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賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
1章 賢者との生活
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7、キュラスの仕事と恭珠の悩み


 朝に『用があるから来て』という内容の伝言を受け取った私は今シャルロッテさんの執務室にいる。


「も、もう一度言ってくれますか?」


「ん、だからねえ。王立学園の魔法学部への入学が決まったよ」


 今、私は本当に驚いています。だって何も聞いてませんからね。



「え、何でですか?だって急過ぎますよ」


「えっとね…。恭珠さ、魔法めっちゃ苦手でしょ?ここの学園の魔法学部は魔法について、すごく特化してるところなんだよね」


「皆さんが教えてくれればいいじゃないですか....しかも、相談なしって」


「まあまあ、これは賢者みんなで話し合ったんだよ。私たちが教えるより学校に行って他の生徒たちと一緒に学んだ方がいいってことでね。私たちだって学園に通ってたんだよ。そこで仲間とであったり成績を競いあったりしたんだよ」


「でも、納得できませんよ」


 そう私が反論するとシャルさんは大きくため息をついた。物分りの悪い私に対してなのかと思ったが少し違う気がする。



「だから私には無理だって言ったのに」


 少し投げやりな視線を下に向けながら何かを呟いていたが、生憎私には聞こえなかった。そして今度は諦めの混じった笑みを私に向ける。



「もうわかったよ。んじゃ文句はキュラスに言って。提案したのはキュラスだから」


 本当なら言うことを聞くべきなのだろうが私はまだ納得がいかない。だいたい私にだって意思決定権くらいあるだろう。こうなったら思ってること全部言ってやろうとシャルさんの言葉に勢いよく頷く。


「わかりました!キュラスさんはどこにいるんですか?」


 シャルさんは少し考えてからある場所を提示する。




 言われた通りに行ってみると、そこは騎士団の練習所でたくさんの人がいた。みな剣を振っている。勢いよく出てきたはいいものの全く知らない場所に全く知らない人達だ。キュラスさんはどこだろうとキョロキョロしていると、突然後ろから声をかけられた。


「こんなところでなにをしているのだ?」



 ビクッとして振り向くとそこには白髪が混じった金色の髪に青い目の男性が立っていた。



「もう一度聞くぞ。ここに何をしに来た」


 もう一度その人に低い威厳のある声で聞かれた。最初は圧倒された私だったがしっかりその人に向き直って答える。


「賢者のキュラスさんに用があって来ました」


 すると、その人は少し驚いたようだった。しかしすぐに近くの騎士に短く命じる。


「キュラス殿を呼んでこい」


 命令された騎士は返事をして一礼するとどこかに歩いて行ってしまった。姿が見えなくなるとその人は私に向き直る。そして手を顎に当てながら私を見た。


「おぬし、私が誰か分かるか?」


 その聞き方をするということは偉い人なのだろうか。しかし私には全く分からない。だが何か言わなければと思って口を開く。


「私には…威厳のある騎士団の偉いおじいさんに見えます」


 するとその人は目を見開く。そして豪快に笑い出した。


「はっはっはっは!威厳のある騎士団のじじいか、はっはっはっは!」



 周りも驚いたのか先程まで剣を振っていた手を止めてこちらを見ている。私たちの周りだけ時が止まったようだ。どうしたらいいのだろうかと戸惑っているとコツコツと足音が聞こえ、同時に聞きなれた声が響く。



「各自、鍛練にもどれ!」



 その声の後に少し間が空いてから騎士達の「ハッ」という返答がして、先程と同じように剣を振り始めた。声のした方を見ると、やはり先程命じられていた騎士と長い髪をポニーテールにし腰に長剣を携えたキュラスさんがいた。


 キュラスさんはこちらを見て少し驚いた顔をしたがすぐに私の向かいのおじいさんの方を向く。


「グラディウス様。私を呼んだのは恭珠のことですか?」


「ああ、この子は恭珠と言うのかキュラス!本当に面白い子だな。私のことを騎士団の偉いじじいだとさ。はっはっはそんな風に言われたのは初めてだ」


「ああ、そんなことを言ったんですか?」


 キュラスさんは呆れたような表情で私を見た。


「恭珠、この方はね。王弟殿下で騎士団の将軍であるグラディウス様だよ。グラディウス様だったからよかったけど...普通の王族だったら、死刑だね」


「そういうお前も賢者で将軍だろう。闇将軍だがな」


 それを聞いて私は口を開けたまま固まってしまった。何か言わなければと思っていたが衝撃のあまり声も出ない。その間にキュラスさんは王弟殿下に許可をもらい、私を連れて応接室へと向かった。



