12 全力タックル!!
ミーシャに酷いことをした奴は全力失踪して若い男から逃げるーー
「ふぇぇ?」
「おっおい、どうしたんだ?」
ーー俺とミーシャを巻き込みながら。
(マジで状況が掴めないんだが……)
全く分からんのでしばらくそのまま流されてしまっていた。
しかし、言葉が分からないのでミーシャを通して聞くしかない。
(ってか痛てぇ)
だんだんと右足の痛みが悪化しているような気がする。
(とっとと止めねえと)
追跡者からの距離はこちらの方が足が速いのか、どんどん開いている。
それを確認した俺は、くすんだ金髪君に掴まれた腕を強く引く。
金髪がずっこけたことで意味の分からないダッシュが終わる。
「*****!」
「何するんだー!」の様なことを言ったのだろうが、こっちのセリフである。
くすんだ君は流れる動作で立ち上がるとーー
「おい、どこに行く」
--また走り出そうとするので今度は俺が腕を掴んで、止めた。
俺は取り敢えず、昨日覚えた言葉で問う。
「****」
≪訳:どうした?≫
そして、ミーシャに通訳を頼むとくすんだ君の言い分はこんな感じだった。
「つまり、宿に泊まってメシも食って、何も払わずに出てきたのか」
俺はミーシャをおろし、そうボソッと言うとーー
「お巡りさあああん、こいつでーす」
ーーくすんだ君にタックルして抑えつけた。
「*****! *****!」
たぶん、「貴様! 騙したな!」的なこと言ってんだろうが気にしない。
(貴様君それは『無銭飲食』って言うんだぞ)
この世界の法律はどんなもんなのかは知らないが状況から考えて、ダメだろう。
先刻もの買うのにお金使ったし、どう考えてもそうだ。
額に汗を浮かべているくすんだ金髪君もそれは知っている筈だろう。
もしかしないでもくすんだ金髪君ーー
(残念なひとなんだな)
--俺の未だに名前を知らない人の印象は『残念君』に固定された。
足が遅くなってきている追跡者はようやく近く、走り幅跳びで飛べそうなくらいまでーー
「**、*、、*、、、、**」
(めっちゃ息切れてんじゃん)
--ゼーゼー言いながら来………
……瞬時、
俺は金髪から手を放し、追跡者に向かって全力タックルをする。
「!?」
「**?!」
「??」
周囲は頭に疑問符感嘆符などを浮かべーー
「ぐっ、あ゛っぁああああああああああああああああ」
ーーそれは少年の絶叫にかき消された。
少年の右足からは血があふれ、折れた骨が姿を現している。
かろうじて足が皮でつながっている程度。
幸いか、黒いズボンが『それ』を隠している。
馬が通り過ぎたのだ。
暴れた馬が文字通り、暴走したのだ。
馬は追跡者の進む先を丁度通った。
少年が行動を起こさなければ、確実に追跡者はケガを、いや、致命傷だった。
少年は見て、『見』た。
そして、自らを犠牲に、一人を救った。
少年には犠牲になるつもりなど、なかった。
結果的に自身の右足の肉が抉れ、骨が折れ、一部が粉砕し、それが剥き出しになった。
………それだけだった。
少年の脳裏には痛みと伴い、『映像』がフラッシュバックする。
『映像』、それは『彼女』の笑顔だ。
次に、『彼』の糾弾が聞こえる。
強烈な痛み、鮮烈な映像。
少年の頭の中はぐちゃぐちゃに掻き乱れる。
(うっ、うわあああああああああああああああああ)
「っうっ、、、ぐっ」
脳内での叫びは声に出ず、今は呻くことしか出来ないほどに少年は弱っている。
周囲の目は減る。
幾人、その光景に目を背ける。
幾人、その光景に固まる。
幾人、その光景に関せず過ぎ去る。
幾人、その光景に戻す。
幾人、その光景に驚き目を見張る。
或人、少年に駆け寄る。
「(**、*****.******。**…………)」
少年に近づいたその神官服に身を包んだ女性は小声で、されど明瞭な発音で美しく、素早く、簡単な『術』を組み立てる。
その女性は組みあがった『術』を『起動』し少年に応急処置を施す。
処置は痛みを多少軽減し菌の侵入を防ぐ程度、少年の右足からは折れた骨が剥き出しの状態で、目に見える変化はない。
「***! ****」
金髪、その女性を見て目を見張るが、彼女の言葉に少女の目を逸らさせる。
暴馬、正面の路地に入り込む。
幾人、集って思い思い其馬を攻撃す。
少年、既に気を失う。
或人、少年に新たな『術』を施す。
女性は金髪の行動を見て、すぐに次の|指示を出す。
「***、****!」
「**」
金髪の了解を待たず、その女性は動いていた。
この町の住人にとって、その女性が人を担ぐ光景事態は珍しくない。
だが、この状況をタケルと同じ世界の住人が見たら、それはそれは驚くべき光景だっただろう。
いくら同程度の背丈であっても、人を持ち上げるという動作は常人には無理である、というのがタケルの世界の常識だ。
その常識をすらっとした細長い手足の女性が、ましてや、少年を肩に担ぎ猛ダッシュすることであっさりと打ち消しのだった。
その女性の『常識外』の行動はこの町の住人にとっては『見慣れた光景』だったので、住人は自然とただの屍となった『暴馬』の対処に取り掛かり始めたのだった。
そして、くすんだ金髪君は女性の指示に従って、もう『泣いている』と言っていいほどに目に涙を溜めた少女を連れてバルトのもとに向かうのだった。
タケルが馬に轢かれたときの周りの様子とか動きをいい感じのスピード感で表現したく、こんな文章になりました。
………まだ、『あーやって、こーやって…』の試行錯誤中です。。。 『うまい』文章が書けるようになりたい。。。