36、救出作戦
もう、どのくらいたったんだろう?
感覚が狂ってきてる。
クレナがいなかったらもうとっくの昔に壊れていたんだろうな。
どのくらい、暴力を受けたんだろう?
もう、わからないな。一瞬が一時間にも、一分が一日にも感じられる。
クレナもそろそろ気力がなくなりそうになってるし.....
ルク、ザラ、アリス。幾度となく思い出したこの名前の人は誰だろう?
もう、いいや。ルク、ザラ、アリス。お願い、助けて....
悶々と考えていると、また扉が開いて男が入ってきた。
「おお、お前ら。いい知らせがあるぞ。
イレーネが死んだぞ。
我々の要求を飲んだんだよ。」
「まって、どう言うこと?」
嫌な予感がした。
「俺たちは国中に張り紙を貼ったんだ。それには『イレーネは先王と前宰相夫妻を殺した』と書いてある。
それと同時に国王に手紙を送ったんだ。
『二人を助けたければ、イレーネを犯罪者として公開処刑しろ』という内容のな」
嫌な予感が的中した。恭珠は頭が真っ白になった。クレナも横で震えている。
「まさか」
「ああ、国王は要求を飲んでイレーネを公開処刑にした。あっけない最後だったぞ、お前たちを守った英雄様はな。お前達のために犠牲になったんだよ。
俺たちはお前たちを解放するつもりはない。せいぜい自己嫌悪でもしてるんだな。」
男は笑いながら出ていった。
「イレーネ伯母様は処刑されちゃったんだよね」
「....」
「....私たちのせいだよね」
「クレナ」
「もう、どうして....」
ついにクレナは顔を伏せて泣き出してしまった。
今まで気丈に振る舞っていたが、相当こたえていたんだろう。
恭珠はクレナの背中をさすった。
「クレナ、あのキュラス...いや、イレーネさんだよ?そんなに簡単に死なないって。
今までも、満身相違で帰ってきたこともあったよ。大丈夫。無謀なことをするときもあるけどイレーネさんなら大丈夫。」
その間も背中を撫で続けながら恭珠は話す。目に薄く涙を浮かべながら。
「きっと生きてるよ。あんまりマイナスに思わない方がいい。イレーネさんだって自己嫌悪することは望んでない。
考えるしかない。シャルさんもリザイナさんもシュバルツさんだって私たちを助けようと頑張ってくれているはずだよ。信じよう。クレナ」
恭珠が言い切るとクレナは顔をあげた。涙も止まったようだった。
「ふふ。ありがとう、恭珠。なんだか、ずっとイレーネ伯母様といっしょにいた感じがしたよ。」
「ええ、そうかな?でも、笑ってくれてよかったよ。」
二人にやっと笑顔が戻った。それからクレナは寝てしまったらしい。私も相当堪えているようですぐに意識を失った。
目が覚めると、男がたっていた。
今度はなんだろう?
そう思っていると男が何かを差し出した。
「ほら、これを見ろ。イレーネの髪だ。あいつは死んだんだよ」
「それが、本物だって信じられるものがないじゃん」
隣にいるクレナは震えていた。
「...た、恭珠。これ、イレーネ伯母様の髪だよ。魔力とかで、わかるんだ...」
わかりたくない。信じたくない。そんな思いは一緒なはずだ。
「ほう、王女様はわかるみたいだな。
全く、愚かな奴だな。こんな二人を守るために死ぬとはな。」
恭珠の中で何かが込み上げる。
「他のことも考えず、自らの命で二人を救えたと英雄気取りなんだろうな」
プチン
恭珠の中で何かが切れる音がした。込み上げてくるものが弾ける。恭珠のまとう空気が変わった。
「黙れ」
急に立ち上がり、話始めた恭珠に男は驚いたようだった。
「黙れ、イレーネを侮辱するな。私にとっては頼れる友だ。」
「な、なにを」
「我が友を、イレーネを侮辱した罪だ。断じて、許さない。....受けとれ!」
そういって恭珠の莫大な魔力が放たれた。
これには魔法を無効化する鎖も意味をなさなかった。
男は壁を破り向こう側にまで飛ばされていた。その他にもいろんな部分が壊されている。
クレナが呆然としているなか恭珠は倒れそうになった。
すると、それを支える者がいた。
「いや~、派手にやったね~」
恭珠は驚いてその人物を見上げる。
「シャ、シャル!」
そう、シャルロッテがどこからともなく現れたのだ。
「おお、恭珠、クレナ。大丈...夫でもないね。結構不味いかも...ナイラとフィナのところにいかないといけないかもね....」
「いえ、大丈夫です。....あの、イレーネ伯母様は....」
シャルロッテは一瞬真顔になった。だがすぐに気楽な表情に戻した。
「それは、自分の目で確かめた方がいいね。」
