謁見
パーシヴァルがダグラスと呑んでいる頃、バーノンは国王との謁見に臨んでいた。会議の内容をまとめた紙を持ち、直立不動で待っていた。すでに慣れたこととはいえ、緊張しないと言えば嘘になる。
謁見の間にはワインレッドの絨毯が敷かれ、四方八方には剣を携えた護衛の剣士が控えている。バーノンの前方には数段段差を上がって国王の玉座。あちらこちらに宝石が散りばめられ、実に豪華な造りである。その後ろの壁には、ガーランド王国の国旗が掲げられている。
長く待たないうちに、国王が姿を現した。赤の衣に身を包み、立派な赤髭を蓄えて王冠を被ったその姿は、まさに王と呼ぶに相応しい風格であった。
バーノンは跪き、頭を下げて王に敬意を表す。
国王はゆっくりとした足取りで玉座に座った。
「紅近衛騎士団長バーノン。毎度のことながら、大儀である」
国王ことマードック19世は低いながらも張りのある声で言った。
「諸君らの働きで王国は平和を保てておる。改めてお礼を言いたい」
「いえ、全ては陛下をお守りするためでございます。我々は近衛騎士団として、使命を全うしているだけであります」
「謙遜をすることはない、お前達のはたらきは実に立派だ。むしろもっと誇るべきだ。お前達のおかげで、我が国は平穏を保てている。今後とも余と国家、そして人民の為に身命を捧げよ」
「陛下のご命令とあらば」
バーノンは再び頭を深く下げた。
「ときにバーノン、この度の会議では如何なる結論が出た?」
バーノンは持っていた紙を広げ、内容を読み上げた。
今回の戦闘の敗因に始まり、ハデスとチャガタイとのつながり、さらに次回の作戦の概要と内容は濃いものだが、国王は真剣な眼差しで内容を聞いていた。
「……以上が今回の会議での内容になります」
国王はしばらく黙っていたが、やがてその口を開いた。
「実は、余もハデスの後ろに何か支援勢力があると考えていたのだが、まさかチャガタイ国だったとは。やはりあいつらは信用ならんな」
「陛下は如何にお考えですか?」
国王は顎鬚を撫で、少し考えてながら言った。
「いきなり問い詰めても無駄なことは明白だ。そこで、周辺諸国にもハデスの調査を依頼しようと思っている。そこで裏をとった上で支援停止を求めればいい。仕返しに、いきなり戦争を仕掛ける馬鹿な真似をチャガタイがするとは考えにくい。我が国に同盟国が多いことは知っているはずだからな。チャガタイ側が非を認めたら、強奪した領地や賠償金などを要求してもいいかもしれん」
ガーランド王国は軍事力を持ちつつも温厚な国家という認識が周辺国にあるためか、同盟国や友好国は多い。束になってかかれば、まず負ける心配はない。
「さすが国王陛下、素晴らしい作戦でございます」
チャガタイが戦争を恐れて支援を止めれば当然、ハデスの力も落ち、今後の戦闘も楽になる。上手くいけば、そのまま瓦解してもおかしくない。
「まあ、チャガタイ国の件は余に任せておけ。これは国王としての職務だからな」
「はっ」
バーノンは深く頭を下げた。
「お前達は作戦の成功に努めよ。報告によればハデス側に強力な助っ人、恐らくはチャガタイ国の連中がついたのだろう?新たな襲撃が起きる前に、早期に潰してもらいたい。
特に前回の作戦は唯多くの犠牲者を出しただけなのだからな」
「……申し訳ありません」
「兵士の無駄な消耗は、民衆の不安や不満、やがては国家の疲弊にもつながる。これを忘れるな」
「はっ!」
バーノンは謝罪の意味も込めて再び頭を深く下げた。
「ご苦労だった、下がれ」
「はっ、失礼いたします」
バーノンは一礼した後、きびきびとした動きで後ろを向き、謁見の間を去った。
国王は側近に紙とペンを持ってくるよう命じた。
「今日はもうお休みになられたほうが良いのでは?」
心配する側近に、国王は何をいうか、と言った。
「近衛騎士団達も、あのような激しい職務に勤めているのだ。国王の余だけがのんびりするなどという真似ができるものか。
それに、ことは国家を揺るがす一大事になろうとしている。こちらも早めに手を打たねばならない。わかったらさっさと紙とペンを持ってきてくれ」
承知いたしました、そういって側近は取りに行った。