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プロローグ

見渡す限りおびただしい数の軍人。剣、槍、弓、斧と様々な種類の武器が持った一万人単位の兵士が、二重、三重に国を包囲している。軍列からは、白地に金色の獅子が描かれた軍旗が風にはためき、辺りは物々しい雰囲気に包まれていた。



国際情勢を把握できない出来ない若く世間知らずな国王が、無謀にもガーランドという大国に対して宣戦布告。結果は開戦前から決まっていたようなもので、ガーランドの軍事力に圧倒され次々と拠点を奪われたあげく、ついに首都までもが包囲されてしまった。

首都は攻撃に備えて高い城壁に囲まれており、防御には最適だが、兵力の差があまりにも大きい為、殆ど意味を成さない。籠城しようにも補給線は完全に途絶え、持って数日。しかし、その頃には敵は攻城兵器を用いて攻めてくるのは想像できた。完全なる八方塞がりであった。


門の内側では、民衆がいつ攻め込まれるかも分からない恐怖に怯えていた。通りからは人々の姿は消え、皆家に籠っている。

家族とともに家にいたこの少年も、形容し難い恐怖に怯えていた。

「パーシヴァル、絶対にお母さんから離れたら駄目よ!」

母親は少年を安心させようと、暖炉の側で抱きしめながらそう言っているが、その言葉は恐怖のあまりに震えている。

父親は玄関の前で短剣を構え、

「……逃げる準備は整えたな?敵が来たらお父さんが持ちこたえている間に、母さんと二人で逃げなさい」

その父親の言葉も震えている。彼ら以外の民衆も同じであった。


一方城壁の外では、大軍勢の中から書状を持った一人の軍人が現れ、小国の門に向けて走り寄って叫んだ。

「我々は、既に国を包囲した!無駄な抵抗は止めて、直ちに降伏開城せよ!!

今、降服すれば、以下のことを保障する!


一 民衆及び兵士、王家に仕える者一同の生命、身体


二 前項に掲げた者達の、土地や家屋、奴隷等を含む全ての財産


三 爵位、及び官位


四 一、二項に掲げた者達による、学問、商売、芸術活動等、我が国の法に反しないあらゆる行為


五 信仰の自由



以上の五項目である!早期に、国王の賢明な返答をお願いしたい!」

軍人の声は周りに反響していた。










しばらく長い時を要した後、ついに重々しく門が開かれた。

小国を包囲していた軍人達は大歓声をあげ、整列したままぞろぞろと門をくぐって領内に入った。


民衆はその様子を家の外に出て眺めつつ、不安な様子であった。子どもだけでも家の中に隠したり、その場で泣き崩れる者もいる。

命の保障は建前であって、実際は大虐殺を行うのでは、重い税金を課せられるのでは、男や子どもは奴隷に、女は犯される、と誰もが考えていた。むしろ、それが敗戦国の当然の定めであったのだ。




先ほど書状を持った軍人が、街の中心にある広場の中心で、外にいた民衆達に向かって叫んだ。

「民衆諸君!ここに戦争は終わりを告げた!諸君を苦しめた悪しき王と国は滅亡した!

諸君は今日をもってガーランド王国の民となる!

我々ガーランド王国は、その身分を問わず諸君を心より歓迎する!

今日より諸君と我々は敵ではなく、仲間となるのだ!」

軍人の周りにいた軍隊は大歓声を上げた。

一方、民衆はまだ疑いの眼差しをしている。今の今まで武器を持って攻め込もうとしていた相手だ、とても信じられるはずもなかった。

母親に手を握られていた少年も、まだ警戒していた。

「(やつらはきっと、ぼくらにひどいことをするんだ。やつらのことばなんて、うそにきまってる。)」





しかし、ガーランド軍はその約束を守った。

民衆は普段の暮らしに戻っても、不都合なことはなかったのである。

国王が処刑され、王族はガーランドの首都に連行された。市民警察は一旦解散され、ガーランドの軍隊が常時駐留して警察の役割を果たすようになった。この軍隊は心身共に鍛えられ、尚且つ遵法精神を持っていた。その結果、市民警察の頃よりも治安は良くなり、汚職や不正取引も減った。

