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小 9

 布団の中で、涼はうつらうつらしていた。夢なのか現実なのかよくわからない。目の前が白くて何も見えない。なぜか空気が冷たい。

「ほのか、どこにいるんだ……」

 自分の声が遠くから聞こえる。自分の声なのに他人が言っている気がした。

 白く覆われた場所をゆっくり歩いていると、うっすらと人影のようなものが見えた。ほのかだとすぐにわかった。だが、とても背が高い。自分よりずっと大人っぽい。

「ほのか、ちょっと待て……」

 そう言いかけると、体ががくりとよろけた。

 がばっと勢いよく起き上がった。体中が冷や汗でびっしょりだった。嫌な予感でいっぱいだった。

「……ほのか……」

 小さく呟くと、また横になった。しかし続きを見るのではないかとその夜は一睡もできなかった。 

 今の映像は何なのか。やけに鮮明だった。この後本当に起こる出来事だと感じた。絶対に起きてはいけないことだ。予知夢というやつか。正夢になるのでは……。胸がどくどくと速かった。 

 学校に行くといつも通りほのかがやって来た。あの映像のほのかは、かなり大人っぽかった。

「どうしたの?涼くん。ぼうっとしてるよ」

「うるさいな。こっち見んな」

 涼は目をそらした。あの映像が蘇ってきそうだった。

 その日から、涼はほのかに冷たい態度をとるようになってしまった。ほのかがそばにいるとまた白い世界に飛ばされるような不安な気持ちになる。もちろんほのかと一緒にいたいと思っているが、やはりあの映像は見たくない。

 涼に嫌われたんだ、とほのかが思っていたらどうしようと気が気でなかった。せっかく仲良くなれたのに離れるなんて絶対に嫌だ。だがほのかは変わらず涼のそばにいた。二人でいる時は必ず横に座っていた。

 涼はほのかに聞いてみることにした。

「なあ、お前、どこに行ってたんだよ」

「えっ?何?」

「かまくら二人で作った時だよ。お前、どこかに行ってただろ」

 ほのかは首を横に傾げた。

「どこにも行ってないよ」

「嘘だよ。俺のとなりにいなかったじゃないか」

「ずっととなりにいたよお」

 泣きそうな顔をされたので、涼は口を閉ざした。ほのかを泣かせてはいけない。

 いったい何が起きたのか。不安で仕方がなかった。 

 涼の気持ちをよそに、ほのかがにっこりと笑って言った。

「かまくらに行こうよ」

 ぎくりとした。またあの白い世界に飛ばされるかもしれないし、次は本当にほのかがどこかに行ってしまうかもしれない。

「足を滑らせたら危ないもんね」

 ほのかの言葉が頭の中に浮かんだ。

 足を滑らせたら真っ逆さまに落ちる。下は固い道路で即死は確実だ。もしそんな酷い目にあったら……。

「もうあのかまくらには行かない。それにもう溶けちゃってるよ」

「じゃあまた作ればいいんじゃない」

 涼は首を横に振った。

「もうあの公園に行くのはやめる。ほのかだって歩道橋渡るの怖いだろ」

 ほのかは残念そうな顔をしたが、もうあの古い歩道橋に近づくのはやめようと決めた。

 

 あの夜……なぜあんな映像を見たのだろう。あれは夢なのか。夢とはああいうものなのか。あの後何が起きたのか。ほのかは一人でどこに行っていたのか。

 ほのかにもう一度聞こうと思ったが、嫌われるのではないかと思った。しつこい奴だといわれるかもしれない。しかも質問の内容があまりにも変だ。頭がおかしいなんて思われたらどうすることもできない。

 涼の中で、ほのかに対する想いが変化していた。ほのかによく思われたい。離れたくない。男らしい姿を見せようと無意識に努力している。一生懸命頑張っていると洋子や雄一にも褒めてもらえる。

 ほのかのためなら、ほのかが笑うのなら……。いつもそんなことを考えている。雪嫌いの自分を完全に追いやってしまおうと思っていた。冬も雪も好きになろう。冬が来なかったらほのかと出会うことはできなかったし、雪が降らなければほのかの笑顔は見られない。他のことに集中していたら次第にあのおかしな映像も消えていった。

 この想いがなんなのか、小学生の涼にはまだわからなかった。

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