26、騎士団の改革
「いかがでしょう?イレーネ殿下」
『どうせ何もわからないだろうがな』そんな声が聞こえてきそうな態度だった。
「ふむ、そうですね。私はあなたを尊敬しますよ、ディラ・オルワイズ騎士団長」
『ふ、当然だろう』という心の声が顔にすべて現れていた。
イギルとイレーネが『これが騎士団長で大丈夫なのか?』と、心配になるほどに。
「先代のジーエラ・ブル・オルワイズ騎士団長に率いられていた洗礼されて、忠誠心に満ち溢れ、また、強かった騎士団をこんな腑抜けにしてしまったのですから。」
「は?」
「それとも今日だけこのようなものなのですか?オーディア卿」
「いいえ、代替わりしてからというものジーエラ様と共に騎士団を牽引してきた優秀な方々が次々にやめていくのが気になっていました。このような事態なら致し方ありませんね。」
「き、貴様、何を言って!」
「おや、何を言っているのでしょうか?
あなたごときがオーディア卿にそのような口をきいていいのですか?」
「ああ、いいに決まっているだろう。奴は騎士団の一人だ。そして騎士団のトップはこの俺だ!騎士団にいる限り俺が絶対だ!」
ディラ騎士団長がさも当然という風に言い放った。
イレーネの体が小刻みに震えていた。それに気づいてオーディア卿は心配そうな顔をディラ騎士団長は得意げな顔をした。きっと、ショックを受けたのだと思ったのだろう。
「あっはははははは!!」
次の瞬間、イレーネが笑い始めた。体が小刻みに揺れていたのは笑いを抑えていたからであった。
周りにはイレーネのことをよく知らない者たちばかりなので、驚いて不審そうな顔をしていた。 もし、ここにイレーネのことをよく知る人物がいたら『あーあ』と、思っていたに違いない。
「な、なにがおかしい!!」
ディラ騎士団長が叫んだ。
「『何がおかしい』ですか。そのおめでたい頭で少しは考えたらどうです?」
イレーネの言葉がいくらかとげを帯び冷たくなった。そうイレーネは怒っていたのである。ほんの少しだが…
周りの温度が数度下がりいくらか息苦しくなった。
「まったく、騎士団長ともあろうものがそんなことも理解していないとは片腹痛いですね。ジーエラはいったい何を教えたのやら....
いえ、違いますね。あなたのその頭が理解できていなかったか、すぐに葬り去ったかのどちらかでしょう。あの者がそのようなことをするとは思えません」
イレーネは微笑んでいた、それも威圧感を感じるものだったが。
「丁寧に教えてあげましょう。あなたはすでに二つやってはいけないことをしました。それがなんだかわかりますか?」
まるで幼子に諭しているようなものだった。
「そ、そんなことをした覚えは、な、ない」
「黙りなさい」
一気に威圧感が増した。イレーネの口調はあくまで静かだったが相手を震え上がらせるのには十分すぎるものだった。
「まず一つ、あなたはオーディア卿の騎士としての誇りを踏みにじりました。オーディア卿は陛下の護衛騎士...側近です。それもローグの名を持った、です。これがどういうことだかわかりますか?」
イレーネの問いかけに何かに気付いたようだった
「そう、まず護衛騎士が従うべきは主です。騎士団長ではない。それを分かっていなかったようですね。
これだけでも、騎士団長にあるまじき事ですが....。
そしてもう一つ、ローグの名を持ったオーディア卿は、もうすでに陛下直属の部下です。オーディア卿を侮辱することは陛下を侮辱することです。
.....この意味が分かりますね?」
顔色が一層悪くなった。
「あなたは陛下に対して不敬罪を犯したのです。ですがそれは陛下だけではありません…あなたは先ほど『何がおかしい』と、言いましたね。私に対しての不敬罪ですよ。首が飛ぶのは必然ですね。」
イレーネはクスクスと笑う。
ディラ騎士団長はもうどうしていいかわからないような顔をしていた。
「お待ちください、イレーネ殿下!」
急に低い覇気のある声が響いた。
声が聞こえた方を向くとそこには先代の騎士団長ジーエラ・ブル・オルワイズがいた。イレーネのもとへ行くと平伏する。
「殿下。私の愚息の不敬、当人に代わり謝罪いたします。」
「何の用です?ジーエラ」
イレーネは変わらず威圧感がある声で話している。だが、ジーエラにひるんだ様子は一切なかった。
「今回の騎士団が腑抜けになってしまった責任は私の愚息にあることは否定いたしません。
ですが、今まで様子を見ず、野放しにしていた私にも責任があります。」
「ほう、どのようにするというのですか?」
幾分か声が柔らかくなった。
「騎士団長の位を他の優秀なものに譲りましょう。そして、名字を無くし、家をとりつぶしてください。
それでも足りなければ、私の命を持って償いましょう。」
「それは、本気で言っているのですか?」
「はい、本気です。このような愚息でも子であることに変わりはありません。国外追放していただいてもかまいません。
.....それに、イレーネ様が何の考えもなしに感情だけでこのようなことをするとは思えません。どうか、私に免じて寛大な処置を」
イレーネは冷酷ともとれる笑みを浮かべた。
「お前がそうでも当人はどうなのですか?親がここまで言っているのです。何かないのですか?」
「は、はい。お、お、お願いします。ち、ち、父のいのちをと、と、取るのはおやめください。わ、私がすべて悪いのです。」
「命、ですか....。しかし、私はあくまではこの状況を改善するために来たのですよ。あなたたちの願いは聞き入れられません。」
「そ、そ、そんな」
ディラ騎士団長はこの世の終わりとも取れる顔をしていたが、ジーエラは違った。
ほっとしたような顔をしているのだ。ジーエラはイレーネの幼いころの剣の師でもある。よき理解者なのだ。
「話を最後まで聞きなさい。
まず、ディラ・オルワイズ、あなたの命は私が握っていることを忘れてはなりません。
あなたを軍に入れます。名もなき一軍人からの出発です。あそこは完全なる実力主義ですよ。命を落とすかもしれません。.....死んだら死んだで仕方ありませんけどね。
そこで生き延びてみなさい。何も頼れない中で自分の実力を試してみなさい。自らの浅はかさに気づくでしょう。それが分かった時もう一度私のもとへ来なさい。」
「は、はい」
「そしてジーエラ、あなたは騎士団を引退しましたね。あまり無理をさせたくないのですが…この騎士団を鍛えなおしてください。それと、次の騎士団長をあなたが選び、鍛えてください。
血筋や名字、生まれ等は気にしなくてもいいです。あなたの判断に任せます。
しかし、このままでは少し不便ですね…。」
イレーネは手を頬に当てて少し考える。
「では....騎士団長補佐という形をとることにしましょう。異論はありますか?」
「この事に関してはございません。
殿下、二つだけよろしいでしょうか?」
「なんでしょう」
「あとで少しご相談があるので時間を取っていただきたいのです。」
「いいですよ、もう一つは何です?」
「オーディア卿以外の全員が腰をぬかしてしまいました。その責任を取って、殿下も騎士団長補佐の地位にお着きください。。」
「…それは、まあ...陛下に聞いてみましょう。とりあえずは、これからよろしくお願いしますよ。ジーエラ・オルワイズ騎士団長補佐。」
「はい、イレーネ殿下」
これで、騎士団の問題が解決したのだろうか?と後から皆がそう思うような結果だった。




