月姫様は恋に興味がないらしい
処女作になります。
本当は連載にするつもりでしたが、取り敢えず短編で様子を見ることに……。
拙い文章ですがよろしくお願いします。
銀は月の色。ティミス王国で最も尊く、最も美しい色として好まれている。
ティミス王国が月の女神の加護を受けていることが主な理由だが、銀色を髪や瞳に宿している者が魔法に対して高い才能を持っているのも一つだろう。
生まれながらの名誉。建国から数えても両手で足る程度しかいない『銀色持ち』。
『月影の英雄』を父に持つ侯爵令嬢、ディアナ・カーティスは波打つ美しい髪を揺らしながらそっと溜め息を零した。
「もう一度言って貰えるかしら。私、どうやら耳が悪くなってしまったようでして」
「何度だって言います!ディアナ様!もうアルフレッド様を解放してください……!あの方が可哀想です……」
涙で桃色の瞳を潤ませながら他人のために訴える姿は健気だと好感を誘う。ディアナよりも白味が強い銀髪が儚げな雰囲気を増長し、相対する相手が気の強そうな凛とした顔立ちであることも相俟って彼女をいっそう庇護対象に見せていた。
ディアナの紫色の虹彩が男爵家の庶子であるセレナを捉える。感情もなく見たつもりだが、睨まれたと判断されたようでセレナの体がビクリと震え、両端に控えていた男が庇うかのように前に出た。
お姫様を守る騎士のつもりか――馬鹿馬鹿しい。
一人は宰相の息子であり次期宰相と名高いニコラス・スチュワート。そしてもう一人は辺境伯爵家嫡男の肩書きを持ち火魔法の天才と呼ばれるサイラス・キーツ。
多かれ少なかれシナリオの強制力とやらが働いているのかもしれないが、ここまで貴族子息が盲目になるなど愚かとしか言いようがない。
彼らは何もわかっていない。
ディアナの私室に先触れもなく押し入った意味を。婚約者と言われる王子との関係を改めるよう迫る意味を。侯爵令嬢に向かって敵意を隠さず接する意味を。恋に浮かれて自分達が何を蔑ろにしているのか、彼らは何もわかっていなかった。
「可哀想、など殿下に対して不敬でしょう。ご自身の立場を弁えては如何?」
「立場を弁えるのはあなたの方でしょう、ディアナ・カーティス。学園でのあなたの行動は目に余ります。身分を笠に着てやりたい放題……そんなあなたでも歩み寄ろうとした殿下でさえも蔑ろにする始末。あなたのような者が未来の王妃など相応しくありません!」
「セレナに対してもそうだ。彼女は優しいから責めはしないが、貴様が彼女に行った数々のことを我々は知っている!侯爵家の令嬢として恥ずかしくはないのか!?」
「生憎ですが、何のことでしょう?私は恥ずべきことなどした覚えはありませんが」
「何だと!?このっ……」
「やめてください!いいのです!私がっ、私がディアナ様がいらっしゃるのにアルフレッド様と親しくなったから……!」
貴族子息の二人が熱くなるだけ、セレナの健気さが前面に出る程にディアナの目は冷めた色に変わっていく。
三文芝居にも劣る茶番を見せられてる気分だった。
ディアナ・カーティスは前世の記憶を持つ転生者である。
はっきりと前世の記憶だと認識したのは3歳の頃。物心つく前からぼんやりとあった記憶が徐々に鮮明になっていき、前世に引きずられるように性格が形成されてしまった。それが明るく素直な性格であればよかったけれど、ディアナの前世はお世辞にもまっすぐとは言い難い、人間不信の人間嫌い。捻くれた性分であったのだから始末に負えない。
多少の改善はされたものの人に対して冷めた部分は相変わらずなもので、新たに生を受けたこの世界が剣と魔法のファンタジーをテーマにした乙女ゲーム『月に照らされ輝く魔法と恋(通称『月恋』)』の世界だと知った時には興味無しとぶった切ったものだった。
――たとえ自分が乙女ゲームに出て来る『悪役令嬢』なのだとしても。
メインヒーローのティミス王国王子、アルフレッドの婚約者にしてヒロインの恋を邪魔する障害。ヒロインをあらゆる手を使って貶め、そして最後は断罪され落ちぶれてしまう悪役……らしい。
