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賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
1章 賢者との生活
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9、リザイナの仕事


「そういえば、恭珠って入学することに納得したの?」


「はい。キュラスさんと話して不安が減ったので行ってみようと思います」


「そう。ならよかった!」


 シャルさんは安心していたように見える。そんなに私が入学することが大切だったんだろうか?なんだか面倒をみてもらっている上に学校までというのは申し訳ない気がする。

 

「そういえばキュラスが模擬戦見せてたんだっけ?」


「はい!かっこよかったです!」


「前線に出て戦うことも少ないキュラスが見せたんだし、私もいいとこ見せなきゃだね」


 私には聞こえなかったがシャルさんが何かをつぶやく。そして私に向かって満面の笑みを浮かべた。私は一体どうしたのか分からなかったので首をかしげる。しかしシャルさんはそのままみんなの方に目を向けた。


「じゃあせっかくだし、今から私も魔法陣を展開しようかな。実害はない方がいいし幻術とかにしよっか。興味がある人は見てってね」


 その言葉にその場にいた人たちが目を輝かせる。私ももちろん例外じゃない。シャルさんは上着のポケットから折りたたまれた紙を取り出す。広げると大きめの魔法陣が描かれていた。複雑な模様なので描くのにどれほど時間がかかったのか気になるところだ。シャルさんはそれを見て少し考えるような仕草をしてさっと紙に手を滑らせる。何をしたのかはいまいち分からなかったけどそのまま紙を持って部屋の真ん中に行く。そして紙を下に置いて手を触れた。次の瞬間、パッと床に巨大な魔法陣が表れる。それに驚いていると、シャルさんは私の所まで戻ってくる。



「じゃあよく見ててねー」


 『パチン』と指を鳴らす。すると魔法陣から冷気をまとった巨大な龍と炎をまとった巨大な虎が表れた。どちらも本物ではないのか?と疑ってしまうようなリアルさと迫力がある。大きさも先程見ていた魔法とは比べものにならない。龍と虎はお互いをけん制し合いながら部屋の中を動き回っている。驚いたことに魔法陣の上から離れても姿は消えない。私たちの上を飛んだり、近くを通ったり、すり抜けたりしていくが熱さも寒さも感じない。私は幻術に夢中になっていた。


 そのまま見ていると、龍と虎は急に動きを止めたかと思うとにらみ合う。そして同時に飛びかかる。二頭が触れた瞬間、パッと炎と氷を残して消えていった。やがてすべてそのかけらが消え去った後シャルさんが頷く。


「うん。いい感じだね。これが私が描いた魔法陣だよ」


 一斉に拍手と歓声が上がる。私も惜しみない拍手を送る。本当に感動したし、魔法陣のすごさを思い知った瞬間だった。


「シャルさん!本当にすごかったです!あんなにリアルな幻術作れるんですね!」


「ありがとう。あれは昔作った物なんだけど今でもお守り代わりに持ってるんだ。喜んでもらえたみたいで良かった」



 シャルさんが私の方を向いて本当に嬉しそうに笑う。本当にすごい人だ。








___________






 シャルさんと別れた後、私は『薬学研究所』に向かった。どうやらリザイナさんがいるのはそこらしい。全く分からないが名前だけ聞いてもなんだか緊張する。教えてもらったとおりに進んでいくと『薬学研究所』と書くれた扉が見えてくる。周りに人はいないし、中は見えないので全くどんなところかは分からないが勇気を出してノックをする。勇気を出して開けてみるとロビーのようなところがあった。数人の研究者らしき人たちがいるがリザイナさんの姿は無い。キョロキョロしているとそれに気づいた男性が一人こちらに向かってくる。



「お嬢さん何かご用ですか?」


「あの…リザイナさんに会いに来たんですけど、いらっしゃいますか?」


「賢者のですか?失礼ですがお名前を聞いても?」


「は、はい。火丸恭珠です」


「火丸恭珠さんですね。少々お待ちください」



 男性は訝しげな視線を向けてきたがどこかに奥の方に行ってしまった。きっとこんな小娘が賢者に用があると聞いて不審に思ったのだろう。まあ怪しまれても仕方がない。落ち着かないままその男性を待っているとリザイナさんが出てきた。


「恭珠どうしたの?」


 リザイナさんは白衣を着ていて眼鏡を片手に持っている。どうやら急いで来てくれたようだった。別に急用などではないので、呼び出しておいてなんだが申し訳ない。



「リザイナさん!緊張しましたよー。キュラスさんのところもシャルさんのところもこんなのなかったですから怖かったです」


「ああ、確かにうちだけかもね。薬品がいっぱいあるからこういう部屋を一つ挟んでるの」


「危険な物とかもあるんですか?」


「あるよ。ちゃんと保管してるから勝手に触ったりしなきゃ大丈夫。ある意味一番危ないところかもね」


 それを聞いてすこし顔が引きつった。絶対リザイナさんから離れないようにしないと。変なの触って取り返し付かなくなったら嫌だし。



「まあ、中に入ろっか」

 

 そう言われたので大人しくリザイナさんについていくとそこは本当に研究所のようなものだった。一面に器具や瓶などが並んでいて、そこにいる人はみな白衣を身に着けている。たしかにリザイナさんもいつも白衣だよね。


