30、王城散策
久しぶりの恭珠視点です。
いやー疲れた!舞踏会で体力も精神力も削られちゃったよ。眠い....もう無理だ。
私はベッドに倒れこむとすぐに眠ってしまった。
コンコン
「恭珠様、お目覚めでしょうか。」
「.....はい、起きてまーす」
「もうすぐ朝食のお時間にございます。また、お呼びしますので準備をよろしくお願いします。」
「....は~い」
…...すぴーすぴーすぴー
「恭珠様、お呼びに参りました。」
「....は~い....は、やばい、寝過ごした~!わ~、ごめんなさい!ちょっと待っててください!」
バサッ、ズッ、カラン、バーン、ズズズ、ドーン
「はい、できました!」
扉を開けたらメイドさんがくすくす笑っていた。ははは、やっちゃったよ...
「おはようございます。ごめんなさい、寝過ごしました!」
いつもの場所に向かうともうみんな揃っていた。でも、クレナとシャルさんは眠そうだ。いつもはシャキッとしてるのに...
朝に弱いのかな?
「おはよう、恭珠さん。まあ....クレナも昨日の舞踏会で疲れ切って眠そうだからね、しょうがないよ。まあ、とりあえずいただこう。」
陛下はシャルさんのことは言わなかったけど一瞬視線がそっちに向いていた。
まあ、特に気にすることなく食べ始める。
「慣れないことほど疲れるものはありませんよ。眠いのも仕方ありません。」
「そうだよ、ふぁぁぁ。…私も眠い。ギリまで起きないからな~」
ど、同感です~。私はそんなことを思っていた。
「シャル、今日は魔術の研究設備を見せてもらうんじゃないの?楽しみにしてたじゃん」
その言葉を聞いた瞬間シャルさんはシャキッと音が付きそうなほど背筋が伸びて、いつも通りになった。今の言葉で眠気が吹っ飛んだみたいだ。
「そうだよ!いいんですよね?陛下」
瞳をキラキラさせながら陛下に聞いた。
「ああ、もちろんだ。その代わり、そちらからもアドバイスなどをいただきたい。両方にとって利益があるから大歓迎だ。リザイナ殿もお願いしますよ。」
「はい!もっちろんです!」
「ええ、そのつもりです。」
二人とも答え方は違うけど嬉しそうだ。リザイナさんも結構楽しみみたい。
「クレナと恭珠さんは城を見て回るんじゃなかったかしら?」
「はい、おばあ様。…図書室などを主に見せたいと思います。」
「確かにあそこの蔵書量はだいぶのものだものね。私も初めて見たときは驚きましたもの。」
「本は好きなので楽しみです!」
私が元気にそう告げるとみんな微笑んだ。
「わかっていると思いますが、仕事の邪魔はしてはいけませんよ。」
キュラスさんそっくりの言い方なのでどうしても笑ってしまいそうになる。
「どうしたの?恭珠さん」
私が必死に笑いをこらえていると王妃様が声をかけてきた。
「フロワール、恭珠は私と母上の言い方がそっくりなので笑っているんですよ。」
キュラスさんに図星をつかれてしまった…なかなか鋭い....
「まあ、そんなに似ていますかね?」
「はい、母上の方が物腰は柔らかですが似ていますよ」
陛下も言っている。王太后様はどこか嬉しそうだキュラスさんは...わからない…
「恭珠~無駄だよ。イレーネ伯母さまはキュラス伯母様の時よりわかんないから…」
クレナにも言われてしまった。なんでみんなわかるの?
「顔に出てるんだよ、全部書いてある」
「…そんなに出てますか?」
「「「うん」」」
「ああ」
「「「ええ」」」
言い方は違うがみんなが認めている。そんなに出てるのか…ちょっと落ち込む。
「まあ、ここの図書室はすごいですよ。楽しんできてください」
「…はい」
キュラスさんが励ましてくれたので少し元気が戻った。その後も談笑しながら食事を済ませると私はクレナに城の中を案内してもらうことになった。クレナもすっかり目が覚めたようだ。
「じゃあ、案内していくね。広すぎて全部言うとだいぶかかるから主な場所だけ紹介するね。」
クレナのあとについて城の中を歩いて行く。最初に立ち止まったのは訓練場のようなものだ。
「う~んとね。ここは騎士団の訓練場、この国は騎士団と軍があるんだけど、騎士団は主に貴族かな?」
そう言って中に入るとたくさんの人がいた。なんか、既視感を感じる。
更に奥に入っていくと摸擬戦が行われていた。何人かの男性がとびかかっている。どうやら一対多数の様だ。一人で相手をしているのは....キュラスさんだった。しかも、テンバール王国にいる時より容赦は無くなっている感じがする。
何人もの男性がキュラスさんに倒されている。
「次!」
キュラスさんの声と同時にまた切りかかっていく、周りの人たちはだいぶ疲れている感じがするのにキュラスさんは疲れが見えない…化け物だ....。
「クレナ殿下、お久しぶりにございます。」
横から一人の男性が表れた。
「お久しぶりですね。オルワイズ卿」
クレナがにこやかに答えた。私が『だれ?』と思っているとクレナが紹介してくれた。
「恭珠、こちら前騎士団長のオルワイズ卿、オルワイズ卿こちらはテンバール王国から来た私の学友、恭珠です。」
「初めまして、今は騎士団長補佐をやらせていたたいております。ジーエラ・ブル・オルワイズです。」