曖昧なのはディアナはゲームをプレイしていたわけではないから。親友がゲームが好きでのめり込んでおり、望みもしないのにペラペラと喋っていたおかげでやったこともないゲームの世界だと気付くことができたし、多少の事前知識を持つことができた。
「なぜ私がセレナ様を害するのでしょう?ルナティア学園では身分は平等とされておりますわ。いくら男爵の御身分とはいえ、とても優秀な才能をお持ちのセレナ様が殿下と御学友として親しくされても何ら問題はございません。もし私が殿下の側にセレナ様がいらっしゃることに嫉妬してとお考えならば否定させて頂きますわ。殿下のことは勿論ながら尊敬しておりますが……あくまで臣下としてですもの」
「白々しい。あなたが欲したのは王妃という立場でしょう。権力欲しさに殿下の婚約者という身分を強請り意のままにしたあなたは、その立場を揺らがす可能性があるセレナを邪魔に思ったのではないですか」
ディアナが王子を蔑ろにしたと言った理由もそう思い込んでいるための考えらしい。
確かにゲームの『ディアナ』はその通りだったはず。只、王子に対しても独占欲に似た恋情を抱いており、セレナを陥れたのは嫉妬が大きく占める。
……が、今のディアナは王子に恋心を持ってなければ王妃になりたいわけでもない。言い張ることは簡単でも端から聞く耳を持ち合わせていない人に言ったところで無意味であった。
「今この場でセレナに謝罪すれば過去の罪は流してやろう。未来の王妃殿下を害したとなれば只では済まないことぐらい貴様にもわかるだろう?」
「……殿下がそれを望んだのですか?」
「ふん、口にはされてはいないがセレナが王妃に相応しいのはわかりきったことだ。殿下も本心では貴様よりもセレナを望んでいるに決まっている!」
「やめてください!私なんかが王妃だなんて恐れ多いです……!」
「何を言います、セレナ。君ほど優しく清廉で才のある女性はいません。もっと自分に持ちなさい。君こそ王妃に相応しい」
恐れ多いと口にしながらもセレナは満更そうでもなく、頬は薔薇色に染まり、瞳は期待に満ちている。
彼女が王子に恋していることは知っていた。
王子を見る目にはいつだって熱が秘められていて、わざわざディアナの部屋に乗り込んだのも王子のためというよりも自分の恋のためだろう。障害があればあるほど恋は燃え、身分差の恋愛など夢見がちな少女が憧れても仕方ない。
恋は盲目。それが彼ら彼女によく似合う。
「私が謝罪することなど月の女神に誓ってありませんわ」
「何だと!?せっかく温情をかけてやったというのに貴様は……!!」
頭に血が上ったサイラスから魔力が湧き上がるのを感じ取る。
荒々しく練り上げた魔力が複数の火の球体を作り出し、威嚇するかの如く周囲に浮かんだ。
火魔法における初歩の初歩。単体ならばそう恐ろしさを感じないものだが、一つ一つが普通よりも大きなものでいくつも浮かんでいるのだ。
そして尚且つ、ここは狭い室内。回避は不可能であり、たとえ避けることができたとしても火が家具などに引火してしまう可能性は否めない。
さすがに表情を引き締めたディアナに勝ち誇った声が傲慢に告げる。
「その自慢の顔に火傷を負いたくなくばセレナに謝れ!口先だけではなく、膝を地に着け頭を垂れた謝罪をしろ!」
土下座という言い方こそしないけれど、それは最大級の非を詫びる意を示すと同時に貴族にとって最も屈辱的な謝罪。それを求めるということは貴族としての尊厳を踏み躙ること他ならない。
謝罪の意志のないディアナが応じる必要はないが、断れば火球が向けられるのは間違いないだろう。
ディアナの魔法の腕が優秀でも水魔法は相性が悪く苦手としている。使えないわけではないがこの火球を打ち消せる水魔法を瞬時には発動できない。
だが、幸いなことに治癒の効果を持つ神聖魔法は得意中の得意。万が一、火球に対抗できずに火傷を負っても治せると踏んで水魔法を使おう。
そう決めてしまえば迷いはなかった。
まっすぐに怯えることなく背筋を伸ばして相対する。気付かれぬよう静かに魔力を練りながらディアナははっきりと言い切った。
「私は私の矜持にかけて謝りませんわ。脅しには屈しません」
「ッ痛い目に遭わなければわからないようだな……!!」
