中 3
突然目の前が真っ白になった。何も見えない。白一色だ。この世界から色が消えてしまったようだ。
「ねえ」
ほのかの声が聞こえた。
「涼くんの夢ってなあに?」
「えっ?」
涼は目を大きくした。どこかで聞いたことがあるような気がした。
「あたしには夢があるよ……」
「夢?清谷の夢?」
頭を抱えながら呟いた。
「夢っていうか……やってみたいこと」
さらにほのかの声が耳元で聞こえる。姿はないのに声だけ聞こえてくる。
「何だこれ……」
目を閉じ、首を横に振った。遠いような近いような場所からほのかの声が聞こえてくる。その場にしゃがみこんだ。学校の廊下のはずなのに空気が冷たい。雪の中にいるみたいだ。
「どうしたの?涼ちゃん」
はっと我に返った。目の前に、不思議なものを見るような顔でほのかが立っていた。
「具合悪いの?」
勢いよく涼は立ち上がり、ほのかの肩を掴んだ。
「今、お前変なこと言ってただろ」
「変なこと?」
小さく頷き、もう一度涼は言った。
「涼くんの夢はなに?とか、あたしには夢があるよとか」
ほのかは首を傾げた。
「そんなこと言ってないよ」
「言ってただろ。それに、周りが雪で覆われてるみたいに白くて寒くて」
苦笑いしながらほのかは言った。
「なに言ってるの?変な夢でも見たんじゃない?」
「本当なんだよ。信じてくれよ。夢なんかじゃないよ。絶対夢じゃない」
そういいながら心の中で思った。夢じゃないならなんだというんだ。どうして声だけ聞こえたんだ。ずっと遠くから聞こえたような気がしたが、すぐとなりで聞いているような気もした。そして、なぜ涼ちゃんではなく涼くんと呼んだのか。
必死な涼を見つめ、ほのかが軽い口調で言った。
「疲れてるんだね。早めに寝たほうがいいよ」
「違う……。違うんだよ……」
付き合いきれないというようにほのかは歩いていってしまった。ほのかがいなくなると不安な気持ちはなくなった。
今のは何だったのか。しかし考えるのが怖かった。それを知ってしまったらまずいと思った。
ほのかの言っているリョウは誰のことか。もう一人のリョウはどこにいるのか。もし、もう一人リョウがいたら、どうしてほのかは勘違いしているのだろう。
あたしには夢があるよ……。
ほのかの夢とは何だろう。もう一人のリョウは知っている気がした。