93 命の価値と国の価値
今回も主に親父殿と爺さんのターン
9/20 誤字の修文をいたしました。
「ディーンよ、先ほど加護に救われたと言っておったが、どういうことじゃ?」
「リセムの町に到着し船を停泊した際、水主として船へ潜り込んでいた他国の間諜によりロックが攫われかける事案が生じました」
あ~、俺誘拐未遂事件ね。
アクオン曰くあの船に乗ってた人達って全員おぼれ死んだらしいし、情報漏洩的にも問題ないよな。
でも、あの時は慌ただしかったし、それ以後バタバタといろんなことが起こったせいであんまり思い出してる暇がなかったけど、良く考えると俺って自分の危機を脱するためとはいえ、船を丸ごと沈没させて乗員全員死亡とか、3歳にして既にひとを殺してるんだな。
テンプレ的ファンタジー世界への転生物で、転生者が人を殺すのは最初にぶち当たるカベとは言え、自分で覚悟も決めずにいつの間にかうっかり通過してるとか、ジャパニーズ産のガラスハートがパッキリ砕けてしまうじゃないか。
まぁ、自分で手を下すのはまた別なんだろうけど、スッゲー凹むじゃないか。
「相手はどこの国じゃ?お前や猫族が付いていながらどうしてそうなった?」
「ゴウラ王国と判明しております。停泊の手続きを行うべく私は既に下船しておりました。間諜は船に備え付けてある閃光を付与した魔石を使いフー及び船に居た水主を無力化。それを合図に近づいた足の速い小型船へ飛び移り川の流れへ乗って河下へ向かいました」
「成す術ナシか?お前にしては保安が行き届いていないのう」
「間諜は5人潜り込んでいたところ、船から脱する際にフーが3人切り捨てております。水主の人選については申し開きのしようも有りません」
俺が気絶してる間にフーはそんなことしてたのか。
親父殿は規格外だとしてもやっぱフーって強いんだな。
「それからどうしたのじゃ?」
「気を失っていたロックは船の中で意識を取り戻し、その際に周りの会話を記録することにより主犯がゴウラ王国の大使と判明。ロックは竜の牙を呼び出して戒めを解き、船を沈没させることで脱出し、アクオンを呼び出して当家の船まで送ってもらった次第です」
「ロック、船ごと沈没させて良く助かったのう。どういうカラクリじゃ?」
親父殿がこっちを見てるけど、そう言えば親父殿にも詳しく説明してなかったな。
「アクオンの加護の効果に溺れにくくなるってのがあるんだけど、どうやら陸にいる時より水中にいる時の方が長く苦しくなく息を止めてられるみたいだ。たぶん限界はあるけど、本来的にはその間に落ち着いて水面に出ろって事なんだろうな。後は町について別れたばっかりのアクオンを呼んだだけ」
「運が良かったと?」
「加護を得るタイミングとかアクオンと別れたタイミングとか考えると、確かに運が良かったとしか言えないね」
後はもしかしたら水圧の軽減とかも有るかもしれないな。
まぁ、水中の音の伝達率はかなり高いから大音量で呼べば来てくれると思ってたけど。
なんせ、この世界での俺の最初の友達だし信じてたんだよ。
「ディーンよ、ゴウラ王国に対する対応は?」
「転送書信によりライト領へ連絡。領軍により港に停泊していたゴウラ船籍の船を全て接収。航海士以上の地位の者は全て捕縛。その上でライト領内においてゴウラ船及びゴウラ国民の領境通過禁止、ゴウラ国民の商取引を全面禁止。更にゴウラ王国宛の私名義の転送書信によりドラ王国及びライト家に対する誠意を見せるよう要求いたしました」
「ふーむ、ライト家に喧嘩を仕掛けてその程度で済んだら御の字じゃろう。じゃが、もう少し早く報告できたじゃろ」
でも、前も思ったけど、ライト家にはライト家のやり方が有るんだろうけど、俺一人の誘拐未遂で一国相手にケンカ売るのはどうなんだろうな?
「申し訳ありません」
「ゴウラ王国も命の川を抑えられては輸入品も塩も運搬が出来まい。後で儂からゴウラ国王宛に書信を送っておこうかのう」
国で塩が一切購入できないって結構えげつない報復だし、親父殿に喧嘩を売るとこうなるって言う良い見本だよな。
周辺国に対するスケープゴートとしても良い見せしめだ。
「爺さん、ちょっと質問なんだけど、ゴウラ王国とかその他の国で岩塩が産出されたりはしないの?」
「そのためには岩塩の鉱脈を探すところから始めないとならんじゃろうな。大陸の反対側の内陸部では岩塩発掘も盛んじゃが、そこから運ぶとなったら陸路になるゆえ、運搬費だけで何倍もの金がすっ飛ぶんじゃ。ゴウラ王国はしばらくは周辺諸国へ頭を下げて通常より遥かに高い金額で塩を買わねばならんじゃろうな」
距離によっては自国で岩塩を掘るより、海沿いの国から買った方が安いってことか。
前の世界では食料自給率が問題になってたけど、塩を自国で供給できないって致命的だと思うんだが。
この世界の国を治めてる人たちってその辺りはどう思ってるんだろうな。
でも、前の世界でも敵に塩を送るって古事があるくらいだし、塩を確保するのは現代人が思ってる以上に大変なんだな。
「塩が無ければ結構人が死ぬんじゃないの?」
前の世界でさえ夏のスポーツの時は脱水症状を起こさないために適度な塩分補給が必要だって言われてたもんな。
たしか、塩分不足が危険レベルに突入すると、脳が汗と尿で水分を排出することによって体の塩分濃度を最低値まで引き上げようとするんだったか?
その結果、身体に必要な水分量を維持できなくなって体調不良に始まって最終的には死に至るんだよな。
「ゴウラ王国の国民は哀れじゃが、自国が舵取りを誤ったんじゃから死んでもらうしかないのう」
「え!?」
「ロック。他国の民の命を憐れんで自国の民を殺すことになっては本末転倒じゃ。国民が健やか足らしめることが出来るのはその国の王だけじゃよ」
「そんな……」
「慈悲を持つのは悪い事では無いが、向ける先を間違えるでないぞ」
俺は前の世界では本当に平和な国に居たんだと再認識させられた。
また、心がまた小さな音を立てたような気がする。
当初予定ではこの辺の話は王様と親父殿の密談的な表現にするつもりでした。
書きたいと思ってることを実際に各段階になると、それまでの流れとかあってなかなか予定通りにはなりません。
次は9月12日(金)10:00を予定しています。




