現 4
大学の同級生何人かでスキーに行くことになった。涼は絶対に行きたくなかったが、いつまでもほのかのことばかり気にしているのもよくないと思い、参加することにした。ほのかも一緒にいたら最高だったのに……。どんなに願っても叶えてくれない。神様なんていないのだ。
ふとほのかからもらった雪ダルマのキーホルダーを思い出した。鞄の中を探ると白い雪ダルマのキーホルダーがあった。涼はこれをスキー用のバッグにつけた。雪ダルマをほのかの代わりとしてスキーに連れて行こうと思ったのだ。
スキーはやはり自信がなかったが勇気を出して滑ってみた。派手に転び周りから笑われたりしたが気にせず頑張った。その涼にある女性が話しかけてきた。
「大丈夫ですか?立てます?」
手を差し伸べてくれたので涼は「どうも」と言ってその手を握った。
「スキー、初めてなんですか?」
女性はにっこりと愛想よく笑った。
「ああ、はい……」
何だか恥ずかしくなって情けない声を出した。すると女性はすぐに言った。
「もしよかったら、私、教えましょうか?」
「えっ?いいんですか?」
驚いて目を丸くした。こんなにありがたいことを言ってくれるとは思っていなかった。涼は「お願いします」と頭を下げた。
女性の名前は合川千加子といった。同い年で、スキーはもう何年も前からやっているらしい。そのためか教え方も上手だった。スキーの勉強だけではなく他の話もした。初対面で男子と女子なのにとても気が合った。物知りでおしゃべりがとても楽しい。千加子と一緒にいるとほのかを忘れられるということにも気が付いた。やがて自分は千加子に惹かれていると感じ始めた。いつ告白をしようか迷っていると、千加子の方から「付き合ってくれないかな……」と言ってきた。もちろん涼は頷いた。
涼はほのかの話をすることにした。千加子になら話してもいいと思った。これから付き合うのなら話しておいた方がいい。千加子だったらきちんと聞いてくれるはずだ。ほのかと過ごしてきた日々を全て千加子に言った。千加子は真っ直ぐ涼の顔を見つめながら、何も言わず最後まで聞いていた。話が終わると目を伏せて小さく呟いた。
「……私が恋人になってもいいの……?」
涼はしっかりと頷いた。
「俺は千加子と一緒にいたい」
すると千加子は勢いよく顔を上げた。
「だけど、清谷さんが可哀相じゃない」
涼はじっと千加子の目を見つめた。
「ほのかは本当に可哀相な子だったよ。たった一五歳で、大好きな雪で命を落としたんだから」
「でしょう?清谷さんのこと、忘れられないんでしょ?だったら私となんか……」
千加子は泣きそうな顔をした。涼は首をゆっくりと横に振った。
「もうほのかのことは忘れる。いつまでも過去のことを考えていたらだめだ。新しく生きようと思ってるんだ。そのためにここに来たんだから」
「忘れ……られるの……?」
「忘れられるよ。ほのかはもういない。夢の世界だって終わった」
千加子は何と答えたらいいのかわからないようだ。涼は千加子の手を握った。
「ほのかを幸せにできなかった。だけど千加子は幸せにしたい。……俺のそばにいてほしい……」
千加子と出会ってから雪ダルマのキーホルダーも2ショット写真も全て捨てた。完全にほのかと離れると決意したのだ。これからは千加子との恋愛を楽しむべきだ。ほのかだったらきっとそう言うに違いない。
涼の想いが伝わったらしく、千加子は小さく頷いた。
「私、風見くんと一緒にいていいのかな……」
「いいんだよ。もうほのかのことは忘れるから。過去には戻らないから」
わかった、と千加子は小さく言った。
二人でスキーに行き、かなり滑り方が上手くなった。全部千加子のお陰だ。涼の趣味はスキーになった。早く冬にならないかと考えるようになっていた。
「私、涼と一緒にいられて幸せよ」
千加子が微笑み涼も嬉しくなった。
「俺も、千加子に会えて本当によかったよ」
二人で手を繋ぎキスをした。胸がどきどきと速くなりじわじわと熱くなっていく。
大学を卒業したら、涼と千加子は夫婦になりやがて親になる。家庭を作りもっと幸せになれる。その幸せはずっと永く続いていく。もう白く覆われた世界は終わった。涼の光輝く新しい世界が始まったのだ。
読了ありがとうございました!
初めて感想をいただき、とても嬉しいです!
書いている間中なぜか寒かったです。
パラレルワールドというより、ちょっと記憶喪失っぽくなってしまいました……。
まだまだ勉強不足ですね(><)もっと頑張ろう……。
でも最後まで書けて満足しております。
ちなみに、この過去は変えられないというのは私がよく思っていることです。
過去は変えられない。後悔しても遅い。じゃあ、後悔しないように生きていけばいいんだ!と自分に言い聞かせてます。(でもやっぱり後悔すること多いです……)
ではでは、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!




