27、軍の摸擬戦
「さて、次は軍ですね。大体の様子を教えていただけますか?オーディア卿」
「はい、そうですね。騎士団のように腑抜けているというようなことではないです。訓練などもしっかりやっております。
ですが、何と言いますか、王家に協力的ではないと言いますか....。」
「協力的ではない、ですか…..」
「はい、反発するというわけではないのですが、先代の国王陛下の時とは態度が違うような気がしまして....」
オーディア卿もはっきりと言えないようで少し考え込む。
「....そうですか、まあ、行ってみればわかるでしょう。私も軍で学んだことがありますからね。 それで、今の大将軍は誰ですか?」
「あの時から変わらず、ワイト・ブル・スペルディア大将軍です。」
「スペルディア大将軍ですか....。私はあの方とジーエラ殿に指導していただいたのですが....今は結構な年になっているのではありませんか?」
イレーネの問いかけにオーディア卿は苦笑いを浮かべた。
「はい。ですが『まだまだいける』とのことでして自ら前線に立っておられます。」
「前線…まあ、スペルディア大将軍らしいですね。」
幾らか情報をもらったところで軍の訓練場についた。イレーネは先ほどとは変わり軍服に着替えている。
黒に金のボタンが二列ついている。後ろが長くなっているタイプのものでいつもと変わらず踵の高いブーツをはいている。
イレーネとオーディア卿が顔を出すとすぐにスペルディア大将軍より『早く中に来い』と、伝言が来た。
中に入ると作戦室のようなところに案内された。
「おお、やっと来たか。まあ、イレーネ殿下が来るとは思わなかったがな」
そう言って笑うこの人こそワイト・ブル・スペルディア大将軍である。先代の国王よりブルの名をもらっている実力者で幼いころのイレーネの師なので軽い口調で話している。
同じ『ブル』の名をもらっているジーエラ・ブル・オルワイズ卿とは大違いである。
「スペルディア大将軍、さすがに不敬なのではないですか?」
「そう固くなるな、イレーネ殿下も何も言わないだろ」
「いいですよ、オーディア卿。昔からこんな感じですから。」
まだ、どこか気になるようだったがすぐにオーディア卿は下がった。
「さて、では本題に入らせていただきます。王家に協力的ではないと伺ったのですが、理由を教えていただけますか?
ここでは、何を言われても不問とします。」
「うーむ、王家と言うより今の国王にと言うのが正しいか。」
「それは、どういうことでしょう?」
「これは俺なりの流儀だ。自分自身の目でその代の王や王族を見極めて従うか否かを判断している。先代の国王にもそうしてくれと言われていてな。」
「では、陛下が信用ならないと、そういうことですか?スペルディア大将軍」
「そうかっかするな。別に信用していないわけではない。ただ、騎士団があの状態だったものをどうするか見てみたかったのと国王が一度も此処に来なかったのが気になってな。正直に言えば、判断に迷っていた」
「そうですね.....。オーディア卿、シュバルツがここに来る予定はありますか?」
「確かあったはずです。これまでも何度かありましたが騎士団の問題と『最強の竜』の件が重なり来るに来れない状態となっておりました。」
「まあ、確かに最近はいろんなことが重なっていましたからね。」
「たしかにな。ちなみにイレーネ殿下はこれからどうする?」
「そうですね。あっちでも将軍をやっておりますし、いろいろ忙しいのです。
ですが魔法陣を設置したので、それで行き来しようと思っていますよ。それにシュバルツからも騎士団と軍、影の部隊を任されていますから」
「と、言うことは殿下が国の戦力をすべて請け負うのだな。だが、あちらの王国の戦力も知っているわけだろう。戦になったらどうするつもりだ?」
「テンバール王国の陛下には『もし、テンバール王国とミラルーシェが戦うことになったら。迷うまでもなくミラルーシェにつきますからね』と言ってあります。あの陛下ですから自殺行為はしませんよ。」
「そうか。今は、将軍をしているんだったな。どうだ、俺と摸擬戦をしないか?
もし勝てたらこの時をもって認めることにする?どうだ?」
「....いいですよ、久しぶりですね。スペルディア大将軍ならば思いっきりやれますから。」
急な展開でイギルは戸惑っているようだったが私たちは立ち上がり武器の準備をしていた。
「では、オーディア。お前が審判をしろ。不正をするなよ」
「はい、わかっております。これでも陛下よりローグの名を承った騎士、泥を塗るようなことは致しません。」
「オーディア卿なら大丈夫ですよ、スペルディア大将軍。」
「ほう、そうか。では、弟子の成長を感じるとしよう。」
そうして、イレーネとスペルディア大将軍は訓練場に移動した。
イレーネはいつも腰に携えている細身の剣をスペルディア大将軍は大剣を使う。周りには摸擬戦を一目見ようとたくさんの軍人が集まってきた。 イレーネも髪をポニーテールにして準備は整った。
二人が向かい合い一礼をした。お互いの武器を構える。
「はじめ!」
声が響き渡った。
次の瞬間キンッっと剣と剣がぶつかる音がした。
一瞬でイレーネがスペルディア大将軍のもとへ接近したのだ。だが、スペルディア大将軍も危なげなく受け止めて払った。
イレーネが少し飛んで後ろに下がった時今度はスペルディア大将軍が仕掛けた。
ガギンッガギンッっと重い音が響く。大剣はとても重いはずなのに軽く振り回している。だがイレーネも受け流しながら一瞬のスキをついて突きを繰り出した。
だがすぐによけて払われてしまった。それでも、イレーネは三発ほど払いを繰り出している。スペルディア大将軍も大剣で受け流したりよけたりしている。
もしここにクレナや恭珠がいたらいったい何をしていたのか見えていなかっただろう。それほどの早さなのだ。見ている軍人でもいくつかわからない部分があるくらいだ。
戦い方はイレーネはスピード、スペルディア大将軍は力をメインに使っている。だがそれ以外にもたけているため、あまりわからない。
だいぶ、近い状態で打ち合った後、二人とも、後ろに飛びのいて距離を取った。そして武器を構える。
まだ、息は切れていないようだが、だいぶの数を打ち合っている。見ている側も『もうすぐ決着か』とわかるような空気があった。静まり返り張りつめた空気の中、同時に動いた。スペルディア大将軍が放った大剣の払いをギリギリのところで躱しそのすきにイレーネは後ろへ回った。
どちらが勝ってもおかしくない、いやまさにわからなかった。見たときにはお互いの首に剣が突き付けられていたのだ。オーディア卿でさえどちらが勝ったかわからなかった。
「強くなったな、イレーネ」
「私も楽しかったです。スペルディア大将軍」
二人はそのままの状態のままそう言った後、剣を下した。
「引き分け、ですか?」
「ああ、そうだな。まあ、勝敗は決まらなかったが俺は認めよう。」
「ありがとうございます、スペルディア大将軍。後ほど、シュバルツをこちらに向かわせましょう。」
「うむ、それとだ。イレーネ殿下、こちらでも将軍をやらんか?俺と共にこやつらを鍛える気はないか?」
「そうですねえ。騎士団からもお誘いを受けておりますので、近いうちに答えを出しましょう。」
スペルディア大将軍とイレーネは和やかに話していたが周りで見ていた者たちは圧倒されて動けず、オーディア卿でさえ固まってしまっていた。
この出来事は後に伝説となったのであった。