振り下ろされた手に合わせて迫る火球。
目を逸らさず逃げもしないディアナが魔法を発動させようとした時、
「ッ!?」
ジュワッと水蒸気が立ち上る音が微かに、バッシャン!と水が叩きつけられる轟きが響く。
突如として降ってきた水が全ての火球を消し止め、火の脅威からディアナを守ってくれた。迫る程に近くにいたディアナにも水は及びそうなものだが、そこは風魔法の防壁で完全に防いでくれている。
水と風。どちらの魔法も一度に発動させることのできる者などそうはいない。
「――怪我はないか?」
「アルフレッド様!」
「殿下!どうしてこちらに……」
月と対を成す太陽の色、金を髪に宿した王子がディアナの顔を覗き込んでいた。
魔法の脅威から守り、青い瞳からはディアナの身を案じる様が窺えたこと。セレナの嬉々とした呼び声に反応もしないことから、改めて事の確信を得る。
「えぇ、お陰様で傷一つありません。守って頂きありがとうございます」
「いや、礼を貰う程のことではない。君なら私が出なくても対処はできただろう。ただ私が手を出さずにはいられなかっただけだ」
交流があまり見られず不仲説すら囁かれているからだろうか。穏やかに会話を交わすアルフレッドとディアナに、見る三人の表情が不可解そうに歪んだ。
「さて、これはどういうことか説明して貰おうか」
「殿下!これは……!」
「私がそちらのセレナ様を虐げたとして謝罪と殿下の婚約者の座を退くよう要求されました。勿論私には身に覚えのないことでしたのでお断りしましたところ、キーツ様に魔法を向けられたという次第です」
「……それは本当か?」
「っ、」
「二人を責めないでください!ニコラス様もサイラス様もアルフレッド様を思って、私の代わりにディアナ様に言ってくださったんです!」
弁解を述べようとする二人を押し退けてアルフレッドの前に出て来たセレナが目を潤ませて嘆願する。
あくまで他人思いのセレナに二人が陶酔するかのように瞳をとろりと緩ませた。
だが、そんな甘い空気を冷えた声が両断する。
「つまり、事故ではなく故意に彼女を害そうとしたわけだな」
憤りと侮蔑。
ディアナを背に隠すアルフレッドは鋭い視線を茶番劇を繰り広げた彼らに向ける。
「アルフレッド、さま……!?」
「私の名を呼ぶことを許した覚えはないんだがな、セレナ嬢。……あなたの身に起こったことは私も把握しているが、ディアナは無関係だ。彼女があなたに危害を加えるはずがない」
「なぜです!?その女は王妃の座に固執していた!セレナを虐げたって可笑しくないでしょう!」
「……そうだったらどんなに嬉しかっただろうな」
ポツリとアルフレッドが零した呟きに部屋中が静まり返って。
どこか寂しげな苦笑じみた顔。背後のディアナに送った一瞥は焦がれるような熱を孕んでいる。
「彼女は私の我儘で婚約者のふりをしていたに過ぎない。過去に話があったのは事実だが、正式に婚約が結ばれたことは一度もないんだ」
根源を覆す事実がアルフレッドの口から伝えられて愕然とした様子を晒す三人。
それをアルフレッドの背中越しに眺めたディアナは、溜め息を飲み込みながらふと過去の記憶を呼び起こした。
◇◇◇
ディアナが初めてアルフレッドに会ったのは8歳の時。
父に連れられて登城した王宮の庭園で国王陛下と共に出会った。
攻略対象者、それもゲーム内での婚約者にいざ会えば何かあるのではと身構えていたディアナ。だがそれは杞憂に終わり、この人が王子なのかと漠然と思っただけに留まる。
美しい金髪も知性的な碧眼も王妃譲りだという容姿も、美醜に関心がないディアナには全て意味はない。
ただ一つ気になったことといえば、王子の青い瞳に虚無のような陰りがちらついていたことぐらいか。
「君のような聡明な令嬢がアルフレッドの妃だと私も嬉しいんだが……ディアナ嬢は如何かな?」
陛下の期待した目の輝きに、そういうことかと察した。
突然の病により崩御された先代の王。その跡を成人して間も無く継ぐしかなかった陛下は苦難の時代を過ごしている。
地盤が固められずに臣下の統一も儘ならず、そんな時に限って他国に侵略されんかとした。敗戦が濃厚とすら囁かれた他大国との戦。