「こっちに来て」


 キョロキョロしていると前を歩くリザイナさんに手招きされる。そのままついていくと奥の部屋に案内された。私の作ったのも見ていく?と聞かれたので素直に返事をするとたくさん薬品のようなものが並んだ棚から二本の瓶を持ってくる。


「こっちはね、イメージを実際のものとして作り上げることができる薬。もう一つは少しの間だけなりたい姿になれる薬。どっちか好きな方を選んで?」


 

 私は真剣に二つの瓶を見比べる。どちらも魅力的な薬だしとても興味がある。でもどちらかと言われたら…。私は一方を指さす。

 


「こっちにします」


「へえ、そっちにするんだ。それみんながいるところで使ってみなよ。たぶん驚くから」


 リザイナさんは悪戯っぽく笑う。その様子がとても楽しそうで私もつられて笑顔になる。



「わかりました。ちなみにリザイナさんはここで何の仕事してるんですか?」


「うーんとね、肩書きここの局長。賢者もやりながらだから来たり来なかったするけどね。基本的に薬の研究とか注文があった薬を作ったりしてるかな」


「すごいですね!だって所長って実力がないと認められないじゃないですか?」


「恭珠は私が賢者だからこの地位に就いたって言わないんだね」


 リザイナさんは微笑を浮かべている。しかしその目には諦めの色が見え隠れしていた。


「なんでですか?」賢者って国王と同等の権力持ってるんですよね?じゃあ別にそんな地位いらなくないですか?それに研究者の方達の様子を見ればリザイナさんが実力で勝ち取った物だって事くらい分かりますよ」


 それを聞いてリザイナさんは少し目を閉じる。何かを考えているようだったがすぐに目を開いて私に微笑みかける。


「そう言ってくれると嬉しいよ。ありがとう恭珠」



 リザイナさんの口ぶりからするとそういった類いの声を浴びせられたのだろう。いったいリザイナさんの何を見ていたらそんな言葉が出るのかと少し怒りを感じているとリザイナさんは私が選ばなかった薬を棚に戻しながら話を続ける。


「聞いてるかもしれないけど、キュラスは将軍だよ。闇の賢者だから闇将軍って呼ばれてるけどね。騎士団長は別にいるけどそれを補佐する地位なんだ。あとシャルは文化魔術局の局長だよ。その分野のトップみたいなものだからみんな忙しそうだよ」


「み、皆さんすごいですね。だって賢者のお仕事だって有るんですよね?」


「まあね。でも賢者は思ったより自由だよ。招集に応じられるなら城にいなくたっていいしね」


 それを聞いて私はある疑問が浮かんできた。この人達は自分の立場をより複雑な物にしている気がするのだけど、そうしてそこまでするのだろう。



「あの…どうして今の仕事もしているんですか?言ってしまえば自分一人で研究することだって出来ますよね?」


 どうしても聞かずにはいられなかったので、失礼かもしれないが聞いてしまった。リザイナさんは棚の扉をパタンと閉めてこちらに向き直る。


「やりたいと思ったからだよ。賢者になる前から進みたいと思ってた道だからどっちも諦めなかった」


 それじゃ理由にならない?とリザイナさんは続けるが私は大きく首を振る。むしろその姿がかっこいいと思えた。


「賢者って宝石に選ばれるから拒否権とか無いしね。ここまで来るのは大変だったよ。賢者だからって言われるのを防ぐために偽名で入ったからね」


 リザイナさんは懐かしそうに話しているがそんなこと出来るのかという驚きの方が勝る。なんかもう、やることがすごいな。真面目そうに見えるけどリザイナさんもやったのかーと漠然と考える。でもそこでそれは違うということに気づいた。真剣だからこそ、実力で評価される道を選んだのだ。


「ちなみにだけど…いや、これは本人たちから聞いた方がいいか」


「え、何のことですか?」


「いいや、何でもない」









___________





 執務室にいるキュラスの元にどこからともなく一人の仮面をつけた黒ずくめの男が現れた。キュラスは驚く様子もなく視線を向ける。


「キュラス様、国王陛下がお呼びです」


「わかった」


 それだけの短いやり取りをして男は消えた。その場所はキュラスの執務室であったが心なしかいつもより空気が重い。書類仕事をしていたキュラスは立ち上がるとすぐに国王の執務室に移動した。いつもと違うのはその動きが誰にも悟られぬように気配を消していたことだ。


 そこにはすでに国王の他にも王弟とシャルロッテと()()()()()が何人かいる。どうやら自分が最後だったようだ。キュラスがシャルロッテの横に並ぶと国王が口を開く。


「ここにお前たちを呼んだのは他国での件についてだ。内部を探らせるために潜入させていた者たちが捕らわれた」


 王弟が深いため息をつく。


「どうやら殺されてはいないようだ。だがこちらとしては優秀な者たちをここで失いたくない」


 シャルロッテはそれを聞いて片眉をあげる。


「私たちに『助け出せ』ということですね」


 国王と王弟は無言のまま頷く。私とシャルロッテの返事は決まっている。しかし面倒なことになったものだ。


「かしこまりました。最善を尽くしますが、最悪の場合は口封じをいたします。よろしいですか?」


「ああ。お前達で出来なければ諦めるしかあるまい」


 





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