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小 4

 しかしその数日後、ほのかは泣きながら涼のもとに来た。どうやら誰かに壊されてしまったらしい。

「頑張って作ったのに……」

 涼は軽い口調で言った。

「また作ればいいじゃん」

 しかしほのかは首を横に振った。

「だめだよ。もうあたし、雪ダルマ作れないよ」

「なんでだめなんだよ」

 ほのかは小さく呟いた。

「風邪……ひいた……」

「えっ」

 涼は目を丸くした。

「風邪ひいちゃった……。昨日、お母さんに熱があるって言われて……。もう外に出ちゃだめだって」

 確かに顔が赤い。額に手を当てるとものすごく熱かった。かなり酷い風邪だ。無理をしたんだな、と涼は思った。こんな状態になるまで一人ぼっちで雪ダルマを作っていたのだ。

 ぐすんぐすんとほのかは涙を流した。涼は戸惑った。風邪が治ったら、一緒にもう一度雪ダルマを作ろうと言えばいいのはわかっていた。だが外に出たくない。

「残念だったな。でも、また来年作ればいいじゃないか」

 そう言ってその場から立ち去った。

 雪ダルマを壊されただけなのに、ほのかはしょんぼりしていた。そんなにショックだったのか。熱を出してまで必死に作った雪ダルマをたった一日で壊されてしまったのだから悲しいのは何となくわかる。

 試しにほのかが雪ダルマを作っていた公園に行ってみた。確かに何もなかった。もう完全にただの雪に化してしまったようだ。

 誰が壊したのだろう。恐らく同い年くらいの男子だろう。二、三人でほのかの力作をぶち壊した。雪ダルマは未完成。さらに風邪……。涼は急にほのかが可哀相になった。

 ほのかの家に見舞いに行くと、小さく笑いながらほのかは言った。

「雪ダルマ作らなきゃよかったね……」

 熱に浮かされて目がうるうるとしている。

「公園に行ってみたけど、何もなかったよ」

「でしょ。……あたし馬鹿だよね……。涼くんの言う通りだった」

 声がどんどん弱弱しくなっていく。

「誰が壊したんだろ」

 涼が言うと、ほのかは小さく首を横に振った。

「そんなのどうでもいいよ。あたしが馬鹿だっただけ。雪ダルマ作ったって、いつかは溶けちゃうのに……。馬鹿だよね……。本当に馬鹿だよ……」

 ほのかは涙を流した。さらに可哀相だという気持ちが強くなる。

「涼くん」

 後ろからほのかの母親の文香ふみかが声をかけてきた。

「お見舞いに来てくれてありがとう。でも、これ以上ここにいたら風邪うつっちゃうかもしれない。もうそろそろお家に帰ったほうがいいよ」

 うんうん、とほのかも頷いた。

 涼はまだそばにいたかった。風邪が治るまで一緒にいたかった。しかしそれは無理だ。

 涼は迷っていた。もうやるべきことは一つしかないと思った。涼はほのかのために雪ダルマを作ってあげることにした。熱で苦しんでいるほのかの顔を頭に思い浮かべ、せっせと作った。壊されるのではないかと心配していたが、雪ダルマは完成した。

 ようやくほのかの風邪が治り、すぐに涼はほのかに言った。

「ちょっと見てほしいものがあるんだよ」

「見てほしいもの?」

「うん。風邪が早く治ってほしいって思って」

 公園に連れて行くとほのかは目を丸くした。

「えっ?どうして?雪ダルマがあるの?」

「俺が作ったんだよ」

「涼くんが?」

 さらに目を大きくした。

「だって、壊されちゃっただろ」

「そうだけど……。どうして?涼くん、雪嫌いじゃなかった?」

 涼は目を合わせないようにして言った。

「お前、すっごく落ち込んでただろ。風邪だってひいたし……。だから……」

 じっと見つめられているのがわかり、息が詰まりそうになった。なぜか緊張している。

「涼くん……」

 ほのかも緊張している声だった。

「……ありがとう……。あたし、すっごく嬉しい……」

 涼は何も言わなかった。目も合わせなかった。ありがとうという言葉が胸の中をじんわりと暖かくした。

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