↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/64

59章 餞別の一言



 僕と点火済みの導火線が礼拝堂へ戻るのと、『蛇達』の侵入はほぼ同時だった。

「あら、“燐光”はどうしたの?」

 その問いには答えず、嘆息混じりに別な事を口にする。

「皮肉な物だよ。『蛇』に身体を乗っ取られたこの場所で―――」

 思ったよりも速い炎の進行を確認し、ドンッ!手近な一樽を姉弟に向けて転がす。


「『蛇』を退治する羽目になるなんてね!」「「!!!?」」


 驚愕する雌雄の横を駆け抜け、開いた入口から外へ。素早く身を伏せ、鼓膜が破れないよう耳を塞ぐ。


 爆風。轟音。焼け付く熱波と共に、粉々になった大量の木片が背中に降り注いだ。


「やっ………た?」

 半ば灰と化した塵芥を払い除け、恐る恐る振り返る。教会は見事に跡形も無く吹き飛び、床一面焼け焦げて真っ黒。まだ所々で火は燻っているが、『蛇達』は影も形も無かった。

「あ、あ……御免、サンチャ姉さん、イエリ……」

 願わくば三姉弟、ずっと仲良く暮らしたかった。せめて安らかに。そう思い、槍を小脇に祈った瞬間、


 ゴボッ!「っ!!?」


 地中から凄い力で足首を掴む、鱗だらけの二本の腕。その先から顔を煤だらけにし、明らかにやつれた二人が現れた。どうやら咄嗟に身体中の『蛇』を盾にし、本体を守ったらしい。

「酷いわ。私達を焼き殺そうとするなんて……」

「流石に今のは効いたぜ。けど、これで仕舞い」


「終わりなのはそっちよ」ザシュッ!


   



「大罪人は斬首と相場が決まっている。でしょ、衛兵さん?」


 見覚えのある煌びやかな双剣を手に大欠伸を掻く小晶さん。いや、その姿を借りた大恩ある女主人へ、僕は跪いて頭を垂れた。

「ええ……仰る通りです」

 落胆を全面に押し出した返答に、女王陛下は黙って切断した二つの頭を炎へ蹴り込む。上がる絶叫にも眉一つ動かさず、淡々と融けゆく戒めの手を一瞥した。

「大丈夫だよ。誠は私を導くために現実世界へ残ってもらっているの」

 そうだったのか。なら、あの温かい力は矢張り彼の……!

「今起きれば会え―――ないかもね。流石にもう嗅ぎ付けられているだろうし」

「?ああ……そう、ですよね……」

 彼の心臓には、三百人近くいる不死族全員の命が懸かっている。半日以上所在不明なら、捜索の手が回る事は容易に想像が付いた。


―――にーいーさーまー!早く帰ろうよー!!

―――駄目だよ、まだ二人共目を覚ましてないのに……。

―――体温も平熱に戻っていますし、もう放置しても何も問題ありませんよ。それよりも、坊ちゃまの体調の方が余程深刻な事態。一体何時から食事を摂っていないんです?今にも倒れそうですよ。

―――こいつ等の言う通りだ。坊主、もう俺達は大丈夫だから帰って休め―――助けてくれてありがとうな。


 大方こんな所か。きっと船着場には今頃、彼専用の立派な宇宙船も待っている事だろう。

 立ち上がりながらガッカリする僕の視界に、ふと怪物のくべられた炎が入った。ん?今、何か動いたような―――っ!?


「危ない、女王様!!!」ヒュッ!ガンッ!!


 白い首筋目掛け高速で飛んで来た二人を、横に薙ぐ一閃で叩き落す。焼かれていたにも関わらず、煤けた顔は爛れてはいなかった。

「ふ、ふふふ……」

「はははは……」

「何が可笑しいんだ?」

 炎で皮膚が癒着したのか、双首は後頭部で互いに繋がっていた。星空を仰ぎながら頬まで裂けた口を開き、人外の醜悪な表情を浮かべる。

「どんなに抗っても無駄よ。私達は輪廻転生だって言ったでしょう?」

「だがその頑張りに報いて、今回は勝ちを譲ってやるよ。けど兄貴、次の俺達は必ずあんたを」

 戦慄の再戦宣言を、しかし僕は―――小気味良く鼻で笑ってやった。

「「?」」

「ねえ、二人共。もし記憶があるなら、前世の僕はこう言ってなかった?」

 わざとらしく口の端を上げ、悪い顔を自覚しながら教えてやる。


「―――ああ、可哀相に。また懲りずに小晶さんに盗られに行くんだ、って」


 グシャッ!激怒の金切り声を上げる怪物達の脳天を、穂先の一撃で以って打ち砕いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。