中 4
もう一人リョウという人物がいて、ほのかはその人物と涼を勘違いしているのか。そうではなく、本当にリョウは涼のことだから、ほのかはあんなにも親しくするのか。
しかし涼にはほのかと出会った記憶はないし、もちろん思い出すことなどできない。ということは、やはりもう一人リョウという人間がどこかにいるのだろう。ほのかは勘違いをしているのだ。なぜ勘違いをしているのかはわからない。
何度も何度も考えたが、結局「もう一人リョウがいる」という答えしか出ない。
とりあえずこの謎は置いておき、涼はほのかとスキーをする場面を想像してみた。二人きりでスキーをする。周りに知っている者はいない。邪魔されない。まるでデートのようだと感じた。高校生になったら、ほのかはどんな女の子になるのだろう。もっともっと可愛らしくなるはずだ。
そして、そのほのかに相応しい人間にならなくてはいけないと自分に言い聞かせた。どんなにほのかが可愛くて美しくても、となりにいる涼が劣っていたらお似合いの恋人になれない。もっとかっこよくて自信が持てるように努力しなくてはいけないのだ。ほのかの言っている「もう一人のリョウ」の存在を怖がっている暇はないのだ。
ねえ、涼くんの夢ってなあに……?
涼はきりっと背筋を伸ばした。もちろん、涼の夢はほのかと恋人同士になることだ。
よく好きな人が好きなものは、自分も影響されるという。相手が自分と同じものが好きだと知ると嬉しいものだ。今まで涼は冬や雪が嫌いだったが、距離が縮まるのなら好きになろうと考えた。
「俺、雪が好きなんだよ」
そう言うと、ほのかは少し目を大きくした。
「前は外に出るのも嫌だって言ってたけど」
またもう一人のリョウの話か……。しかし嫌な顔はしなかった。
「でもやっぱり雪って綺麗だよな」
大好きなほのかに影響されたとは言えない。「好きだ」と堂々と言える自信はまだ一つも持っていない。
ほのかは、ふふっと小さく笑った。
「変なの。でもこれで一緒にスキーできるね」
うまく滑られるのか少し不安になったが、すぐに頷いた。
涼の雪嫌いという気持ちをほのかが溶かしたようだ。ほのかが笑うのなら何でもやろうと決めた。ふと以前もこんなふうに考えたことがあった。誰かの幸せそうな顔を見て心の中を暖かくした。それが誰だったかは思い出せないが。
「スキー、行くの楽しみだね」
ほのかの笑顔を見ながら、もしかしたら、ほのかの夢は涼と二人でスキーをすることだったのではないかと勝手に想像していた。