28、舞踏会
一章の登場人物紹介とここまでの話の大幅編集を行いました。内容は変更せずに言い回しなどを変更しました。
イレーネとイギルがシュバルツの執務室に入るとそこにはシュバルツだけでなくシャルロッテ、リザイナ、恭珠、クレナがいた。
「ただいま戻りました。久しぶりに疲れましたね。」
「お疲れ様です、姉上。何とかなりそうですか?」
「ええ、騎士団はジーエラ殿に騎士団長補佐という形をとってもらおうかと思っています。
軍の方は何とも言えないのであなた自身が近いうちにスペルディア大将軍に会ってきてください。」
イレーネはさらっと嘘をついた。この方がいいと思ったからだ。
「そうですか。騎士団からは騎士団長補佐に軍からは姉上を将軍にしたいと言われていますが…
本当に軍はうまくいかなかったんですか?」
「私自身と国は大丈夫でしたよ。スペルディア大将軍の流儀みたいな物です。自分で行って認めてもらってください。
それと詳しいことはオーディア卿に聞いてください。役職に関してはあなたに一任しますよ。」
「そうですか、ではそうします。」
「キュラス、軍服で行ったの?地味に似合ってるね」
「かっこいいですね~。私も着てみたいです!」
「騎士団に行くときはいつもの服装ですよ。軍なのでこれにしただけです。」
「イレーネ伯母様もお父様に呼ばれてきたの?」
クレナの問いかけにイレーネは軽く首を振る。
「いいえ、簡単に報告をするためです。なぜ揃っているのかが気になりましたが、そういうことでしたか。私は席を外しますか?」
「ああ、別に大丈夫ですよ。姉上にも関係はありますから。今度の王族主催の舞踏会で姉上が帰ってきたこととテンバール王国との友好を示そうと思っているのです。それで舞踏会に参加していただきたい。」
「ドレス…ですよね」
「はい、それでお願いします。」
準備が間に合うのかと思っていると
「ドレスの準備はすでにできています。後で試着をお願いします。ペンダントをつけたままの形でお願いしますね。それと、恭珠さんにも出席してもらうからね」
「ええええええーーーーーーーーーー!!!!!」
「諦めた方がいいですよ、恭珠。これでも一国の王ですからね。拒否権はないと思ってください。
....にしても、いつ用意したんですか?」
「ここに来る前から準備していましたよ。」
みな「え…」と思ったけど聞かないことにした。知らない方がいいこともあるんだ…きっと!!
「いつ行われるんですか?」
「明日です。夕方くらいから行われます。登場は王族と共にしてもらいます。私にしたような自己紹介とあいさつに来た貴族たちの話し相手をしていただければと思います。」
「皆さんってダンス踊れましたっけ?」
「うん、賢者は一通り踊れるよ。恭珠は….」
「...無理です。なんかうまくいかないんですよね。」
「でしたら、話をする程度にとどめましょう。」
その後も少し確認をした。
それぞれが部屋に戻る前にドレスを着せられ最終確認をさせられたのはみな同じだった。
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舞踏会の日当日。王城はあわただしく準備をしていた。最も手際がいいためそこまで時間はかからなかったが....
時間が近づいてくるとだんだんと貴族が集まり始めた。王族主催の者なのでよほどのことがない限り招待状が届けば来ている。
皆、きらびやかな装いだ。時間になると音楽が鳴り始めダンスを踊ったり談笑したりしていた。
そんな中、賢者たちと恭珠、王族は準備を終わらせて談笑していた。イレーネ以外の賢者と恭珠はいつもは着ないドレスや舞踏会が慣れないのでそわそわしていた。王族たちは緊張などは一切していない。もう慣れたものなのだ。イレーネももとはといえば王族なのでそんなに気にしていないようだった。
「皆様、そろそろ御入場をお願いします。」
侍従が呼びに来た。私たちも王族が出入りする扉から入るのだ。一応賢者達は国賓扱いされている。落ち着かないが仕方ないのだ。
会場に入るとたくさんの着飾った貴族たちが頭を下げていた。
「面を上げよ」
いつもとはまるで違うシュバルツの声が響く。
「今回テンバール王国から三人の賢者殿がきた。 この機会に我が国とテンバール王国は友好を深めることとした。」
「氷の賢者シャルロッテ・カイヤナイトです。」
スカイブルーのドレスを着たシャルロッテが柔らかく一礼する。カイヤナイトのペンダントを着けている。
「地の賢者リザイナ・アンバーです。」
緑色のドレスを着たリザイナが凛とした礼をした。アンバーのペンダントを着けている。
「闇の賢者キュラス・アメジストです。」
赤紫のドレスを着たキュラスが優雅に一礼する。アメジストのペンダントを着けている。だが、髪と目は紫色だ。
「キュラス・アメジスト殿はこの姿だが『漆黒の竜』である我が姉イレーネだ。」
シュバルツの言葉と同時にイレーネは目を閉じた。すると髪の色が黒に代わり一房だけ白いイレーネのスタイルになり目を開けた途端に威圧とオーラが会場を包んだ。
「我が姉はテンバール王国の闇の賢者でありこの国の王族だ。それを忘れるな。では、これより舞踏会を始める」
そう宣言するとまた音楽が鳴り始めた。順に椅子に座るとすぐに貴族たちがあいさつに来た。その中でもイレーネに対しての態度はまちまちだった。あからさまなものだと
「お戻りになられたのですねイレーネ殿下。あちらでは闇の賢者をしているのですね。お選びになった方とぜひお話しをしてみたいものです。」
「ええ、テンバール王国は実力重視ですから私を選んだ方も優秀で柔軟な考えの持ち主ですよ。きっと、有意義な時間を過ごせるかと」
と言ってくる者もいた。意訳すると
『今更戻ったんだイレーネ殿下。あっちで闇の賢者なんかしてんだな。選んだやつの顔が見たいわ』
『テンバール王国は実力重視だから私を選んだ人も誰かと違って頭が柔らかくて優秀なんだよ。きっと何も理解できない時間になるよ』
という感じだ。
逆に歓迎するような人だと
「おかえりなさいませイレーネ殿下。お戻りくださったこと心よりお喜び申し上げます。」
「ありがとうございます。これから陛下をサポートしていこうと思っています。」
なんて感じだ。全然違う。
いろんな挨拶を受けてやっと列が途切れたシュバルツがフロワールの手を引いてダンスホールに歩み出たのだ。
二人ともとても優雅にダンスを踊っていた。難しそうなところも難なくこなしている。見入っていると急にイレーネが立ち上がった。だが、その姿を見て皆一様に驚いた。男装をしていたのだ。
そしてそのままクレナのもとへ行くとダンスへ誘う。クレナも驚いていたようだけど手を取りダンスホールへ歩みだした。
曲がちょうど変わり少し早いものとなった。だが、国王夫妻もイレーネとクレナも難なく踊っている。他の貴族たちも見入っているようだった。 クレナとイレーネは一曲踊ると戻ってきた。
「ねえ、キュラス。私とも踊ってよ!」
シャルロッテさんが声をかけた。
「連続ですか。まあ、いいですけどね。」
そういって今度はシャルロッテと踊り始めた。さっきよりも曲調が早くなり難しくなっていった。だが、二人は余裕で踊っている。しかも何か話しているのだ。あれでよくずれないなと恭珠は思うのだった。
踊り終わって戻ってくると男装からドレス姿に戻っていた。結構楽しんでいたようだ。
結局、イレーネは全部で五回踊っていた。