81 またばれた
アイナ姫様と話した後、カウンターに並んでいた料理を食べた。
俺は「前の世界の料理かよ。全部食ったことあるっつーの」と侮っていたことを深く反省した。
全ての料理が俺の記憶から考えても1ランクも2ランクも上の味だった。
揚げ物は口に入れるとサクッっとしつつも肉汁がジュワ~っと染み出してくる。
卵焼きは子ども好みの甘めの味付けの中に丁寧に取った出汁を使った奥深い味わい。
お好み焼きは全体がフワッとしつつも中の野菜がしゃきしゃきしている。
おにぎりは残念ながら海苔ではないが、大きな葉っぱの野菜の漬物で撒いたもので、中には肉を濃いめに味付けした具が入ってる。
なにより、どの料理も子供が食べやすい大きさにカットされ、手で持って食べても汚れないように工夫されている。
王城の料理長はこの国で1番と言われるだけあり、前の世界の料理も完璧以上だったようだ。
「だが…できればお好み焼きはよくわかんないソースではなくオタ○クソース、卵焼きには醤油を1たれ、おにぎりは真っ黒でパリッとした海苔が有ればパーフェクトだった」
そう。
見た目とは裏腹に懐かしいあの味とは微妙に違う。
最高に旨いゆえにこれじゃない感が半端ない。
「今シャユにオタクソースにヌリっていったか!?」
へ!?
真正面のカウンターで子ども相手に配膳していた、コックと言うよりは板前的な趣の料理人が俺の正面から声を荒げてきた。
醤油にオタフ○ソースに海苔のことですね?
「おめぇ、どこの家の子でい」
「ライト家ですけど」
「伯爵家か。もしかしたら王都滞在中に王を通じて王城に来てもらうかもしれねぇからよ」
「はぁ?」
「とりあえず、おれっちが腕によりをかけた料理だ。堪能してくんな」
「あなたは?」
「おれっちは王城の料理長のザル・カヤヨ男爵ってんだ。ザルって呼んでくんな」
……料理長、なんでべらんめえ口調なんですか?
粋で鯔背なんですか?血行は気だらけですか?猫は胃だらけなんですか?粋な姐さんは断晶鞭ですか?
そんなしゃべり方するならお寿司も握って欲しいです。
しかし、王城の中でそんなしゃべり方で、貴族だから大丈夫なのかな?
親父と会話できる王様ならしゃべり方とか気にしなさそうではあるけど。
……前の世界の調味料の名前を呟いただけで反応するとか、こりゃ、完全に俺が転生者だってばれたな。
王様を通して呼び出し有りってことだし、このあと王様にもばれるの確定だわ。
何で思ったこと呟いただけで転生者バレすんだよ~、マジへこむわ~。
「あの~、王様にはできれば……」
「安心しろい。もうばれちまってるだろうから」
……マジで?
「なんでバレてるんですかね?」
「そうだな。3歳児がそんなしゃべり方するわけねぇ。行儀が良すぎるとか視線の動き方が違うとか、まぁ細けぇ違いだがよ。全部合わせると、見る奴が見れば明らかに子どもと違う動きしてんだ、お前ぇ。隠そうったって隠し切れねぇやな」
おかしいな。
これでも子どもらしく見えるように色々考えてたのに。
……よく考えたら、別に参考が居るわけじゃないし、俺の創造の中の子どもを演じてたってことか?無駄な努力ってやつか?
「理解しました。でも、出来ればあんまり広めないでくださると嬉しいんですが?」
「かまわねぇよ。王様には話通しておくからよ。でも、転生者の記録ってのは色々残ってるが、なんで必ず自分が転生者だってこと隠すのかねぇ?」
……なんででしょうね?
「子どもがいきなり『俺の異世界の記憶を持って生まれてきた!』って話し始めたら、子どもっぽい妄想と思われるか、頭のおかしい子扱いされると思ってるからじゃないですかね?」
「そんなもんかねぇ?まぁいいやな。おれっち自慢の料理が冷ちまう前に腹いっぱい詰め込んできなぃ」
「はい。ありがとうございます」
この世界は転生者に対して思いのほか寛容なのか?
しかし、この鶏のから揚げは本当に絶品だな~。
肉に下味にスパイスが利いてるけど、子どもでも食べられる範囲だし、塩加減も絶妙だわ。
周りの子どもも皆、夢中で食べてる。
でも、身体のサイズは3歳児だから、どんなに美味くても腹に入る量が少ないのが悔やまれる。
料理はもう腹に入らないし、子ども達のために演奏でもしよっかな。
ドラ国の初代国王がまだ王様になる前、定宿の近くにあった絶品定食屋がカヤヨ家の先祖です。
初代が転生前の世界のレシピを教え、研鑽を重ねて初代に提供していた仲です。
王国を立ち上げたとき、王城の料理長として前の世界のレシピの再現や研究を続けることを条件に爵位を授けました。
以来、カヤヨ家当主は代々料理の腕を磨き続け、初代が授かったレシピや調理法にアレンジを加えてきました。
カヤヨ家の当主はもちろん、カヤヨ家内で随一の料理の腕の持ち主で、当主選定時には必ず王家が関わります。
先週は仕事がハードだったため、1話分しか書けませんでした。
次の投稿は来週の平日になります。