シャルロッテに手招きをされたのでそちらに向かうと魔法陣が現れた。
転移し終わると目の前にふたりの後ろ姿があった。
「お、無事だったみたいだね。」
リザイナが言った。
クレナはもう一人を見て涙を流し、恭珠はニヤッと笑う。
「まあ、丁重に扱ってくれたようですね。お礼をしないと」
イレーネが言う。そんなイレーネに恭珠は言葉を返す。
「そっちも生きててよかった。ヒヤヒヤさせないでよ。イレーネ」
イレーネ、シャルロッテ、リザイナは恭珠を見て気づいたようだった。
「もしかして、戻った?」
「うん、さっき魔法をぶっぱなしたら戻った」
クレナはまだ、理解できていないようだった。
「まあ、とりあえず恭珠のままで」
「わかった」
「了解」
「ええ」
三人とも答え方は違うけどなんだか嬉しそうだった。
「お、お前は、イレーネ。公開処刑されたのではなかったのか?」
「されましたよ、生きてますけど。まあ、それはどうでもいいですが。.....ずいぶんと丁重に扱っていただいたようですね。お礼をさせてください」
最初にクレナと恭珠が会った、おっさんと眼光が強い人が目の前にいた。
「おう、それなら全員揃わねえとな」
そういって合図をするとどこにいたのか、たくさんの男たちが出てくる。
「余裕でいられるのも今のうちだ。」
「シャル、リザイナ。二人を頼みましたよ」
イレーネはそう言うとクレナと恭珠に魔法をかけた。その瞬間二人の視界が闇におおわれた。
そしてリザイナとシャルロッテは結界を張った。
様子は見えないのだが、音は聞こえる。なんと言うか...かわいそうだ。
壁が崩れる音や何かが壊れる音の他にも悲鳴などが聞こえる。それに何かが折れるようななんとも鈍い音もする。
「うわ、もう残りほとんどいないじゃん。早いな」
「と、言うか。だいぶやったね」
確かに静かになったと思ったらそう言うことかと納得した。
「く、来るな!」
おっさんの声が聞こえた。
「何をいってるんです?逃がすわけがないでしょう?」
いつもとは違うイレーネの声がしてドサッという音がした。
次に武器がぶつかり合う音が聞こえた。
「ほう、竜族ですか。でしたら、大丈夫そうですね。」
今度は武器の音に魔法の音も加わった。するとすぐに「グゥ」という何かを堪える声と叩きつけられるような音がした。
「あら、もう終わっちゃったよ」
シャルロッテののんきな言葉が聞こえた。
「もう、いいんじゃないですか?」
「ちょ、ちょっと待って。これなんとかするから。」
それからしばらくの間があって「いいよ」と言われた後に結界も闇も晴れた。
そこは、元々あった建物に穴が多数空いていた。そして血がついている。
そしてなによりイレーネの足元にはおっさんと眼光が強い人が倒れていたのだ。後で尋問するらしい。
「もう、帰ろうぜ」
と、少し嫌そうな顔をしているリザイナが言ったので全員で魔法陣に乗って帰る。
ついた先は王宮だった。
そこではシュバルツと宰相達がいた。
シュバルツはクレナを見つけると安心したように微笑んだ。
「クレナ」
「....お父様~!」
クレナがシュバルツさんの元に走っていった。そんなクレナをシュバルツさんは抱き締めていた。
いくら王であろうともシュバルツも父親なのだ。相当、クレナのことが心配だっただろう。
そんなシュバルツとクレナが離れたところを見計らって宰相が声をかけた。
「陛下、クレナ王女、そのくらいでお願いします。」
「いや、それにしても、二人ですべてを終わらせるとはさすがだな賢者殿」
その言葉を聞いてリザイナはばつが悪そうな顔をシャルは苦笑いを浮かべていた。
「....三人目の協力者がいたんですよ。」
そういって二人は後ろにいる人物を見せるために横に動いた。
三人目の協力者を見たとたん、皆一様に幽霊でも見たような顔になっていた。
「言ったでしょう?そう簡単にくたばらないと。」
それを聞いた瞬間。皆、涙が溢れそうになっていた。
「まあ、説明は後です。クーデターはどうなっていますか?」
イレーネのその言葉で一気に表情が引き締まる。
「ここと、ここが厳しいですね。」
「では、賢者が手伝いましょう。シャルはここに、リザイナはここに行ってください。」
「「了解」」
二人はすぐにそこに向かった。
なんと、今まで苦戦していたが、賢者が行ったところ、すぐに戦況はひっくり返り見事制圧に成功したそうだった。
その間、イレーネは一度、転移陣を使いナイラとフィナをつれてきて恭珠とクレナの治療をさせていた。
周りにいるものたちは皆一様に賢者たちの力に終始圧倒されていたのであった。




