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賢者と魔法が下手なポメラニアン  作者: 霧丈來逗
1章 賢者との生活
10/62

SS 二人の誕生日パーティー、その3

前半、後半⇒シャルロッテ

中半⇒キュラス


 なんでこんなときの予感って当たっちゃうんだろう?


 扉を開けた先は真っ暗闇だった。


「な、なんで、よ、よりによって暗闇なんですか!わ、私はほんとに無理なんですけど!なんかいそうじゃないですか~!」


 恭珠が慌てている。今回ばかりは私も同意だ。


「そうだよね、私も暗闇は苦手だな~。...あとさ、さっき言ってなかったんだけど...暗闇じゃないといいな、って思っていたんだよね....」


「...シャル、それ完全にそのせいじゃん。私は暗闇でも平気だけどなぁー。それより、そろそろ説明してくれると助かるんだけど」


 リザイナが言うのと、集まってきた光に気付いて恭珠が叫んだのはほぼ同時だった。


「う、うわあああああああああ!何ですかこの光~~~~~!、幽霊は絶対無理~~!」


「ああ、これはたぶんフ「もうやだ~なんか集まってるし~~!怖い~!」....」


 ...恭珠、怖いのはわかるけど、リザイナが説明しようとしてくれたのに叫んだらダメだよ...


 そんなことを考えていると光が集まってフィナが現れた。


「恭珠....人の話は最後まで聞こうよ....」


 苦笑したフィナが言う。


「わああああ、な、な、なんで幽霊が私の名前知ってるの~~!怖い~~!」


「....た、恭珠....これはダメだね、」


 私たちはまず、恭珠を落ち着かせることにした。

 なかなか難しかったけどもなんとか落ち着かせることに成功し、フィナが説明を始める。


「ええと、本当はここでいろいろやってもらおうと思ったんですけど...。無理そうなので、出口まで進むだけにしますね。はい、これを持っててください」


 そう言ってフィナは青い宝石がはめこまれた指輪をくれた。


「その指輪が出口まで、案内してくれます。あと、ここではぐれないようにしてくださいね。もう一度合流するのは不可能に近いですよ!じゃ、出口で待ってますから、頑張ってください!」


 そう言い残してフィナは消えた。正直歩くだけでいいのは本当にありがたい。


「それじゃいこっか」


「「何でそんなに落ち着いて居られんの」るんですか!」


 思わず叫んだけどとりあえずスタートする。歩かなきゃずっとこのままだし…。指輪は落とすとまずいということでリザイナが持っている。



 そうして歩き始めた訳だが、私は考え事をしていた。


 どうしてキュラスはこんなことを私たちにさせるんだろう?だってこれはリザイナの誕生会をするためでしょう?なのに何で?

....まさか、面白がってる?まあ、ちょっと鬼畜なところがあるからな....


 リザイナはどう思うか聞こうと顔を上げる。


「......え、何で?だって、さっきまでいたじゃん?嘘でしょ.....」

 


 そこには誰もいなかった。戸惑っている私にフィナが言った一言がフラッシュバックする。


『ここではぐれないようにしてくださいね。もう一度合流するのは不可能に近いですよ!』



「ああ、まずいかも....」


 そう呟き思わず頭を抱えてしゃがみこんだ。フィナの言葉が本当だとしたら私はずっとひとりぼっちのままかもしれない。こんな暗闇の何も無い空間にいるのは辛いのに。




....どのくらいそうしていたんだろう


 不意に遠くで私を呼ぶ声がした気がした。

 ああ、追い詰められ過ぎて幻聴も聞こえ始めたか。などと思っていると今度はもっと近くで呼ばれるような気がした。


 職業柄、私は気配を感じるのが得意だ。なにかが近づいてくる気配を感じ顔をあげる。


 するとそこにはこちらに向かってくるリザイナとフィナ、恭珠そしてキュラスがいた。


 

「ああ、今度は幻覚まで見るようになったか」


「そんなわけないじゃん」


 思わず呟いたその言葉をキュラスが笑いながら否定する。しゃがんだままぼーっとしていると恭珠に抱きつかれた。


「だ、大丈夫ですか?なんかおかしくなったりしてません?」


「いいや、恭珠より落ち着いてる自信あるよ」

 

 反射的にそう返してしまい、しまったと思った。なぜならこういう面をまだ恭珠には見せていなかったのだ。心の中では色々言いつつも優しくて明るいシャルロッテのままでいようと思っていたので意図的にこういう面は隠していた。なのについうっかり出してしまった。


