中 11
新しい制服に腕を通しただけで、なぜか自分が大人になったような気がした。これからは親に頼らず、一人で何もかもやらなくてはいけない。横で洋子がデジカメを持って笑っていた。
「なんだよ。なんかおかしいか」
むっとして言うと、パシャっと写真を撮られてしまった。
「ちょっと、その写真どうするんだよ」
「おじいちゃんとおばあちゃんに見せるの!当たり前でしょ!」
「返せ!そんな写真見せられないだろ!」
涼が洋子からデジカメを取ろうと取っ組み合っていると、玄関先から明るい声が聞こえてきた。
「涼ちゃん、何やってるの?」
振り向くとほのかが立っていた。涼と同じデザインのリボンと少し短めのスカートが目に入った。
「この学校、制服可愛いね。中学生の時は地味だったしお化粧もできなかったけど、これからは全部やっていいから嬉しい」
輝くような笑顔を見て、もちろん涼の胸は高鳴った。
「似合ってるよ」
照れながら何とかそれだけ言うと、ほのかもじっと涼の顔を見つめた。
「涼ちゃんもすっごく似合ってるよ。ネクタイの色とかぴったり。かっこいいよ」
そして二人で見つめ合った。まるで夢の中にいるようだ。心臓がどきどきと跳ねるのが心地いい。ほのかも同じ想いであってほしいと祈った。
「何だか恋人同士みたいね」
洋子に言われ涼は焦った。まさか心の中を見透かされているのではないかと思った。この言葉でほのかはどう感じるだろう。変に意識されたりしたら困る。余計なことをするなと洋子に言ってやりたかった。動揺を隠しながらちらりとほのかの顔を見た。手を口に当てて笑っている。どうやらただの冗談だと受け取ったようだ。小さく息を吐き安心したが、複雑な気持ちにもなった。
「ほのかちゃんも来て」
そう言って洋子はデジカメを構えた。
「もうやめろ……」
言い終わる前に、ほのかとの2ショット写真を撮られてしまった。こんな写真を他人に見られたらまずい。
「返せよ!」
涼はまた洋子の手からデジカメを取ろうとしたが、ほのかに腕を掴まれてしまった。
「涼ちゃん、早く行こう。入学式遅刻しちゃうよ」
「でもこんな写真、誰かに見られたら……」
「別にいいじゃない。あたしは嫌じゃないよ」
ほのかが嫌じゃなくても俺が嫌なんだよ、と言いたいのを抑え、涼は仕方なく高校に向かった。
まだところどころに雪が残っており、地面がつるつるになっている。歩き方がうまくないほのかは、何度も滑り倒れそうになった。慣れない革靴なのが余計に歩きづらくさせる。滑り止めを付けるのも忘れてしまったらしい。特に古い歩道橋はかなり危なかった。涼がいなければ転んで酷い目に遭っていたかもしれない。
ようやく学校に着き、二人で息を吐いた。とりあえず建物の中に入れば安心だ。まだできて数年の新しい高校を見て、涼はこれからほのかとどんな日々を送るのか想像した。絶対に告白する。もう覚悟は決まっている。無意識に拳を作っていた。
校長の長すぎる挨拶を延々と聞き、ようやく入学式は終わった。
「肩こった……。いつまで挨拶続けるんだよ」
涼がそう言うと、ほのかも大きく頷いた。
「あたしもすっごく疲れた。同じこと何回繰り返すのって感じ」
顔をしかめ腕を組んだほのかを見つめて、ほのかはどんな表情になっても可愛い女の子だと思った。好きだからこう感じるのかもしれないが、誰が見てもほのかは可愛らしいと言うに違いない。そんなほのかと恋人同士になれたら……。
これで準備は整った。あとは涼が想いを伝えるだけ。好きだと言うだけだ。歩道橋を渡りながら前を歩くほのかの後ろ姿を見た。この歩道橋を降りる前に告白をしようと決めた。
「なあ、ほのか……」
声が小さ過ぎたためか、ほのかは反応しなかった。もう一度口を開けようとしたその瞬間、突然冷たい強風が涼とほのかの間を通り過ぎた。まるで二人を引き裂くように鋭かった。あまりにも強い風で、男の涼でも体がよろけ倒れそうになった。柵ががくがく揺れて何本か下に落ちている音がする。
何をもったいぶってるんだ……。
早く告白をしろ……。
男のくせに情けない……。
そう言われてるような気がした。目をぎゅっとつぶり心を落ち着かせると、ゆっくりと開けた。