_________




 応接室に行くと私をソファーに座らせてキュラスさんが紅茶を入れてくれた。そして向かいの椅子に座ると紅茶を一口のんで口を開く。


「恭珠が私のところに来たのは、学園のことでしょ」


 なぜ分かったのかとも思ったが私がこんな所に来たのだからなんとなく察したのだろう。私は素直に頷き、学園には行きたくないという旨を伝えた。怒られたり、説得されたりするかと思ったがキュラスさんはただそう、と一言つぶやいただけだった。最初は文句を言ってやろうと意気込んでいたがいろいろあったこともありもう怒りは収まっている。むしろこんな所まで押しかけてしまった申し訳なさに襲われる。


「ねぇ、何で恭珠は学園が嫌なの?」


 黙ってたキュラスさんに唐突に聞かれた私は迷いながら答える。


「嫌ではないです。だっていろんな知識が増えるから.....でも不安なんです。私には知り合いがいないから」


「最初はそんなもんでしょ。実際私もそうだったし...しかも違う国の出身だし。意外にすぐ友達ができるかもよ。私がそうだった」


 キュラスさんのその言葉で私の中の不安が少し消えた気がした。それを見てキュラスさんは微笑む。


「そもそも勉強が嫌とか言うと思ったけどそんなことはないんだね」


「勉強は…嫌って感じじゃないですね。もちろんつまらないと思うこともありますけど、知らないことを知って自分の世界が広がるのはいいことじゃないですか。もともと本を読むのは好きですし」


 素直に言うとキュラスさんは少し驚いたような表情を浮かべたがすぐにいつも通りに戻る。そして紅茶を飲み干す。


「分かった。じゃあ学園に入学するのは決まりね。せっかくここまで来たし騎士団の練習見ていく?」


 思ってもない申し出に私が勢いよく頷く。それを見てキュラスさんは立ち上がった。私もそれに続く。そして練習場に行き王弟殿下に見学することを伝える。嫌がられるかとも思ったが思いのほか快諾してくれた。



「ほう、いいぞ楽しんでいけ。だがせっかくならキュラスの戦いを見たいと思わんか?」


 王弟殿下がニヤニヤ笑いながら提案する。キュラスさんは嫌そうな表情を浮かべていて、きっとこのままだと断ってしまいそうだったので慌てて答える。


「はい、是非見たいです!」


 するとキュラスさんが大きめのため息をつく。


「わかりました」


 大分渋々だったが結局了承してくれた。グラディウス様は笑いながら頷くと訓練をしている騎士に声をかける。


「全員集合!」


 騎士達はその声に反応してすぐに集まる。グラディウス様は、一通り見るとその中から五人くらいを選んだ。


「お主らには、訓練の一環としてキュラスと戦ってもらう。五対一だからといって甘くみると痛い目をみるぞ」



 その言葉を聞いて選ばれなかった騎士たちも、選ばれた五人もどこかそわそわしていた。そんなに楽しみなのかなと思ってみているとグラディウス様が続けて話す。


「審判は私がやる。魔法の使用は禁止だ。そんなことを許可したらキュラスが勝つからな」


 そうして周りの騎士達は脇に捌け、私も邪魔にならない位置に移動する。中心にキュラスと五人の騎士が向かい合い一対五の状態が出来る。騎士達は緊張しているようだったがキュラスさんはいつも通りだった。


「そんなに緊張しないで。私もこんなことになるなんて思わなかったから」


「本当に貴重な機会だと思っています」


「まさかお相手させていただけるとは思いませんでした」


 口々に言う騎士達は嬉しそうだった。その後にも数回言葉を交わした後キュラスさんはグラディウス様に向かって頷く。グラディウス様も頷き返すと手を挙げる。


「それでは、初め!」





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