高 3
最近なぜか眠くてたまらない。寝不足ではないし頭を使ったわけでもないのに、ものすごく眠くなる。
ほのかは心配な目で見つめてきた。
「疲れがたまってるんじゃないの」
すぐに涼は首を横に振った。
「違うよ。疲れじゃないよ。だってあんなに寝てるのに」
ほのかも首を傾げた。
「そうだよね。毎日あんなにたくさん寝てるもんね。休みの日なんか十二時間以上寝てるし」
呆れた顔をされてしまった。うん、と涼も頷いた。
「本当、最近眠くて眠くて仕方ないんだ。目覚ましをかけてもどんなに早く起きようとしても無理なんだよ」
ほのかによると、何度声をかけても体を揺すっても全く起きないらしい。起きているより寝ている時間の方が多いのだ。
この異常な眠気は何なのだろう。いきなりどうしたというのか。
「高校生になってから、すっごくぼんやりするようになったよね」
言われてみればそうだと気が付いた。高校生になってからやけにぼんやりする日が多くなった。
ほのかを心配させたくないため黙っているが、眠りにつくといつも同じ夢を見る。真っ白で冷たい空間にいて、ほのかを探している。目の前が見えずどこを歩いているかわからない。まるで現実に起きているように鮮明なのだ。しばらくして、うっすらとほのかの人影が見えてくる。ほっと安堵の息を吐き、ほのかの腕を掴もうと手を伸ばすと突然体がよろける。まずいという言葉が頭の中に浮かび、ぎゅっと目をつぶる。いつもそこで終わるのだ。恐る恐る目を開けるとベッドの中にいる。その後に何が起きたのかわからない。体が冷や汗でびっしょりなのもおかしい。嫌な予感がしてどうしようもなくなる。そしてなぜかほのかが部屋からいなくなっているような気がする。
「ほのか、いるか」
真夜中に部屋に来られるのは誰だっていらつくものだ。かなり不機嫌な顔でほのかはドアを開けた。
「こんな遅くに……なに?」
「よかった……ほのか……」
涼は強くほのかの体を抱きしめる。
こんな日々がもう何日も続いている。自分が眠っている間、ほのかがどこか違う場所にいるのではと無意識に考えている。そんなわけはない。ほのかが涼のそばから消えることなど絶対にない。
「ちょっと俺、どうかしてるな」
そう言うと、ほのかは大きく頷いた。
「もういい加減にしてよ」
ほのかが睨むように言った。
「人が話してたらぼんやりして全然聞いてくれないし、夜遅くに起こされるし、どれだけ声をかけても体揺すっても起きないし……。本当、どうしちゃったの?」
だが何も答えられない。涼もわけがわからないからだ。
「寝すぎでぼうっとしちゃうの?」
心配する声に変わった。そのほのかの顔を見て、こんなに悲しげな顔をさせたくないと思った。彼女を心配させる彼氏なんか最低だ。絶対にそんな彼氏になりたくない。
「ごめん。しゃっきりするから」
胸を張って言った。
ほのかを心配させるんじゃない。
もっとしっかりしなくては……。
そう自分に言い聞かせているが、やはり気が付くとぼんやりしてしまう。
「全然しゃっきりできてないじゃない」
ほのかに声をかけられた。はっと我に返ると、涼は喫茶店のテーブルの前に座っていた。目の前には明らかに気分を悪くしているほのかの顔があった。
「悪い。えっと……何の話だっけ?」
だがほのかはすねたように横を向いた。
「もういい。帰る」
「えっ」
驚いて目を見開いた。あわててほのかを止めた。
「帰んなくたっていいじゃん。ちゃんと聞く……」
「いいよ。どうせまたぼけちゃって覚えてないとか忘れたとか言うんでしょ」
ほのかは椅子から立ち上がった。仕方なく涼も帰ることになった。
家までの帰り道を歩きながら、涼は記憶を遡った。いつもと同じくほのかは紅茶で涼はコーヒーを頼み、ほのかのおしゃべりが始まった。ここまでは覚えている。だがそれからがわからない。忘れてしまったのではなく、完全に真っ白なのだ。消えてなくなっているのだ。
家の中に入ると、ほのかはじっと涼の目を見つめた。
「涼、おかしいよ。本当に変だよ。スキーの約束だって忘れちゃってたりして……。寝てばっかりだし」
「いや、俺は変じゃないよ。ちょっと忘れっぽくなってるだけで」
そして無意識にあることを聞いてしまった。
「お前が何か間違えてるんじゃないか?」
「えっ?あたしが悪いの?」
ほのかが驚いて目を大きくし涼はあわてた。
「悪いって言ってるんじゃなくて。何か、夢の中の話とか」
ほのかは目をそらし、しばらく黙っていたが、くるりと後ろを向いてしまった。
「なあ、さっきの喫茶店で言ってた話って何なんだよ?教えてくれよ」
聞いてみたが、ほのかは小さく呟いた。
「もういい」
「もういいって……。俺はよくないんだよ」
ほのかはもう一度言った。
「もういいよ。過去のことなんか知ってもどうでもいいじゃない」
そして話を終わらせてしまう。
涼の心の中に悶々とした黒い塊ができていく。どうして言わないんだろう。ほのかの態度が不自然に見えて仕方がなかった。




