26章 夜明け前の出立
常とは違う凍てつく寒さに目覚め、すぐに自室でないと気付く。
そこから昨夜の記憶を辿りバッ!半ば上体を起こして、背後のソファを確認。既にあの不思議な少女の姿は無く、彼女の使っていた毛布は僕の布団の上に畳まれていた。
(あの子、あんな格好で一体何処へ……?)
そもそも女の子が一人で、それも季節を無視した軽装で雪山へ現れた事自体が奇妙極まりないのだが……。
(もしかして、彼女も奴等と同じ幻覚……いや)
『蛇』に魅入られかけた僕を正気に戻した、冷たくも意志の強い掌。あれには確かな質量があった。休んでいたソファも、良く見れば僅かに凹んでいる。何よりも、そう……彼女の面差しは、何処かあの人に似ていた。化物の仲間だとは到底思えない。
「こんな所でボーッとしてる場合じゃない―――行こう」
窓の外はまだ真っ暗だ。城の皆に居場所を嗅ぎ付けられる前に出掛けないと。
「ん?あれ……?」
確か寝巻きで眠った筈なのに、纏っているのは見慣れないカジュアルな冬の装いだった。勿論僕の持ち物ではなく、刑務官さんの衣服とも違う。肩幅の広い彼の物なら、僕がこうもピッタリ入る訳が無い。
(着替えた記憶は無いし、まさかあの子が……いや、流石にそれなら起きるよな)
謎は増えるばかりだが、今は一刻も早く定期船へ乗る事が先決だ。あ、しまった!パスポートと財布を部屋に置きっ放し、
「はい」「っ!!?女王様!!!?」
差し出された貴重品を黒のウインドブレーカーのポケットへ収めつつ、普段通りの外出着で現れた主人を驚きながら見やる。その背後にはまだ眠いのか、全身で大きく欠伸するボビー。
「ど、どうしてここが分かったんです!?それに何故」
皺にならない内に寝具をソファに畳んで置き、彼女と対峙する。
「酷い言い草だね。折角有給休暇をあげようと思ったのに」
「え?」
「治療中のくせに毎日一生懸命働いてるし、偶には息抜けば?あ、言っとくけどセミア達には内緒だから」欠伸。「そろそろ旅行したい当てがあるんじゃない?」
爪先を立ててんー!と背伸びした後、吃驚仰天する僕の肩を叩いた。
「―――今日はとことん付き合ってあげるよ、何処まででもね」




