11 すっぱい
目の前には欧州の歴史マニアが見たら、全裸で町を叫びながら走りだしそうな建造物が目に入る。
その町を馬車が通り、腰に剣を携えた人や杖を握った人もいる。
「おお~、すげえ」
俺は思わずそんな声を出していた。
今、俺とミーシシャは昨日宿に来た道を逆に歩いて町まで降りてきた。
なぜ、町に降りてきたのかは、端的に言うと『観光』だ。
折角異世界に来たんだ。調査を含めた観光をしてもバチは当たらんだろう。
それに、と俺はすぐ隣を歩くミーシャを見る。
(あのまま、部屋に戻ってもな)
ミーシャは『落ち着い』ても、時々グズッっとしてーーたぶん、『ジン』関連のことだろうーーしまっていたので、外に出て気分を変えようとしたのだ。
ミーシャはあまりこの様な町ーースレッドと言うらしいーーには来たことがないらしく、辺りをきょろきょろと目を輝かせる。
しかし、「あれなに?」「~だよ」ってのが出来ないのが悩ましい。
俺たちはさらに町を歩くと、段々と騒がしくなっていき、露店などが立ち並ぶところに出た。
「たけりゅ、たけりゅ」
ミーシャもその光景に驚いた様で、俺の学ランの裾をクイクイっと引っ張る。
今朝、町に出ることをバルトに伝えると、俺の学ランは洗っており、ズボンの穴も縫われていた。
ミーシャの方の服はボロボロで修復出来なかったからと、バルトは新しく服を買ってきてくれたそうだ。
俺たちは出されたサラダーーシャキッとしておらず、新鮮とはいい難いものだったーーと柔らかい丸パンを食べてから、着替えた。
もうその頃には日は登っていて、観光には丁度いい時間だった。
(マジでいい人すぎだろ、バルトさん)
俺はポケットからバルトに貰ったお小遣いを触りながら、ミーシャの頭を撫でる。
ミーシャは長袖長ズボンのあまり、『可愛らしくない服』を着ているーー
(……ミーシャが良いから、マジ可愛いけどな)
ーーバルトの服の選び方は置いて、腕や首回りはまだ肉付きが悪いことを知る俺は、撫でる手も自然と力が弱くなる。
(流石に2食でよくなるわけないか……)
軽い朝食を食べてから、少し経ったのでミーシャに何か食べたいものはないか聞いてみる。
「ミーシャ。何か、食べたいものあるか?」
ミーシャは、俺の言葉を受けどうしようかと悩んでいるようだ。
(まあ、バルトの金だし自由に使わせてもらおう)
俺の人としてどうかと思う考えなどつゆ知らず、ミーシャのツンツンで足を止めた俺は彼女が指さす方向を見る。
「あれ食べたいのか?」
「うん」
頭を縦に振り、ミーシャは肯定する。
ミーシャが指さしたのは、果物のようだったがーー
(なんで、乾燥させたもんバッカなんだ?)
--先刻から気になっていた事だが、どこの店も乾燥させたものや、液体を満たしたビンに詰めたものが大半を占める。
俺は手早く買い物を済ませようとしてーー
(………なんて言えばいいんだっけ…な……)
--その店の前で一時停止した。
(やべ、どうしよ。どうしよ)
焦ると頭はうまく回転しない。
そこでミーシャに頼ろうと彼女の方を見るが、男のプライドでそれはやめる。
う~んとしていると、心配したらしいミーシャがクイクイっとしてきた所であの紙のことを思い出し取り出す。
(スミマセン。甘く見てました。……外国や異世界では、まず『買い物』ができないといけませんでしたね)
俺はジンさんの顔を想像しながら、ありがたやー、ありがたやーと心の中で感謝を伝える。
ポケットからバルトのお金を取り出しながら口を開く。
「****、***、*****」
≪訳:これいくらですか?≫
その後の会話はほぼ神をなぞるだけだったので簡単だった。
俺は買った干したイチゴっぽいものがいくつか入った袋をミーシャに渡すとミーシャはウキウキとした様子で食べ始めた。
俺も一つもらって食べてみるとーー
(すっぱぃ)
--クエン酸を直になめた時のような強めの酸っぱさだった。
急いでミーシャの方を見てみると、ミーシャは顔を
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>>こんな風にしていた。
しかしーー
「ミーシャ。それ好きなのか?」
ーー口に食べ物が入ってるからか、首だけの肯定だったがミーシャは酸っぱいものが好きらしい。
袋から一つずつ取り出して、小さい口でちびちびと食べていく姿はとてもとてもーー
(かわゆぃ、マジかわゆす)
--可愛らしく、少年はデレッデレだった。
そんな至福の時間を強制終了させたのはーー
「*********!」
「***! ********!」
--金髪君、もとい、何やら細長い剣を持った若い男に追いかけられているくすんだ金髪君だった。
「?!」
ミーシャは近くを高速で走った2人に驚いて果物が入った袋を落としてしまう。
「こんやろぉぉ」
それに少年がマジギレしたのはコンマ数秒で。
「***!」
少年を見た青年がUターンして少年を巻き込んだのは数秒だった。
少年は驚いた顔の彼女を抱きかかえて、青年に連れていかれるのだった。