13 マイフレンド
(………眠い)
身体中がだるい、痛いとかヒリヒリするとか外からじゃなく、ナカからくるものだ。
体調が悪い。
カゼでもひいたのか、と思いながら思い瞼を開く。
「***、*****」
「!?」
目を開けると、ファンタジーの回復職の神官って感じの女性がいた。
「****、**」
辺りを見渡しても、その女性以外に人は見当たらない。
(やばい、ミーシャがいないと俺、何にもできない!)
ちびっこに頼るお兄さんという姿は、どこに需要があるのかわからないがこれは仕方ないんだからしゃーない。
もしやと思い、ベットの下にミーシャがいないかどうか調べようとして、体を起こし覗こうとする。
「いってぇぇぇ」
ズコン、と頭からぶっ倒れてしまった。
神官服の女性は「だいじょうぶ」のようなことを言いながら、頭をさすりながら、手を貸してくれる。
ベットを背もたれに俺は床に座った。
「**、***」
(やばいな、言葉がからっきしわかんねぇから……)
どうするべきか。
ここはまずお礼を言っておこう。
「すみません、ありがとうございます」
(あっ、ジンの紙に載ってたのに………ミスったわ)
つい日本語でいったお礼とともに頭をさげると、女性は何かを思い出したかのような声をだした。
「***、******!」
(でも、わかんねぇな)
女性は俺が返事に困っていることをさっしたのか、手を「えっとどうしよう」的な感じてワチャワチャと動かしたあと、口に出した言葉は衝撃的なものだった。
「ワタシ、ミリス、デス。 コンニチワ」
(おおお。日本語だあぁぁぁぁ)
「えっ! ミッ、ミリスさん。日本語わかるんですか!」
ミーシャだけかと思ったこの人まで日本語が! めっちゃカタコトだけど!!
俺はちょっと興奮気味に話しかけ、その女性の両肩をつかんでガンガンゆすってしまった。
(あっ! セクハラに!)
俺は急いで、女性の肩から手を離そうとしたときーー
「ぐぅぅぅ」 ←俺(腹)
「ガチャ」 ←ドア
「******」 ←入ってきた男
「**! ***!」 ←ミリス
「!?」 ←俺(本体)
--俺の腹がものすごい音で鳴り、同時に鍋を持った女性と似た色合いの神官服を着た男性が入ってきた。
食べていいといった感じだったので、3人で床に座り鍋をつつく。
(みんなで鍋つつくって、日本みたいだな)
鍋にはバルトのとこで出たスープに似たようなものだった。
味がこっちの方があっさりしていて、具の数は少なくほぼジャガイモ的なイモとキャベツ的なはっぱ、ときどき玉ねぎ的なやつって感じ。
食事中だが、床に座っている状況からそこまでマナーにきぃつけなくていいと判断し、疑問を口にする。
「ミリスさんは日本語が話せるんですか? そちらの方も?」
これは聞いてみたい。
ミリスさんがもし、そうなら頼もしい。
「***?」
「*****、**?」
(チョッ、チョい………マジカヨ)
ミリスさんと男は頭に疑問符を浮かべ、互いに何やら少し話すと、右手をそろえて男性に向け、口を開く。
「クリス、デス」
(違うんだよ、それじゃないんだよ………)
俺の日本語をクリスについてのものと勘違いしたらしい。
(『男の名前はクリス』、まあ、これも重要な情報か)
そう思ったとき、俺はあることに気づき『流れ』にのっかる。
「えっと、***、タケル。******」
『自分』と『こんにちは』の言葉を『向こうの言葉』でする。
先刻とは違い、とっさに日本語で済まそうなんてことをしなかったことに安堵する。
(ちょっとずつ慣れていかないとな………)
クリスさんが持ってきたスープにはエナドリでも入っていたのか、目覚めたときに比べるとかなり身体は軽くなっていた。
紅茶パック3回目くらいの薄い食後のお茶をいただいた後、俺が立てることをクリスさんは確認した。
クリスさんたちは俺が『彼らの言葉』を話せず、『ニホンゴ』しか話せないことはすぐに気が付いたようだ。
ミリスさんはミーシャの父から日本語を習ったそうだ。
クリスさんもなんとなく日本語がわかるそうだ。
先刻、クリスのことを紹介したのは雰囲気からではなく俺の「そちらの方も?」って部分を聞き取り、そう考え答えたのだろう。
「バルト、マイフレンド」というミリスさんの言葉ーージンさんはどんな風に日本語を教えたのだろうか…フレンドってもろ英語だしーーには複数の意味が含まれていたらしく、一つは文字通り、もう一つは俺をバルトさんのところに連れていくってことでもあった。
そして今、ミリスさんに肩を貸してもらいながら、切られたズボンのヒラヒラと、街灯の火のゆらゆらと、どこか不安定な明かりの町道を歩いている。太陽はもうとっくに落ちている。
ーーミリスさんはなぜか、俺を文字通り持って運ぼうとーー抱っことかあまっちょろいものではなく、建築のおっちゃんが木材を運ぶみたいなものだーーしたので丁重にお断りした。ミリスさんはちょっとすねたようにしたが、何でかはよくわからない。
(ミーシャは大丈夫かな)
俺はそんなことを考えながら、違和感の残る足で夜道を歩き続けた。
今夜、月は顔を出していなかった。