それを支えたのがディアナの父親である。
父は国内の統一化に尽力し、戦では参謀として戦略を立てたと思えば兵士として多大なる武功を挙げる。戦争が終結し平定の世の折には宰相になるだろうと言われていた。
だが、天才であり英雄であった父は貴族としては変わり者であったのだ。
本と家族をこよなく愛し、権力に対する求心が薄く。陛下や周囲から望まれようとも宰相の座に就くことはなく、いつからか『月影の英雄』と呼ばれるようになっていた。
英雄でありながら月の影に隠れてしまう父を残念に思っていた陛下が、自身の息子とディアナを婚約させたいと画策したのだろう。
「まあ!陛下にそう仰って頂けるなんて光栄ですわ」
にこりと儀礼的な意味を多大に含む笑みを浮かべながら横目で父を見遣る。
父は特に表情に変化を及ぼすことなく紅茶に口を付けており、陛下の申し出を予想していたことを窺わせた。同時に父の意向を悟る。
そしてこの場において絶対的な決定権があるのは誰なのかも。
「ですがアルフレッド様の妃となれば未来の王妃様。そのような大役、私には荷が重いことと思います」
笑顔のまま申し訳なさそうに断ったディアナに陛下が目を見張った。
受け入れるしかないと知っていたであろうアルフレッドも驚きが空虚な目を染め上げる。
この婚約において、決定権を持つのは自分であるとディアナは気付いていた。
陛下が権力を使えば侯爵家は王家からの申し出を断ることはできない。婚約を望みながらも陛下が強制しないのは、父が英雄であると同じく学園時代からの友人であるため。
父は出世欲がなく、上に二人いるディアナの兄がどちらも優秀だから無理して政略結婚する必要もない。それどころかディアナが自分に似て書物に関心があることに喜んでおり、好きなようにしたいことをすればいいと言葉は貰っている。
ならばディアナの取る行動は一つ。
この婚約の申し出を穏便に徹底的にお断りすることだった。
◇◇◇
「すまないな、ディアナ。私の我儘で始まったのにまた私の一存で決めてしまって……」
「構わないわ。公表が二年早まっただけ……元々隠し通すには無理があったもの」
侍女が淹れてくれた紅茶に口をつけ、ディアナはいくらか気安い口調で返す。
部屋の隅に侍女が控えているものの他には二人以外誰もいない。あの例の三人はアルフレッドの要請を受けて来た教師に引き取られて行った。軽くて停学、重いと退学だけではなく実家の方にも責が及ぶだろう。
それだけのことを彼らは仕出かしたのだ。
「それに我儘と言うけど、私にもメリットはあったから受けたのよ。面倒な婚約話が申し込まれなくて済むし、王妃教育も大変だったけど面白かったし」
婚約者のふりをしてほしい。
そう王家から、アルフレッドから頼まれたのは出会って一週間後のこと。
外堀を埋めて婚約するしかないような状況にしない。公表する時もディアナに傷が付かないようにする。
周囲を思い込ませるために度々登城して王妃教育は受けるがそれだけ。後は婚約を否定さえしなければいい。
婚約者のふりに伴う面倒さとメリットを天秤にかけたディアナは後者を取り、学園を卒業するまで続けるはずだった。
「私はまぁ、覚悟してたからいいにしても……あなたはどうするの?他国の姫君を娶ると伺ってたけどまだ話は進んでいないのでしょう?」
「それなんだがな……私がどうしてディアナに婚約者のふりを頼んだのか知ってるか?」
「単純に都合がよかったからでは?私が王妃に興味がないのは知っていて婚約者になっても可笑しくない令嬢。女避けには丁度いいでしょう」
「間違ってはいないが正しくは違う。私ではなく君の男避けのためだ。『月影の英雄』を父に持ち、才媛の『銀色持ち』であるディアナに婚約者がいないとなれば放っておかれないとわかってたからな。準備が整うまでの時間稼ぎが必要だった」
「……よく意味がわからないのだけど」
婚約の申し出に事欠かないのは自覚がある。アルフレッドの婚約者だと認識されていなければ今頃別の人と婚約していただろうとも。
ただ、アルフレッドにどう関係あるのかわからない。時間稼ぎとは何か?
