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ローザ村奪還作戦Ⅱ

敵兵は息も絶え絶えに言った。



「あんた………に………一つだけ…頼め……ないか」



彼を斬った騎士が見下して言った。



「貴様の願いなど聞くまでもない!賊は賊らしく、惨めに死ぬがいい!」



騎士は剣を抜いて首を斬り落とそうとする。しかし



「止めよ」



パーシヴァルは、首を斬り落とそうとした騎士を止めた。



「その願い、言ってみろ」


「団長!?」



騎士はパーシヴァルが盗賊の意見を聞くのに驚いている。

死にかけの敵兵は最後の力を振り絞って言った。



「……あん…たが斬った…鮮やかな服を着た……男は…俺達の小隊長………だ………。

小隊長を………シャガール……平原に、埋め………てくれ。

小隊長の………故郷……らしいんだ……」



「………埋葬の願いか」


「墓石は……いらねえ……。ただ、埋めたら………分からないように、人や馬で………地面……を均し………て欲し…い」


「……分かった」



パーシヴァルは剣を抜いた。



「…だが、埋葬の前にまず貴様を楽にしてやろう」



パーシヴァルは、敵兵の首目掛けて剣を降り下ろし、斬り落とした。

パーシヴァルは剣に着いた血を振り落とし、納めた。

これを見て騎士が言った。



「団長、では遺言通り、この男はシャガール平原に……」


「いや、埋めなくていい」


「はい?」


騎士は困惑した。さっきパーシヴァルは「分かった」と言って了承したはずである。



「あの、男の意見を受け入れたのでは?」


「俺は『分かった』とは言った。

しかし、『実行に移す』とは言っていない」


「…………」


「賊にかける情けなどないし、ましてや願いを聞き入れる気など最初からない。むしろ、願いとは逆のことをしてやろう。賊に落ちた報いだ。

そのリーダーの男は、街の中心で晒し首にしろ」


「…はっ……」



騎士は、まわりにいた数人の騎士とモンタナの死体回収に行った。

そこに、入れ違いに伝令が走って来た。



「報告します、本隊は順調に進攻を続け、村民の多くを救出。

敵兵はもはや数少なく壊滅状態です!」


「そうか、こっちも見ての通り奇襲は成功した。すぐに合流する」



パーシヴァルは伝令に本隊に戻るよう命じ、去らせた。

そして、剣に着いた血を落としている騎士や、応急処置をしている騎士達に向かってやや大きな声で呼びかけた。



「これより、俺達は本隊と合流する!準備を急げ!」



パーシヴァルは旗手を呼び、リーダー死亡の証として高台に旗を掲げるよう命じた。

続けて伝令を呼び、作戦達成の旨をハルナ勢に伝えるように命じた。

そして、自身は地図を片手に考えこんだ。



「(さて、次は援軍の撃退だが、やつらはどのルートを通ってくるか……)」



といっても、どこから進攻するかは凡そ見当がついている。北からの進攻と、西からの進攻だ。

あとは編成の問題が残っていた。





「団長、準備が整いました」



数分の後、騎士の一人が報告に来た。



「……分かった」



パーシヴァルは地図をしまい、自分の馬に乗った。



「行くぞ!」


「はっ」



他の兵達も、パーシヴァルの合図に続いて動き出した。





一行は村の中心に到着した。そこでは、負傷した兵達が治療を受けていたり、死体が一ヶ所に並べられている。



「団長!」



突然、パーシヴァルを呼ぶ声がした。後続の兵士達を止め、声のした方を見ると、机を中心にして部隊長達が集まっている。

数人の部隊長達がパーシヴァルの元まで走って来た。



「先程、奇襲が成功したという話を聞きました。おめでとうございます」


「流石、団長でございます」


