29、王城襲撃
~シャルロッテとイレーネが踊っているとき~
「ねえ、イレーネ。いつ潜入するの?」
「そうですね、今日行ってもいいですよ。舞踏会なので警備が厳重になっているのではないですかね。」
「そっか~。じゃあ行っちゃおう!」
「シャル、見た感じではどうですか?」
「う~ん、緩いね。わざと?って思うくらい。
これじゃあ、迅速になんて到底無理だね。あのさ、こっちの部隊ってどんな服装?」
「真っ黒です。目だけ出ているはずですが。」
「そう、所々にグレーっぽい感じの装束の人がいる。狙いは国王。貴族たちは目に入ってないもん。」
「終わってからですかね。」
「うん、だと思うよ。全く、気付いてないのかな?」
「ええ、気付いていないのでしょう。すでに落第ですね。終わり次第シュバルツの私室に行ってください。
私も狙いの一つでしょう。シュバルツに並ぶ影響力を持っていますからね。」
「わかった。来たやつ、全部処理した方がいい?」
「いえ、最初は気配を消して傍観していてください。
あなたなら影たちの強さがすぐにわかるでしょう。誰にも気付かれないようにお願いします。絶体絶命になった時に出ていって処理してください。」
「は~い!いつものでいい?」
「別にいいですよ。ばれても問題ありませんから。」
そう締め括ったときちょうど曲が終わった。
「ねえ、曲が難しいのって嫌がらせ?」
「ええ、恥を欠かせたいんでしょう。無理ですけどね。」
そう言って二人は戻っていった。
舞踏会が終わったら動くつもりで.....
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舞踏会が無事終わると皆それぞれの家へ帰っていった。
賢者と王族たちもそれぞれの私室へ戻っていった。もちろんそれはイレーネとシャルロッテも同じだった。
だがシャルロッテは部屋に入るとすぐに闇に消えどこかに消えてしまった。
シュバルツは報告を聞くために執務室にいた。 しかし、まだ来ていないようだったので書類に目を通しながら待っていることにした。
だがいつまでたっても現れない。
「陛下、ご報告があります。」
「ラウ、何か起こったか?」
「はい、先程怪しいものが見つかり処理しに行った者がやられていました。」
「城の警備は?」
「はい。ただいま、そこかしこで戦闘が起こっているようです。また、その他にも屋敷がいくつか襲撃されている模様です。」
「賢者殿たちには現状を伝えて警戒を促せ、恭珠殿やクレナ、王妃、王太后の警備を固めよ。随時新たな動きがあれば知らせろ。」
「ハッ」
そう言うと黒装束の者はどこかに消えた。
シュバルツはわからないでいた。この襲撃が何を狙ったものなのか、何が目的なのか....
悶々と考えているとまた新たな報告が入る。
「報告します。イレーネ殿下のもとにクレナ殿下と王太后様がいらっしゃいました。そしてそこが襲撃された模様です。
ですが、そこにいた者たちで返り討ちにしたようです。」
「わかった。警戒を怠るな。」
ここまで来てシュバルツはようやく気付いた。この襲撃は王族を狙ったものだということに....
そしてそれに対抗するため王族の警備を固め。影の部隊を総動員させた。
だが、彼は一つ見落としていた。
このときに王妃が襲撃されたという報告が無かったことを、自分の警備が十分でなかったことを.....
急に執務室に新たな気配が現れる。その瞬間殺気と緊張感がその場を走った。
入ってきたのはグレーの装束を身に纏った数人だった。そこで黒装束の者たちとの戦闘が始まる。どちらもいい動きをしているが少しグレーの装束の方が優勢になっていた。
戦闘をしている後ろにいる守るべき主への注意が散漫になったとき、もう一人のグレーの装束の者が現れる。シュバルツも気付いていない。
グレーの装束の者がシュバルツの命を刃で刈ろうとした瞬間、体が氷に貫かれていた。
「何が起こった」そう言おうとした者は最後まで言わないうちに絶命した。
そこにいた全員が気付かなかった。いや、気付けなかった一人が氷の魔法で処理したのだ。
その者はその冷たい眼差しと氷の魔法を駆使しながら処理して行くことで知られていた。その者にかかれば何が起こったかわからないうちに殺られる。会ったら勝ち目はないと言われている『氷の死神』その人だった。
その人は戦闘で優勢になっていたグレーの装束の者たちを意図も容易く片付けていった。
その手際は鮮やかで見るものすべてを惹き付けた。紅い血が舞っている様子すら美しいと感じてしまうようなものだった。
グレーの装束の者たちの処理が終わりその人が氷のような眼差しでこちらをいすくめたとき、ようやく我にかえり黒装束の者がシュバルツを囲み、警戒した。その手は、わずかに震えていた。
「全く、不甲斐ない。主を守れずに今さら何をしているの?」
その人、『氷の死神』が問いかけた。そして無言で切りかかって来る黒装束の者たちを次々と倒していく。そして最後の一人を倒したあとシュバルツの喉元に氷の破片を作り出した。
「大切な、守るべき主が殺されようとしているのにおまえたちは何もできない、いや、できなかった。」
その言葉一つ一つが心に刺さる。その部屋に沈黙が訪れた時、音もなくもう一人現れた。
「氷を離してくれますか。」
『氷の死神』は何も答えず消滅させた。
「この、主を守れず、また主のために死ぬことさえできない者たちに代わり報告しましょう。王城の襲撃をして来た者たちはすでに処理済みです。何人か残したので後で尋問でもなんでも、ご自由に。」
「お、恩に着る。お主たちは我らの味方か?」
「ああ、我は『氷の死神』と呼ばれる者」
「我は『闇の死神』と呼ばれる者。気付いていないようですが....私は『影の部隊』を鍛えてくれと言われた者です。」
「ま、まさか、姉上ですか?…ということは、こちらはシャルロッテ殿」
「全く、役たたずだね~!私がいなかったら王様死んでたよ。」
「私も同感です。この程度の者たちにも勝てないとは....『黒梟』と交換しますよ。」
「そ、それは申し訳ない。どうか、鍛え直していただきたい。」
「いいよ。さあ、いつまで倒れているの?不意打ちの一つくらい食らわせてみなよ。全く......」
この日から賢者たちが国に帰るまで地獄の訓練が始まるのだった。
ちなみにこの襲撃を知っているのはここにいる三人と賢者たちだけであった。