 恭珠を見ると案の定ぽかーんとしていた。


「ああ、これがシャルだよ。普段からこんな感じだから気にしないで。今までは猫かぶってたし」


 キュラスがフォローというかネタばらしをする。私猫の獣人なのに猫をかぶるってややこしいな。


 そのあと何故私のもとに来たのか、キュラスがいるのかを尋ねた。


「ああ、それはね。はぐれたってわかったとき、まずは二人で出口に行ったんだ。そうすればなんとかなるかもってことでね」


「私も悩んだんですけど、ここをつくったキュラス先輩に言ったんですよ。それでいっしょに来てもらったんです」


「そ、誰かはそうなるかもって想定していたんだよね....。恭珠がなると思ったけど....。空間転移の応用みたいなのでシャルを出口近くまで移動させたんだ。」



 順番にリザイナ、フィナ、キュラスが説明してくれた。私はもちろんだけどみんなも安心したような表情を浮かべていた。


「ありがとう、みんな」


 リザイナがそれに頷くと最初のように声をかける。


「じゃあ、そろそろいこっか」


 最初と違うのは今回はフィナが案内してくれるということ。そしてキュラスがいることだ。今回は幻影ではなく生身のようだった。どうやら次のステージを変えるらしい。



 そのまま歩いていくと扉が見えてくる。フィナは戸惑うことなくそれを開くと、その先は森だった。するとキュラスがその扉の向こうに歩いていってしまった。そして振り向いてこちらに声をかける。


「その扉から出ないでね」


 この空間を作ったのはキュラスなので指示には従った方がいい。そう思ってただ扉の向こうを眺めているとキュラスは魔法陣を起動した。そして手をかざしなにかを唱える。


「我の思うままに姿を変えよ。『空間創造』」


 すると一瞬で向こうの空間がが歪み、光を放つ。見ていたいけどこれでは無理だと判断し目を閉じた。


 その瞬間「パァンッ」と破裂音がなった。


 静かになり目を開けると扉の向こうは空の上だった。そしてそこに羽を生やしたキュラスがいる。


 みんな、とても驚いているようで目を見開いていた。


「ここは見ての通り空の上。本当は魔物と戦ってもらおうと思ってたんだけどね。鳥とか竜じゃないと自分で空を飛ぶってなかなかできないからね。私が感じている感覚を体感してもらおうと思ったんだけど、どう?」


 聞くまでもなく全員答えは決まっていた。


「「「「「飛びたい!」」」」」



 その答えを聞いたキュラスは微笑んだ。


「この空間の中では竜か鳥の獣人になれるよ。色とか種類とか大きさだったりは自分で自由にできるから好きなように想像してみて。あ、ついでにナイラも連れてこようかな。私はちょっと準備があるからいなくなるけど、進んでいけば扉があるからそこに来てね。

それじゃ楽しんで~」



 そこまで言うとキュラスは一匹の紫の竜になり上空に飛んでいった。と思うとナイラが突然空から降ってくる。


「え、何どういうこと!?落ちてるんだけど!!」


 私たちにもどうしようもなくてオロオロしていると私たちの目の前くらいの高さで突然止まる。


「と、とまった?みんないるじゃないですか!なんですかこれ!」


 どうやら何も知らされずにキュラスに放り込まれたようで目を白黒させていたが、状況を把握すると悪態をついていた。


「なんの説明もなくなんなんですかほんとに。まあでも想像次第ってことですよね」



 ナイラが目を閉じる。すると突然背中に白い翼が生えた。竜の翼のようでキュラスと同じような形をしている。


「あ、出来た。うわ自由に飛べるー!楽しいですよー!」



 ナイラはあっという間に感覚を掴んだようで自由自在に飛び回る。その様子を見てみんなが目を輝かせる。そこからはなんの躊躇いもなく全員が扉の外に向かって飛び出し、各々翼を生やして飛びまわる。



「うわあ、これ楽しいね、キュラスはこんな感覚なんだろうな」


「私たちは陸上しか走れないですからねー!」


「こんな経験できるなんて思いませんでした〜」



 みんなで話しながら飛び回るのはとても楽しかった。これはキュラスに感謝しないとね。


___________




「あ~、意外と疲れるなこれ」


 そう呟きながら私はルクールの丘に人の姿になり降り立つ。そろそろケーキ取りに行かないとな、などと考えていると通信の魔道具が光った。私は魔道具に触れ、魔力を流す。


「はい。キュラス・アメジストです」


『こんばんは、ジレアです。王立学園の入学の手続きが終わりました。それと皆さまが教師として入ることについても大丈夫そうですよ』


「ああ、ありがとうございます。陛下に許可はもらいましたが本当に大丈夫ですか?」


『はい、もちろんです!正体は隠すとはいえども賢者の皆さんに直接指導していただけるなんてとても光栄なことですよ。今度教師にも説明しなくてはいけないので来ていただけないでしょうか?』