税金は安くなり、貿易も前より盛んになった。首都からは技術者が来て、農業や手工業が発展。収穫量の増加や紙の普及にも繋がった。

ガーランドの統治下に入ってからの方が生活レベルが向上したのである。


民は少しずつ、ガーランド王国への警戒を捨て、やがては忠誠を誓うようになった。


少年もまた然りであった。

特に少年は、警察組織として駐留していたガーランド王国の軍隊に、次第に憧れを持つようになっていった。


蒼の鎧を身に付け、馬を乗りこなし街を駆ける姿は、少年の憧れであった。

「かっこいいなぁ……」

少年は騎士を見るたびに、そう呟いていた。



















それから約15年後

ガーランド王国

王宮地下闘技場


頑丈な石造りの壁に一面覆われ、松明のおかげで闘技場全体は橙色に染まっている。しかし、やや薄暗く、どこか牢獄のような雰囲気も醸し出している。



鎧を身に付けた二人の騎士が、剣を持って互いに睨みあってた。

一人は普通の銀色の鎧だが、もう一人の騎士の鎧は海の如く深い蒼い色をしている。

「……………」

「……………」

両者共に、譲らないにらみ合いが続いた。




銀の騎士が動いた。銀の騎士はすばやく距離をつめ、今まさに蒼の騎士剣を降り下ろそうとした瞬間、蒼の騎士が動いた。



そして、




金属音が闘技場全体に響いた。蒼の騎士の剣は銀の騎士の剣を受け止めている。そのつばぜり合いで、蒼の騎士は相手の剣を押し退け、斬りかかったが、銀の騎士もそれを受け止める。




再び両者は離れ、動きの読みあいが始まった。互いに隙を見せず、緊張は緩まない。


だが、

「(……今だっ!!)」

銀の騎士は僅かに蒼の騎士が一瞬目を反らしたのを見て、斬りかかった。

しかし





きぃぃぃん!


という金属同士が強くぶつかった音が闘技場内に響いたかと思うと、銀の騎士の剣が弾き飛ばされていた。弾き飛ばされた剣は両者から離れたところに落ちた。



それを見た銀の騎士は蒼の騎士に頭を下げ

「…参りました」

と言った。

「攻めるタイミングがやや遅かったな。せっかく見つけた隙を逃してはならない。

とはいえ、他の兵士よりはタイミングをとるのが上手い。

今後も訓練を怠るなよ」

蒼の騎士、は兜を取りながら、銀の騎士にこうアドバイスして控え室の方に去った。

この蒼の騎士こそ、前述の少年である。少年は努力に努力を重ね、10年かけて騎士団の団長に登り詰めたのだ。


蒼の騎士、もといパーシヴァルが控え室汗をタオルで拭きつつ、水を飲んでいると、銀の鎧を身に纏った壮年の騎士が

近づいて来た。

「パーシヴァル団長、本日もありがとうございました」

騎士は蒼の騎士に頭を下げた。

「いや、当然のことをしたまでだ。ガーランド王国の為に戦う戦士が増えることは、俺としても嬉しい限りだし、そんな戦士を育成するのも、俺たち騎士団長の役割の一つだ」

パーシヴァルが答えると、壮年の騎士は感心ししつつ、愚痴をこぼし始めた。

「本当にありがたいことですな。しかし、最近の若いモンは、国に忠誠を尽くすことを忘れているヤツが多すぎて、一体誰のおかげで今日まで安寧に生きてこられたんだ、首根っこ掴んで問い詰めたい・・・」

ここまで、言って壮年の騎士は慌てて言った。

「・・・あ・・・わ、若いモンといってもパーシヴァル団長のことではありませんぞ!!パーシヴァル団長は、偉大なるガーランド王国の為に心血を注いでおられますからな!」

「いえいえ、俺なんてまだまだ十分に王国のお役に立ててなんかいない。もっともっと、王国の役にたって、今後もより一層頑張っていかなければ」

蒼の騎士は、会議があるので失礼、と言って小走りに控え室を出て行った。

後に残された壮年の騎士は

「本当に素晴らしいお方だ。ああいう方がおられるからこそ、我が国は安泰ですな」

こう一人で呟いていた。

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