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中 7

 図書館に行ったりお互いの家に行ったりして、二人は受験勉強をした。ほのかを見て、もちろん洋子は驚いた。こっそり耳元で聞いてきた。

「同級生って女の子だったの?しかもすっごく可愛くて。どうしてあんな子と知り合ったのよ」

 涼は何も答えられなかった。可愛いと言ったら惚れているのがばれてしまう。しかしそんなことは思っていないと嘘をつくのは嫌だ。もしその嘘がほのかの耳に入ったりしたら最悪だ。

「勉強の邪魔するな」

 そう言って洋子を追い払った。

 ほのかの家に初めて行った時は、本当に緊張した。女の子の部屋なんか入ったことがないし、ほのかの母親の文香はとても綺麗な女性だった。ほのかも大人になったらこんな姿になるのかと想像した。思春期だからなのか、以前よりずっとほのかが気になる。そっとほのかを見つめていると、ほのかも目を向けてきた。

「なに?」

「なんでもないよ」

 教科書で赤くなった顔を隠すと、ほのかはいたずらっぽく笑った。

「もしかして、あたしに惚れてる?」

 どきりとした。ここでばれてしまったら何もかも台無しだ。

「な……なに、馬鹿なこと……」

 すぐにほのかは言った。

「冗談だよ。ほら、次の問題やるよ」

 涼は心を落ち着かせるためにこっそり深呼吸した。しかし手先が小刻みに震えている。なかなか動揺は消えてくれない。本当に惚れられていたと知ったら、どんな顔をするのか。そしてどんなことを想うのか。

 ほのかの可愛さは日に日に増していく。このほのかと恋人同士になれたら……。そう思っていると、ある映像が頭の中によぎった。二人でスキー場にいる。ほのかは涼の腕を抱きしめ、涼もほのかを護るために体を抱いている。まるで本当の恋人同士に見えた。

「涼ちゃん?」

 ほのかの声ではっとした。ほのかは心配するような目で見つめてきた。

「ぼんやりして……大丈夫?」

「う、うん。大丈夫」

 すぐに笑って答えた。

「受験なんだから、ぼけてちゃだめだよ。せっかく同じ志望校なのに」

「そうだな。二人で合格しなきゃ意味ないもんな」

 涼は顔を叩き、背筋をぴんと伸ばした。しかしまだあの映像は頭の中に残っていた。

  





 勉強に疲れて、涼は眠ってしまったらしい。夢なのか現実なのかよくわからない場所にいる。

「ほのか、どこにいるんだ……」

 遠いような近いようなところから自分の声が聞こえた。目の前が真っ白で何も見えない。なぜかほのかの姿がない。どこに行ってしまったのか。

「ほのか、どこにいるんだ……。ほの……」

 呟きながらゆっくりと歩いていると、うっすらと人影のようなものが見えた。すぐにほのかだとわかった。だが、中学生の姿ではなかった。もっと大人だと感じた。高校生くらいか。妙だと思ったが見つかったという安堵の気持ちでいっぱいになった。

「ほのか、ちょっと待て……」

 そう言ってほのかの腕を掴もうと手を伸ばしたその時だった。突然体ががくりとよろけた。深い穴に落ちていくような気がした。目をつぶり嫌な予感が体中に溢れた。

 はっと目を開けると、涼は部屋の机の前に座っていた。体が冷や汗でびっしょりだった。フルマラソンをした後のようだ。はあはあと肩で息をしている。目の前には涼と同じく受験勉強に疲れて眠っているほのかがいた。

「ほ、ほのか。起きろ」

 ゆさゆさと体を揺らすと、うーんと言いながらほのかが目を覚ました。

「あ……寝ちゃってた……」

 苦笑いしているほのかの肩を掴み睨むように見つめた。

「お前、今どこに行ってたんだ?」

「どこに行ってた?」

 ほのかは目を大きくした。涼はさらに声を硬くする。

「今、俺の前からいなくなってたじゃないか」

 だがほのかはすぐに首を横に振った。

「どこにも行ってないよ。ずっとここにいたよ」

 涼は何も言葉が見つからなかった。ただの夢だろうか。それにしてはやけに鮮明だ。そういえばこの前もおかしなことが出来事があった。涼くんの夢はなあに?とほのかの声がどこからともなく聞こえた。また不安な気持ちが生まれた。いったい何が起きているのか……。

「涼ちゃん、お茶飲みたい?」

 ほのかに聞かれ、我に返った。ほのかはにっこりと笑って涼を見つめている。

「ああ、じゃあ……」

「緑茶がいいんだよね」

 口調がかなり固かった。本当は緑茶が好きなのに嘘をついた涼が許せないのかもしれない。口元は穏やかなのに視線は鋭かった。

「いや、ほうじ茶でいいよ」

 明るい声で言ったが、ほのかが持ってきたのは緑茶だった。

 嘘なんかついてないのに……。いつ自分はほうじ茶が好きだと言ったのか。ほのかにかなり悪い印象を見せてしまったと悔やんでいた。






 

 

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