますか?そこ」
「いや、なんか私も気になってきた。」
「うん、何かわかんなくなっちゃった」
リザイナや恭珠も便乗して言い出したのでイレーネはため息をつく。
「それで、もし私が200歳とか言ったらどうするんですか?」
「「「え、200歳なの?」」」
「違います」
それでも気になるようだったのでイレーネはある人物の年齢を教えることにした。
「スペルディア大将軍は…何歳でしたっけ?」
「俺か?う~ん、700ちょっとか、800ちょっと」
「「「アバウト!」」
「仕方ないだろ。わかんなくなるんだよ」
「これを聞いてもまだ知りたいですか?」
三人が頷きそうだったのでイレーネはここで話を切り上げ話題を変えた。
「ところで、シュバルツ。これからフロワールを連れて氷竜の国に行ってきてもいいですか?」
「え、どうしてそういうことになったんですか?」
「いえ、シヴィが来てくれと言っているようで、フロワールも久しぶりに家族に会いたいだろうと思いまして」
「ああ、そうなんですか?フロワールは…行くんだね」
「はい、少し会ってきますわ」
きっぱりと返事をするフロワールにシュバルツはあきらめたらしい。
だが、最後にシュバルツは小さな仕返しをした。
「姉上、行くならそこの人たちも連れて行ってくださいね」
「…この三人ですか?」
「ええ、それが条件です」
「……仰せのままに、陛下」
イレーネが折れて諦めたのとは裏腹に三人であるシャルロッテ、リザイナ、恭珠は飛び跳ねそうな勢いで喜んでいた。