部隊長達は口々にパーシヴァルを称えた。しかし、パーシヴァルは途中で制した。



「いや、戦いはまだこれからだ。まもなく、ハデスの援軍が到着する。

短時間でなんとか防衛に備えねばならない。

そこまでは気を抜けない」



お前達は休んでいろ、後続の兵達に言って自分は下馬し、作戦を練るため先程部下が集まっていたところに向かった。

歩きながら、部隊長の一人に尋ねる。


「ところで、他の兵士達はどうした?」


「はっ、一先ず防御が薄いと思われる西側と北側に派遣しました」


「そうか、わかった」



パーシヴァルは部隊長達を全面的に信頼しているため、こういったことも当然のように任せられた。事実、部隊長の判断はパーシヴァルのそれと一致している。

そうこうしているうちに到着した。集まっている部隊長達は皆、机上の地図を囲んで眺め作戦を練っているように見える。



「兵力の配分はどうなっている?」



パーシヴァルは周りの部隊長達をかき分け、地図を見た。地図には、兵の防御地点に印がつけてあり、兵種ごとに配備数が書かれていた。



「………………」


「この配備数はあくまで臨時のものです。細かな配分は団長からの支持を仰ぎたいと考えております」


「いかがでしょうか?」


パーシヴァルは地図を見ながら少し考えて


「まあ、大体良いだろう。だが、用心を重ねて、北側は少し増員をしておくか。……といっても、まわせるのは剣兵だけだろう?」


「そうですね、東側と南側に待機させている部隊だけになりますね」


「では、南の待機部隊のうち、200を北側に派遣しろ」


「はっ」



そう言うと、部隊長は地図に移動の件を書き込んで、パーシヴァルにまだ変更すべき点があるか尋ねた。



「編成に関しては以上だ。ああ、それから、村に転がっている死体や建物の瓦礫があるだろう。あれを積み上げてバリケードの代わりにしろ」



流石にこの命令には部隊長達も少し驚いた。



「……死体ですか…?」



「まあ、罰当たりかもしれんが致し方ない。いつ攻めてくるかも分からない状況では、ある物で代用するほかあるまい」


「承知いたしました」



ここで、一人の部隊長が言った。



「団長、農民の家具や荷車を供出させてはいかがでしょうか。少なくとも死体よりはマシなバリケードになるはずです」



しかし、パーシヴァルは



「強制は駄目だ。ただでさえ村民は、ハデスからの圧制を受けていて精神的・身体的に疲れ果てている。ここに家具を供出させて財政的な負担まで強いては、ガーランドへの忠誠心を損なうことになる。供出は希望者のみとせよ」


「……はっ」



あとは……とパーシヴァルは考えていた。そして、重要なことを思い出した。



「そうだ、鉱山はどうなった?」



部隊長の一人が言いづらそうに言った。



「制圧は出来たのですが、砂鉄などすぐに製鉄できる物は持ち去られてしまいました。しかも設備が壊され、すぐに製鉄することは不可能です」


「そうか、まあ、それくらいのことは想定できているから問題ない。この際、設備の破片もバリケードに使え」


「承知しました」



すぐに部隊長達は兵を動かし、物を集めてバリケード作りに取り掛かった。幸いにも、準備中にハデスは攻めてくることなく、滞りなく準備が整った。

兵は配置され、バリケードも完成。パーシヴァルは自ら指揮を執る為に、村落の北側に向かった。バリケードに使われたのか、転がっていた死体や瓦礫は片付けられていた。

現場に着くと、兵隊達は既に戦闘の準備を整えており、きれいに整列していた。

パーシヴァルは兵たちを向いて大声で言った。



「まもなく、ハデスの軍が攻めてくる!陥落後、長い時間が経ってもハデスが攻めてこないことを考えると、それなりの数の軍隊を引き連れていると考えられる。ローザ村奪還よりも激しい戦いになることを覚悟しておけ!」