戸惑いを強く首を傾げるディアナに、アルフレッドはカップを置き椅子から降りたかと思うと片膝を着いた。ディアナの前に跪き、そっと手を取る。
「君は私の妃になるのは荷が重いと言ったね。その意味を正しく理解してるつもりだ。君は王妃として椅子の上に縛り付けられるような人でないことも」
ディアナは前世の影響もあって人嫌いとはいかずとも他人に対して興味が薄い性格をしていた。身内と認めた人以外は酷く淡白だ。
その分というべきか、知的好奇心は人一倍強い。あらゆる本に知識を求め、興味が引かれれば研究に勤しむ。
そんなディアナが最も興味があったのが魔法だった。
前世ではフィクションの中だけと言われていた存在。
記憶にある世界と異なる世界で生きていくことに大なり小なり苦労したディアナにとって、魔法は唯一転生してよかったと思えること。のめり込むのは早かった。
王妃教育すら面白いと言えたディアナなら将来王妃になったとしてもやっていくことはできるだろう。賢妃として後世に伝えられるかもしれない。
ただし、王妃になってしまえば魔法の研究をすることは許されない。王妃の仕事は王の横で笑みを浮かべ、世継ぎを産み、政治を王と共に治めていくことなのだから。
だからディアナは「荷が重い」と言ったのである。
「継承権を放棄できたなら話は早かったが私以外に王の血を濃く継ぐ者がいないからできない。だけど私は諦めることもできなかった」
「……」
「君が王妃になっても研究に打ち込めるための環境を整えてきた。難色を示す者もいたが、君の実績を考えれば椅子に縛り付けるのは宝の持ち腐れだとわかってもらえたよ。解読不能と言われた古代魔法を読み解き、複合魔法を樹立した天才の才能を手放させる愚か者はいないってことさ」
「……別名義で発表したはずですけどね」
この調子でいくと今やってる研究が大詰めを迎えていることも知っているかもしれない。結果が出たとしても公表するかどうか悩んでいることにも。
現実逃避にも似た思考を飛ばすも、アルフレッドが許してくれるはずもなく。
握った手に力を込め、碧眼が紫苑の瞳をまっすぐ見据え離さない。
「まさか時間稼ぎって体制を整えるための?……そこまで私を妃にしたかったの?」
「……あぁ、その通りだ」
普通の女の子ならそこまで求められてることに感激するだろう。ただ才能目当てではなく、ディアナ自身を見てとのことだとわかっているから尚更。
それでもディアナの胸がときめきはしない。
他人に興味がないディアナは恋愛にも関心がなかった。
異性の認識はあるがそれだけ。結婚も貴族ならいずれしなければと思うも、正直言えば自分の自由を束縛しない人であれば誰でもいい。
父は好きな人を連れて来ていいと言ってくれたが、婚期が過ぎる前に父に選んでもらおうかと考えていた。
「ディアナ・カーティス。私は貴女を愛している。ディアナという存在を知るにつれて、いや、出会った瞬間から貴女に惹かれていた。いずれ私はこの国の王として立つだろう。その時、貴女に隣りにいてもらいたい」
「私は、あなたを愛してないわ。それでもいいの?」
「よくはないな。だから努力をしよう。貴女に愛してもらえるように、男として見てもらえるように。私にそのチャンスをくれないか?」
外堀を埋められた感は否めないが拒否権を奪われたわけでもない。ディアナが嫌がればアルフレッドはきっと引いてくれる。
国を背負う王子として冷酷な面はあれど、基本的に優しい男なのだから。
そしてディアナはそんな彼が嫌いではなかった。
「いいわ。受け入れましょう。私も応える努力を致します」
「ありがとう」
相好を崩したアルフレッドが熱を帯びた瞳で見つめた。
騎士のように手に、親愛を示すように額に唇を落とす。
最後はディアナの手を引き立たせるとその勢いのまま恋人のように抱き締めた。
「愛してるよ、ディアナ。私を選んでくれたこと、後悔させないと月の女神に誓うよ」
魔法大国の礎を築いた王妃ディアナ。
彼女が残した功績、逸話は数々の書物に記され後世に伝えられている。
『月の女神の愛し子』『月姫』と呼ばれ親しまれた彼女。賢王と讃えられたアルフレッド王の寵妃でもあった彼女は銀の髪を引く王子王女を産み落とした。
王妃として愛された彼女が一人の人間として幸せだったかはわからない。
しかし、隣りにいる夫を見上げた時、冷たい美貌とも言われた彼女の瞳が穏やかであったこと。苛烈さはなくとも柔らかな愛情を向けていていたと一説に残されている。
fin.
取り敢えず書きたいところを詰め込んでみました。
わかりにくい部分もあったと思いますが、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。




