37、救出の裏側
「では、説明してもらいましょうか?姉上」
「ええ、いいですよ」
クーデターの制圧を終えて戻ってきたシャルロッテとリザイナ、そしてシュバルツ、宰相、イギルが一つの部屋に集まって紅茶を飲んでいた。 もちろんクレナと恭珠、イレーネもいる。
意外なのはスペルディア大将軍とオルワイズ騎士団長補佐がいることだろう。
まあ、こんな豪華なメンバーがいる会がただのお茶会ではないのは当たり前だが…
「そうですね。まあ、私の処刑は張り紙の件で気づきましたから、対策を立てたんですよ」
「ですが、なんであんなことしたんですか!というか…なぜ、私たちに知らせなかったんですか?」
シュバルツの厳しい質問にもイレーネは平然と答える。
「別に、知らなくていいことだからですよ。余計なことを知らないそのままの反応が必要でしたからね。何人かには知らせていますよ」
「いったい、だれに知らせたのですか?イレーネ殿下」
宰相のもっともな疑問に返答したのはシャルロッテとリザイナだった。
「えーと、とりあえず賢者は教えられたよ。」
「それと、王太后様もでしょ」
「....まあ、マネスト様に知らせただけましだな」
「ええ、マネスト様が知らなかったら、今頃どうなっていたか…」
スペルディア大将軍とオルワイズ騎士団長補佐は本気で安堵したようだった。
「え、マネスト様ってそんなに怖いんですか?」
「え、ううん?私もよくわかんない。王族としての誇りを持ってる厳しい感じだとは思ってたけど…」
「ああ、確かにね。キュラスのちょっと柔らかい感じ?」
「そんなに怖い印象は持たなかったけどな…」
恭珠とクレナ、それに賢者たちも首を傾げた。
「ええ、怖いですよ。」
「まあ、な」
「ある意味では、ですが…」
「…え、なにその意味深な答え」
シュバルツも何も言わなかったが思い当たることがあるようで苦笑いをしている。
「俺たちは先王様の時代。まだ、イレーネ殿下も陛下も生まれていないときからこの位について王家に仕えているんだ」
「私とスペルディア大将軍は同じくらいの時期にこの位についたのでお互いの苦労は知っているつもりですよ。」
「私もそれなりに知っていますからね」
三人は何か通づるものがあるようだ。
「今は退いて関与していませんが、マネスト様は先王陛下と共に政治を行っていたのですよ。」
「ああ、あの二人がそろったら向かうところ敵なしだったからな…いや、敵はいたか。まあ、すごかったのさ」
「ええ、敏腕でしたよ。私も、お母様がいなかったらシュバルツを置いていったりはしませんでしたよ。」
「あの斬新さはとても真似できないよ」
皆、王太后のことを尊敬してる、そんなことが感じられる話ぶりだ。
「お母様ならば知らせても、そのまま知らぬ時と同じような反応や行動をしてくれるという確信があったので知らせたのですよ。遺言状を残したのですから、いいではないですか」
「遺言状なんか残したの?」
「え、いる?そんなもの…」
クレナと恭珠は本気で分からないというように言う。
「私が死んだ後に計画通りに動いてもらうためですよ」
計画通り?なにそれ?恭珠とクレナがそう思っていたことを察したかのようにイギルが説明する。
「遺言状には『この後クーデターが起こるから気をつけろ。恭珠とクレナのことは賢者に任せてそちらに集中しろ』と書いてあり、最後にクーデターを起こす主な貴族の家が書いてありました。」
「そんなもの残してたら生きてるなんて思わないって…」
クレナが呆れたようにつぶやく。
「一つ、聞かせてください。なぜ、クーデターを起こすと分かったんですか?それにクーデターを起こす主な家もです」
宰相が不思議そうに聞いた。だが、目が笑っていない。自分の情報収集に生かそうとしているのだろう。
「ふふふ、秘密ですよ。知らない方がいいこともあるものですよ」
イレーネは薄く笑いながら答えた。どうやら、教える気は一切ないようだ。宰相もため息をつく。
「じゃあ、次だ。なんでお前、俺たちに処刑されたのに生きてる?ちゃんと刺したはずなんだがな…」
「ええ、せめて一瞬でと思って急所を狙ったんですが」
「ま、まさか、スペルディア大将軍とオルワイズ卿が行ったのですか?」
クレナが相当驚いたように言った。恭珠はわからないようで首をかしげている。
「今はオルワイズ騎士団長補佐ですよ。ふつうは下っ端の騎士や軍人がやるものなんです。トップがやるようなことはまずありません」
「へ、へえ」
すごいんだということに恭珠は今気づいた。それと同時に疑問が浮き上がった。
「あのさ、つかまってるときにキュラスの髪を見せられたんだけど…本物?」
「いいえ、幻術ですが。他の物をそう見えるようにしただけです。」
今更だが、純粋な疑問が浮き上がった。
「ねえ、処刑されたんならなんで生きてんの?」
「ずいぶん、率直な質問ですね。恭珠」
だが、そこまで気を悪くした様子はなかった。むしろ賢者たち以外全員が気になっていたことだ。
「処刑された瞬間に、私がいつもつけているアメジストのペンダントに魂を移しました。」
「「「「「「「は!?」」」」」」」
「それで、私がすっごい微弱な魔力で臓器とかを守った」
「「「「「「「は!?」」」」」」」
「終わった後、来ていた治療の賢者と回復の賢者の力を借りて体を治して、私も協力して魂を戻した」
「「「「「「「は!?」」」」」」」
もう、「は!?」しか言えなくなってしまったようだ。
「質問は?」
「「「「「「「いや、全部だよ!」」」」」」」
賢者以外の全員に突っ込まれた。
「まず、なんで魂を移せるの?」
「このペンダントは代々の闇の賢者の魔力がこもっています。もちろん私もですが…。
このペンダントだからこそできたのです。闇は私の属性と言っても過言ではないですよ。そんな親密性があり、強い思いや力がこもっているペンダントだからこそ不可能を可能に変えられたんです。...それと、強いて言うなら、賢者だからですね」
「ああ、そう」
もう、何でもありだと思ったらしくクレナはあきらめた。
「で、では。臓器を凍らせるというのは」
「ああ、全体にまんべんなく氷の魔力を行き渡らせて一瞬で凍らせるんだよ。ただ、もたもたしてると血が出すぎて手遅れになるから、急いでやらないといけないね。でも、魔力にむらがあると一部がダメになるし、派手にやると犯人たちにばれるからね。細かいことだよ」
「そ、そうなんですか」
宰相も引き下がった。さすがの芸当だと思ったのだろう。
「魂を戻すのは、ど、どうするんだ?」
「ああ、それは…まず、体がダメにならないうちに治癒魔法で生きている時と同じようにするんだ。ただし、それだけだと血が行き渡らないから魔法で動かすんだよ。それと同時に闇の魔力を体に送りながら、アメジストの中のキュラスの魂を探して引き出す。それで、体に入れる。三人で分担したけど...」
「お、おう。」
治療などにあまり詳しくないスペルディア大将軍でもできっこないことはわかったのだろう。
結果、ここにいる者たちは『この芸当ができるのは賢者達だから。なんでもありなんだ』ということとして結論付けた。
「ああ。それと、直接は関係無いのですが....もう一つありました。」
イレーネの言葉に、皆一斉にまだあるのか…と思った。
「実はここにいる、火丸恭珠なのですが、本当はオパールの賢者候補で私たちの友人のローゼでした」
「「「「「「「は!?」」」」」」」




