小 2
そんな冬嫌いの涼の前に、ある女の子がやって来た。清谷ほのかという名前だった。小学生になってすぐに涼の近所に引っ越してきた。涼と同い年で目が大きく肌が雪のように白かった。世間から見たら「可愛い女の子」だろうと思った。しかし涼は女の子に興味がなかった。もちろん、ほのかと恋愛をする気などさらさらなかった。
「東京から来たんだ。これからよろしくね」
「東京?わざわざ北海道に来たのか」
「そうだよ。あたし、北海道に住んでみたかったの。願いが叶って嬉しい」
そう言ってほのかは笑ったが、涼はほのかと仲良くする気はなかった。女の子と話しているのを知られたら、馬鹿にされると考えたからだ。同級生にほのかが好きなんだろうと言われたらたまったものじゃない。毎日学校に行く度冷やかされるのは目に見えていた。ほのかに話しかけられても無視をした。
「涼くん、さっきの先生の話、わかった?」
「明日、算数のテストだって。どうしよう」
涼は全て聞かなかった。目も合わせなかった。やがてほのかも涼の気持ちがわかってきたようだ。
「ねえ、涼くんは、あたしと仲良くしてくれないの?」
「どうしておしゃべりしてくれないの?」
何度も聞かれて、涼はようやくほのかと会話した。
「馴れ馴れしくするなよ」
「馴れ馴れしくなんかしてないよ」
ほのかはしっかりと涼を見つめた。
「いつもいつもそうやって話しかけてくるのが馴れ馴れしいって言ってるんだ」
そしてふとあることに気が付いた。
「だいたい、どうして女の友だちを作らないんだよ」
ほのかは一瞬口を閉ざし、小さく呟いた。
「……だって、あたし、まだ北海道に来て全然経ってないし……。知ってる子、一人もいないし……」
仲間外れにされてしまうんだな、と表情でわかった。涼は男だからよく知らないが、女の子は集団で行動しているように見える。そして仲間ではない子には平気で酷いことをする。今ほのかはどの集団にも属しておらず、浮いた状態なのだろう。自分のそばにいてくれるのは涼しかいないと思っているのだ。
「涼、ほのかちゃんと仲良くしなさいよ」
洋子にも言われ、涼はうんざりした。
「なんで俺が女と仲良くしなきゃいけないんだよ」
「女なんて関係ないでしょ。ほのかちゃん、毎日一人ぼっちで寂しいみたいよ」
「女の友だち作ればいいんだよ」
洋子は首をゆっくり横に振った。
「ほのかちゃんと仲良くしてあげて。話をするくらいなら嫌じゃないでしょ?」
「でも他の奴らに馬鹿にされるし」
「馬鹿にされる?」
洋子は目を大きくした。
「なに?馬鹿にされるって」
「女と一緒にいると、勝手に恋人同士とか言われるんだよ。俺、別にあいつのことなんか何とも思ってないし。馴れ馴れしくてしょうがないんだよ」
「涼、もし自分が一人ぼっちになった時、どうする?」
洋子は明らかに怒っていた。涼はぐっと体に力を入れ身構えた。
「どうするって」
「誰かと一緒にいたいって思わない?誰かがそばにいてくれるだけで、ほっとしない?」
洋子の目がきつくなる。涼はふん、と横を向いた。
「俺は一人ぼっちでも全然平気だけど」
「でも、ほのかちゃんは違うの」
じっと涼の顔を見つめ、もう一度言った。
「ほのかちゃんと仲良くしなさい。わかったわね」
もう反論しても無駄だと思い、仕方なく話には付き合ってやることにした。
「ありがとう。あ、あたしのことはほのかって呼んでね」
ほのかは喜んでいたが、涼は何も言わなかった。周りの奴らにどんな目で見られるかと想像し、うんざりしていた。