「もちろんです。できれば必要最小限の人だけに正体を教えるようにしてください」


『わかりました。では、私以外には話さないこととしましょう。伝えてある内容などをお教えするので一度こちらに来ていただくことは可能でしょうか?』


「わかりました。可能な日時などはあとでこちらから連絡しますね。では、お願いします」





 そう言って通話を切る。どうやら計画通りに進みそうだ。


「そうだ、そろそろケーキを取りに行かないと」




___________






 しばらく飛ぶとキュラスからの手紙と、扉が見えてきた。


『扉の先にいるから来てね』


 手紙にはそれだけ書いてあった。やっと着いたか、と思いつつ扉を開ける....。その先はルクールの丘でパーティーの用意がされてあった。


「パンッ」


 いきなり後ろから破裂音がなる。振り返るといつの間に持っていたのか恭珠とナイラとフィナとキュラスがなにか小さなものを手にしていた。きっとそれがさっきの破裂音の原因だろう。


「「「Happy Birthdayシャル、リザイナ」」」


 私は混乱した。だってこれはリザイナの誕生会だと思っていたから。リザイナの方を見ても私と同じような表情をしているだけで事態が飲み込めていないようだった。



「シャルロッテの誕生日を祝うんじゃなかったの?」


「え?リザイナの誕生日を祝うんじゃないの?」


 リザイナも同じ事を言うので余計に意味が分からなくなってしまった。思わず四人の方を向くと、ナイラがキュラスの方を見る。


「ほら先輩、混乱してるじゃないですか」


「まあまあ、あとで説明するから。それより料理が冷めちゃうよ」


 キュラスは特に気にしていないようだった。そのままとりあえず全員を席に着くように促す。


 

「お誕生日おめでとうございます!料理は私たちが作ったんですよ!」


「そうですよー!初めてだったので大目に見てくださいね」


 ナイラとフィナがニコニコ笑っていた。盛り付けも綺麗な料理なのでどこかの店のものだと思ったが、まさか二人が作ってくれたとは。


「すごい。見た目も綺麗だし、匂いもいいね」


 リザイナが、嬉しそうに笑っていた。ナイラとフィナはハイタッチをしている。


 今度は恭珠がこちらに駆け寄ってくる。そして手に持ったプレゼントを私に差し出した。


「これ、誕生日プレゼントです!」


 ありがとうとお礼を言いながら受け取ると今度はリザイナに駆け寄っていった。リザイナにもプレゼントを渡している。


「開けていい?」


「どうぞ」


 キュラスがグラスを傾けながら返事をする。なぜキュラスが返事をするのか分からなかったが、素直にプレゼントを開けてみると、あるものに目が釘付けになった。


 それは、私がほしいと思っていたもの。東方の国のガラス玉という物。その一つ『風花』のイヤリングだった。


「どうして....」


「ほしかったんでしょ?みてればわかるよ」


 笑いながら言うキュラスに私も笑みがこぼれた。しかし同時に疑問が浮かんでくる。



「これいつ用意したの?」


「ああ。まだその話してなかったね。そのプレゼント用意したのは私と恭珠とリザイナだよ」


「え!?」


「シャルと私と恭珠でリザイナの誕生日プレゼント選びに行ったでしょ?でその後にリザイナの誕生日パーティーをするから来てねって私が言った。その後に同じ事をリザイナにして、今度はシャルの誕生日パーティーをするからきてって言ったの」


「ああ、だから恭珠があんなに挙動不審だったのか…」


「え!?そんなに挙動不審でした?」


 リザイナは苦笑いを浮かべて頷く。私の時はそんなことなかった気がするけどそうだったんだ。結局はまんまとキュラスに騙されてしまったようだ。

 その後はみんなで料理を食べながらいろんな話をする。盛り上がっていると夜空から一羽の真っ白な鳥が来て、一通の手紙を落としていった。



 開けてみるとバースデーカードが入っている。どうやら寄せ書きになっているようだった。まさか先輩たちにも声をかけてたのか、どれだけ用意周到なんだか....

 リザイナの方を見るとお酒もせいもあるのか嬉し泣きをしていた。恭珠はそれをみておろおろとしている。フィナとナイラはそれを見てあわててハンカチを渡しに行く。キュラスはというと笑いながらその状況を眺めていた。私も思わず笑ってしまう。


 賑やかな喧噪の中、夜は更けていった。







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