兵士達は同時に返事を返した。

村を守るための戦いが始まろうとしていた。



すると、そこに伝令が走ってきた。



「団長―!!団長―!!」


「どうした、なにがあった?」


「目標は達成です!ハルナ部隊は無事に砦を陥落、ハデスが援軍を送る間もなく陥落させました!!」


「なんだって!!?」



パーシヴァルは驚きを隠せなかった。パーシヴァルは伝令からハルナ軍の戦いの様を聞いたが、その内容は信じられないものであった










ローザ村奪還後にハルナ軍は進軍を開始。



「敵は支配地域を喪失し動揺している。我々の士気の高さを見せつけるのだ!続けー!!」



砦に到着するとハルナ自ら先陣を切り、後ろに部下の騎士団が続いて突撃した。

ハデスの砦から矢が放たれ、先頭のハルナに降り注ぐ。



「たかが雑兵の矢に………倒れる私ではないっ!!」


ハルナは全てそれを剣で弾き、後続の騎士達の道を開く。

さらに、門から出てきた敵兵をことごとく斬り捨て、時には敵の武器を奪って戦った。

後方から長弓兵が火矢を放ち、砦に火を放った。砦が炎上し、中から敵兵が逃げ出す。出てきた兵士を騎士や弓兵が倒した。

火の粉が飛び交い、炎が広がる中でハルナは呟く



「……お前達は砦の外を包囲して逃げ出す残党を狩れ」


「……団長、何をなさるつもりですか?」


「この砦の指導者がまだ現れていない。奴を探して首を斬る」


「危険です!もうじき火の手が全体にまわります!!」



騎士の言うことはもっともである。しかしハルナは



「命令に背くのか?……心配するな、私はこの程度で死ぬ女ではない。…急げ、火がまわるぞ」



冷たいながらも凛とした声で騎士に言った。



「……分かりました、けど必ず生きて帰ってください!」



部下達を砦から出し、自身は単身中に残って残党を狩った。炎の中で、血にまみれて剣を振るい、次々と斬り捨てる様は、敵からすると死神や化け物に見えたであろう。

最後は砦の長の首を掴んで連れて中から出てきたそうだ。

これだけ勇ましい戦いをしながら、味方には犠牲者を一切出さず、自身はその黒い鎧が赤黒く染まっていたが全て返り血であり、怪我は一切してないという。






「以上が、ことのあらましです」


「…………」



パーシヴァルは、ただポカーンとしていた。



「……パーシヴァル団長?」


「あっ………ああ…す、すまない。ご苦労だった」



パーシヴァルは慌てて返事を返した。



「何か、ハルナ団長に伝言などはございますか?」


「いや、特には」


「では、失礼します」



そう言うとハルナ軍の伝令は走り去った。

パーシヴァルは兵達に待機を、伝令に部隊長を集合させるよう命じた。15分もしないうちに、全部隊長が到着した。

パーシヴァルは、ハルナ軍が砦を陥落させたことを伝えた。当然のことながら部隊長達は驚いている。一部では、伝令の報告を疑う者もいる。



「残念ながら事実だと考えていい。彼女が異常な強さを誇る、と言う話は以前に聞いていたからな」


「恐ろしい方ですな……」


「女って意外と怖いものですよ、うちのカミさんがいい例だ」


「それで、今後はどうなさいますか?」



パーシヴァルは、後ろで待機している兵士達を見ながら言った。



「一先ず、此処に集中している兵力は村の各地に分散させ、防衛・及び警備にあたらせよ。砦が落ちた以上、大軍勢は簡単にはこない。俺は、城に向けて目標達成の旨の手紙を書いて伝令に届けさせる。お前達も、各地に散らばって、兵士達の指導及び管理にあたれ。軍の配分はお前達に任せる」


「はっ」



部隊長達はすぐに行動を開始し、兵士達を引き連れて各地に散らばり始めた。パーシヴァルも村の中心まで馬を走らせ、そこで手早く目標達成と今後の行動についての手紙を書き上げ、伝令に城へ届けるよう命じた。


手紙を書き終えたパーシヴァルは机に突っ伏した。これまでの精神的・肉体的な疲れが一気に出たのだ。何より、ハルナの強さの件が気になっていた。



「(あれほどの強さだとすれば、バーノンさんを超えていることは確実だ。けど、それだとバーノンさんがハルナに対して妬んでいる、という風にも見えるんだよな。しかし、あの頑固なバーノンさんに言っても聞くかどうか……)」



数日前に黄騎士団のダグラスから、ハルナが危機的状況に陥ったときには援助し、作戦会議での一件を指導して欲しいと言われたことを思い出していたが、ハルナの実力は本物で指導する理由がなく、今後どうすればいいのか悩んでいた。



「どうなさいました?」



頭を抱え、突っ伏していたパーシヴァルを見かねて村民が声をかけてきた。



「……いや、大丈夫だ」



村民が何もありませんが、とスープとパンの食事を勧めてきたので、パーシヴァルはありがたく頂くことにした。



「(まあ、仲の修復は首都に帰ってからでも遅くないか。もう少し様子を見よう)」



そう思いながら、村民の出した温かいスープを火傷しないようにゆっくりと飲んだ。


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