「初めまして。火丸恭珠です。あのさっそくなんですけど、これはいったい…」
「ああ、いま訓練をしているんですよ。まあ、だいぶ時間がたってるんですけどイレーネ殿下はずっとあんな感じですよ。疲れた様子が一切ないのです。師の一人として誇りに思います。」
「え、キュラスさんの師匠なんですか?」
「キュラス?ああ、イレーネ殿下ですね。ええ、そうですよ。幼少の時、現スペルディア大将軍と共に剣術を教えていました。」
「ってことはオルワイズさんも相当ですよね?」
「いいえ、そんなことはありませんよ」
「うん、すごいよ。騎士団長として皆を率いる力はもちろん、剣の腕前も群を抜いてた。」
「私たちが指南をしていたのはこの国を出るまでのわずかな時間ですから。....そろそろ、中断させますか。それでは失礼します。」
そう言い残し行ってしまった。
「と、とりあえず次行こうか....」
その後は魔術の研究施設と薬学の研究施設に行った。
すると案の定シャルさんとリザイナさんがいた。二人ともいろんな人と意見交換をしたり専門的な話をしたりしていた。なんだかとても生き生きしている気がする。
「そうだな~、あとは執務棟ぐらいだし、図書室は最後にしたいから....」
クレナが独り言を言いながら悩んでいるとき、ふと私は窓の外に目をやった。そこは庭でたくさんの花が咲き誇っている。
「恭珠?」
気付くとクレナが不思議そうにのぞき込んでいた。
「ああ、ごめん。次はどこに行くの?」
「どうかした?恭珠。なんか一瞬別人みたいに見えたんだけど…」
「う~ん、あそこに行ってみたいと思ったんだ」
「…ああ、中庭。いいよ、今はたくさんの花が咲いてるよ。」
そう言い、クレナは中庭に案内してくれた。そこにはたくさんの種類の花が咲き誇っている。
ここだけ一際、鮮やかに感じられた。
ふと、私は何かに引き寄せられるようにある花の前まで歩み寄る。
それは、薔薇だった。美しく咲き誇る大輪の薔薇。私は何かがこみあげてくる感じがしてその薔薇に見入っていた。突然誰かの声が聞こえた。
『あ、薔薇が咲いてる~!きれいだね!』
『あ、本当だ。ここで咲いてるのは珍しいな』
『この薔薇なんか不思議だね。好きだな~』
『この美しき薔薇を君たちに捧げよう…』
『....何してんのローゼ。』
『いや~、何かやってみたくなっちゃって…』
『びっくりした。まあ、様になってた....か?』
『いや~、それはないね!』
『ルク~!ひどいよ!』
『そんなことない…とは言えないかも…』
『アリスも~!ザラはわかってくれるよね?』
『うん、皆と同意見』
『ザラまで~~』
『『『ハハハハハ』』』
なんだろう、懐かしい。いつの事だろう?この人たちは誰だろう?なんか知ってる気がするんだよね~
ふわふわする頭で考えていた。
「恭珠!」
急に名前を呼ばれて両肩に手を置かれた。
フッと我に返るとクレナが目の前で心配そうな顔をしていた。
「え、クレナ?」
「恭珠!?大丈夫?体調悪い?」
クレナに矢継ぎ早に聞かれてたじたじになってしまう。
「い、いや、ちょっと待って。べ、別に大丈夫だけど...どうしたの?」
「恭珠が急に薔薇を見上げたまま黙って動かなくなっちゃってたんだよ!」
「え、ああ、ごめん、何かわからないけど懐かしいものを思い出してた。」
「じゃあ、大丈夫なんだよね!?今日は、やめとく?」
クレナのその一言に私は驚いた。
「だ、ダメだよクレナ。まだ図書室行ってないじゃん!あそこは絶対行きたい!」
「…ほんとに大丈夫なんだよね?」
「もちろん!さあ、早く行こう!」
クレナはまだ何か気になっているみたいだけど案内してくれた。中庭から少し歩くと大きな扉があった。
その扉を開けて中に入るとそこには大きな本棚がたくさんあり本がぎっしり詰まっていた。
「す、すごい!」
私がそれに飲まれているとクレナは自慢げに紹介する。
「ふふ、すごいでしょ。ありとあらゆる本があるんだ。こっちのカウンターのところにいる司書に探したい本とかを言えば場所を教えてくれたり用意してくれたりするよ。」
「すごく便利なんだね。」
「うん、それでこっちにねえ。」
そう言って歩くクレナについていくと机といすが置いてあった。
「ここに座ってゆっくり読んだりしてもいいんだよ。恭珠、小説好きだったよね。私のお勧めはねえ」
そうつぶやきながら探すクレナの目に一つの本が目に留まった。それは机の上に置き去りにされているとてもきれいな本だった。
「すごくきれいな本だね。」
「うん、でも、題名が書いてない本なんてここにあったかなあ」
そういいながらクレナがその本を手に取ろうとした瞬間私は悪寒がした。その本には触れちゃだめだ。勘だがそう思ったのだ。
急いでクレナを止めようとしたけど間に合わない。クレナがその本に触れてしまったのだ。
その本から手を離させようとしてクレナの腕をつかんだ瞬間私の意識は途切れた。
最後の最後に何かに包まれるような感覚はしたけど、意識が途切れてしまったのでわからなくなってしまった。
その日、その瞬間にその本と二人は図書室から消えてしまった。