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俺が『見』てるセカイ、君の生きるミライ  作者: 六錠鷹志
第一章 異世界転移 と 出会い
15/33

R2 クリスとミリス

反逆なんてしないよ


………なんでもないよ

 大怪我を負った人を担ぎながら、町を疾走する人が女性が一人。


「はっ、はっ、は」


 息を乱すことなく、女性は長い髪が乱れることを気にせずに走る。

 負傷者の容態と自分の体力を考えて女性は、重力(ふか)軽減の『術』をかけ続けているのだ。

 周囲の「またやってるよ」や「大丈夫かな」、「お疲れ様です……」という微妙な目線は彼女に向けられたものなのか、別の『だれか』に向けられたものか………。そんな周囲を気にもせず、彼女は仕事場でもある神殿にたどり着く。

 同時に足で、ドン! と乱雑に扉を開き、いくつもの長椅子が並んだ空間に向けて呼びかける。


「クリース! いる?」


 その声ではなく、扉の音に反応して神殿の奥の部屋から男が小走りでやってくる。

 男は女性と同じく神官服に身を包んでいる。違う点といえば、頭に違和感(・・・)ありあり(・・・・)な帽子をかぶっている点くらいだ。


「…だから、ミリス。扉は大切(だいじ)にって………奥のベットを使え」

「承知ー」


 クリスと呼ばれたこの神殿の運営者(トップ)の言葉に従い、神官の女性、ミリスは怪我人を『奥』に運んでいく。

 ミリスは『奥』の扉をまた足で開けーー


「………」


 --後ろ(クリス)の負の気配(オーラ)を感じ取り、足を下した。

 扉を手で開け、クリスにドヤ顔をしながら負傷者をベットに寝かす。

 ミリスは患部を治療する(みる)ために負傷者のズボンをあっという間に切り終え、言う。


「さあ、クリス先生の出番ですよー! 普段、外に出ないクリスさんの活躍の場面ですよ」

「………」

「うっ」


 クリスはミリスに無言の腹パン(てんちゅう)を下すと、ミリスには出来ないより高位の治療『術』を構築し始める。

 その無駄のない洗練された『術』から、(クリス)が何度もこの『術』を使っていることは容易に想像ができる。


 組みあがった『術』を起動し、両の手から放たれた朝日のような眩しくも暖かい光が負傷者を包み込む。

 『術』が対象(けがにん)実行(きのう)されるまでに時間がかかるので、クリスは自分の部下(ミリス)に向かって話しかける。


「なあ、けが人を連れてくるのは………まあ、仕方ないとしてもな。神殿っても、完全な慈善団体じゃない。金も人材も有限、このままだと、救える奴も救えなくなる。今は自分がどうにかやり繰りしてやっとだ」

「わかってますって。だから、クリス先生に任せてるじゃないですかー」


 クリスは「はぁ」とため息を吐くと続ける。


「だからってな、自分がいないときどうするんだって話………」

「その辺は大丈夫ですよー。仮にクリス先生が『何処か』にいてもその何処かまで行きますので。もしもの時は、バレルにでも頼りますし………ってか先生、もうここに6年(・・)以上いますし、どーせここから出ませんって」


 『出ない』じゃなくて『出れない』なんだが、という言葉をクリスは飲み込む。

 どこぞのミリスの所為(せい)によってこの『神殿』でのありとあらゆる『仕事』をする羽目になっている。

 碌に日光にも当たれず、寝ることも、湯につかることもできず、仕事仕事仕事の毎日。彼の髪は抜け、顔色も悪く、目の下にはひどいクマができ、彼を見た人は元気がごっそりと彼と同じように減ってしまうーーミリスは『元気』のままだがーーという。


「なぁ、お前も少しは書類仕事とか………そもそも、仕事を減らす(する)どころか、仕事を増やすのをなんとかな…せめて、治療系統の『術』を使えるように……」

「……あーーー」

「耳をふさぐな耳を」

「………ドヤッ」


 『術』を使っている最中のクリスは顔をあげて、ドヤドヤしてきたミリスに鉄槌を下すこと(おしよき)はできない。

 基本的に『術』は同時に使うことはできないからだ。

 『術』の構築には呪文を唱えるものが一般的である。よって、原理的に不可能なのだ。

 構築式を紙や地面に書いたり、『魔道具』を使用したり、なかには一度組みあがった『術』を『待機状態』する魔術師や無詠唱で発動する猛者もいるが、そんな人物(カイブツ)はそうそういないもんだ。………そうそうな。

 ミリスが無事なことから、この町(スレッド)の『神殿』の一つを預かる神官のクリスは、そういう意味では普通の人なのだ。


「おおー、足のぐっちょぐちょがぐちょくらいにまで治ってきましたね」


 ミリスの言う通り、負傷者の傷は塞がってきた(・・・・・・)

 それを確認して、クリスは成功したと安堵し、『術』の維持をやめる。


「終わったぞ」


 そう立ち上がりドアに向かったクリスに向けてミリスが言う。


「あっ、私の分もついでにお願いします。………町で食べ損ねちゃったんで、テヘッ」


 クリスは不機嫌を隠さず、ミリスを冷たい目であきれたように見る。


「………なあ、お前は町に何しに行ったんだ。自分は昼飯を買いに行かしたと記憶しているが、それは間違いなのか?」

「間違いじゃないんですか? ってか先生の治療って、目覚めたときスゴくおなかすく(・・・・・)はずじゃないですか。早く作って来てください。病人とカ・ワ・イ・イ・私のために!」


 ミリスは黙っていれば『美人』の部類に入るはずなのに、とクリスは思うが口には出さない。いえば調子に乗ることは自明だ。

 クリスの治療『術』は、対象者の自己治癒力を高めるものであって、直接的にケガを治すことはできない。

 そのため、『術』を受けた者は大量のエネルギーを摂取する必要があり、猛烈な空腹感に襲われるのだが効果は十二分にある。


「ちゃんと見てろよ」

「承知ー、です」


 クリスは片手を挙げながら返事をするミリスを一瞥し、このやり取りで何度目になるかもわからない溜息を吐きながら部屋を後にした。




この世界の『神殿』などについて少し解説

『神殿』には礼拝するための場所ってだけでなく、児童養護施設や病院、さらには、学校の役割を担っています。

『術』は人によって基本的に使えるものが限られているので(例外もある)、回復系の『術』を持っている神官が『神殿』には最低でも1人います。

回復系といっても、傷を直接ふさぐものや、病気などを治すものを扱えるのはごく稀で、普通はクリスのように人が持つ免疫や治癒力を高めたり活性化させる補助的なものが多いです。


………本当はどんどん本編で設定を出したい。だけど、………タケル~、早く異世界語(異世界にも複数の言語があり、その中で最もポピュラーなもの)覚えて~、って思いながら書いてます。

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