小 5
次は一緒に作ろうとほのかが言い、何日かかけて雪ダルマ第二号は完成した。やった!と喜んでいるほのかを見て、なぜか心の中がじわじわと熱くなった。
「どうして一緒に作ってくれたの?」
ほのかは上目遣いになって聞いてきた。
不思議な気持ちになり、涼は答えられなかった。本当は外に出ることさえ嫌だ。それなのにどうしてほのかの手伝いをしたのだろう。
涼が黙っていると、ほのかはにっこり笑った。
「でも、雪ダルマちゃんと作れてよかったね。涼くんのお陰だよ。涼くんがいないと、あたし何もできないよ。いつもありがとう」
さらに心の中が熱くなる。涼は気づかれないように軽い口調で言った。
「そうか?一人でも雪ダルマ作ってたじゃないか。俺がいなくても」
ううん、とほのかは首を横に振った。
「涼くんがいたから雪ダルマ完成したんだよ」
そしてじっと見つめられた。
「あたし、涼くんがそばにいてくれるだけで、すっごくほっとする。ありがとう」
どきどきと胸が速くなった。なぜこんな気持ちになるのか。心の中が暖かくなるのか。
ほのかの幸せそうな顔を見れるなら、何でもやろうと決めた。ほのかにありがとうと言われる度、気分がよくなる。ほのかとの距離が縮んでいくのがわかって嬉しい。
始めは煩わしい存在だったのに……。
ほのかの笑顔が可愛らしく見えるのはなぜだろう……。
冬が来るのは、ほのかと出会うためだったのだろうか。雪が降るのは、ほのかの幸せそうな顔を見るためだったのか。
雪がたくさん降った翌日、ほのかが涼のもとにやって来た。
「雪ダルマ作ろうか」
笑顔でそう言うと、ほのかは俯いた。
「もう雪ダルマはいい。涼くんが無理してるところ、見たくない」
どきりとした。なぜか心が痛んだ。
「えっ?無理なんかしてないけど」
だがほのかは首を横に振った。
「あたし、わがまま言ってごめんね。涼くんは雪が嫌いなのに、無理矢理手伝わせて……」
「いや、俺が手伝うって言ったんだろ。手伝いたくなかったら嫌だって言うよ」
ほのかはもう一度首を横に振った。
「ううん。違う。涼くんは本当は雪ダルマなんか作りたくなかったんでしょ。あたしのわがままに付き合ってたんでしょ。……昨日、いい加減にしなさいってお母さんに怒られちゃった……。もう涼くんに手伝わせるなって。もし涼くんが風邪ひいちゃったらどうするの?って……」
よく見ると目が腫れていた。昨夜ずっと泣いていたのだろう。
「あたし、嫌な奴だよね……。雪ダルマ作りたいって自分のことばっかり。涼くんの気持ち、全然考えてなかった。もう……無理しなくていいよ」
涼は何も返す言葉が見つからなかった。ほのかを喜ばせたかったのに、逆に泣かせてしまった。
「ごめんね。自分のことばっかり考えてごめんね……」
そう言ってほのかは歩いて行った。
まさかこんな顔を見るとは……。心の中がずきずきと痛んだ。なぜそんなことを母親は言ったのか。涼は何も無理などしていないのに……。せっかく完成した雪ダルマ第二号は跡形もなく溶けてしまった。
ほのかが来てから、涼の冬の過ごし方が変わった。
「絶対外に出ないって言ってたのに……」
洋子は驚いて目を大きくした。
確かにまだ雪嫌いの気持ちは残っている。しかしそれよりもほのかにあんなことを言われたくなかった。何が涼を動かしているのかはわからない。いつもはほとんどやる気なしの雪かきも積極的に行った。雄一も驚いていた。
「どうしたんだ。雪嫌いだったじゃないか」
「もう俺は、雪嫌いじゃなくなったんだよ。雪かき、もっと頑張るから」
そう言うと、雄一は偉いな、と頭を撫でてくれた。
ほのかの涙を見たくない。涼は雪が好きになったのだとほのかに思ってもらいたい。冬が来るのはほのかと出会うため、雪が降るのはほのかの幸せそうな笑顔を見るため。そう思うと嫌いという思いが薄れていくようだった。
「お疲れさま」
ほのかに熱いお茶をもらうと、さらにやる気が増すようだった。
ほのかがいつも出すお茶はほうじ茶だ。
「あたし、お茶の中で一番好きなのはほうじ茶なんだ」
「へえ」
涼は緑茶が一番好きだったが、「俺も」と言った。するとほのかは、ぱっと明るい笑顔になった。
「やっぱり?ほうじ茶って、すっごくおいしいよね!あったかくても冷たくてもおいしいの。そっかあ……。涼くんもほうじ茶大好きなんだね!」
たったこれだけのことで、こんなに喜んでくれるとは思わなかった。さらに距離が縮んだ気がした。二人で並んでほうじ茶を飲むのが、至福のひとときだった。