78 儀式終了
その後の5人も、まぁ同じ内容だったから割愛する。
「では、これにてインベントリ付与の儀式を終了する」
儀式終了の宣言をお付の人が行うと、王と王妃が立ち上がり扉から退出した。
その後、壇上のみなさんは順次退室していく。
“キュロロロ キュロロロ キュロロロ”
“キュロロロ キュロロロ キュロロロ”
“キュロロロ キュロロロ キュロロロ”
壇上からお姫様方が見えなくなった途端、扉の向こうからは蛙の声が聞こえ始めた。
……お姫様方、いくら式典が終わって退室したからって、謁見の間に音が聞こえる範囲で鳴らし始めるのはどうかと思うのです。
最初からずーっと司会進行してる壇上に残ったお付の人もかなり微妙な表情してますよ。
「……それでは退室する前に、皆様の今後の予定について説明いたします」
聞いてた話だと、館に戻って晩餐会用の衣装に着替えてから城に戻ってきて晩餐会だよな。
でも、王族からの言葉と事務的な話ではやっぱり言葉づかいが違うのかな?事務的なしゃべり方になったぞ。
「夕刻より晩餐会が予定されております。各家に於いては晩餐会に間に合うようにそれぞれの待機室へ戻ってください。それまでの行動は自由としますが、王城の出入りの際は必ず招待状を持参ください。手元無い状態での城の出入りは一切できません」
あれ?今の言い方だと、全家が一旦お城から出るわけじゃないのか?
「なお、待機室にとどまるようでしたら、この後、各部屋に於いて軽食とお茶を供しますので待機室に入られる際に係員にお申し出ください」
あぁ、待機室に残ってもいいのか。
ライト家は金持ってるし爵位もそれなりだから、貴族としての見栄のためにお披露目と同じ衣装ってわけにはいかないんだろうな。
騎士爵とかの王都まで来るのが精いっぱいで、衣装を別に用意する余裕の無い家は、宿に戻っても意味が無いからこのままここの待機室に居るのかもね。
思い返せば、騎士爵の子どもが着せてもらってる衣装は、騎士爵ではちょっと手が出なさそうな豪華な衣装だけど少しデザインが古かったり、新品でデザインは最新でも安っぽい布が使われてたりって感じだった。
どの親も自分の子どもがお披露目で恥ずかしい思いをしないよう、出来る精一杯の努力をしてるんだろう。
豪華目の衣装は主家がくれたお古のサイズ直したんだろうし、晩餐会用にもう一着用意するのは難しい家が多いだろうな。
そう考えると、子どもが飽きないように色々と置いてあったり、吟遊詩人が呼ばれたりしてたのは宿とかに戻らない家のためでもあるのか。
王家サイドもこのイベントで色々気を使ってる感じだ。
待機時間としてはそれなりに長時間だし、横のつながりを持ったり、子ども達が同輩として仲良くなるためにも有効な時間になるんだろし、衣装替えをしないメリットもありそうだ。
まぁ、その辺りは大人の都合と言うか、子供の将来を考えてって事なんだろうけどさ。
おめでたい日に子ども同士が仲よくしてたら親もそれなりに会話をするだろうし、国の結束って意味でもお披露目ってイベントは悪くないんだろうね。
王家の方々も退室したし、説明も終わって緊張が解けたのか周りがザワザワとし始めた。
「親父殿、さっきサジックスも直したし、この後は当初予定通りで良いってことですね?」
「うむ。晩餐会の王への挨拶の際に、晩餐会終了後に金属音の方のサジックスを渡すと話しておこう」
「お姫様が蛙の方を欲しがりそうですが、そっちはどうします?」
「アイナ姫様が無体をなさらなければ、蛙の方については買い取ってもらうことでも良かったのだがな。あの件については後程王家より補償も有ろうが、王家の予算も無限ではないし、サジックス自体の値段設定はヌイグルミとは比較にならない。それゆえ、補償したものと同じものを同額で買えとは言いづらいところだな」
「では、蛙の方を献上したこととして、献上後に俺が直してその分の手間賃だけもらうってのはどうですかね?」
「うむ。お前としてはルーナへのお土産のつもりだったんだろうが、それでいいのか?」
「本当はアクオンとの約束も有りますし、蛙の声のサジックスは持ち帰りたかったところですが致し方ないでしょう。領地に戻ったら、金属音の方を見本にして、大人サイズの木管など、幾つかの種類を試験的に作ってみましょうか。もっと大がかりなサジックスを作成する約束も有りますし、今度は親父殿も演奏しやすいサイズや配置で作りましょう」
「うむ。それは楽しみだ。では、その方向で王と話をしておこう」
「よろしくお願いします」
船で大掛かりなサジックスを作成するのを手伝ってくれるって言質は取ってるけど、親父殿が約束を破るわけがないしね。
それに、親父殿が本当に楽しそうで嬉しそうな表情をしてる。
家族にしかわからないけど。
「では、いったん屋敷に戻って着替えて戻ってくるってことで」
「うむ。では……」
「ろっくくーん!」
おーう。
我らが紅一点とその親がニコニコしながら来ましたよ。
ザワザワしてて気が付かなかったけど、謁見の間の後ろから順に退室してるようだ。
騎士爵家の人たちは待機室で交流を図れるだろうけど、着替えに戻る家はここでちょっと交流しておけってことらしい。
「いやー、ディーン殿。かつてない素晴らしいお披露目でしたね」
確かにお袋の歌は素晴らしすぎたし、子ども達が大勢で歌えたのも良かった。
俺的にも演奏の最初の部分はとちったけど、全体としては自分に合格点を出してもいいんじゃないかって思ってる。
「シェイナが楽しそうに歌う姿を見て、思わず妻と二人で涙を流してしまいましたよ。いやー、本当にありがとうございます」
……この世界の人間は子どもを持ったらみんな親バカ説はこれでほぼ確定だな。
いま、俺の中でモローさんが親バカランキング3位に躍り出たぞ。
ちなみに、2位が王様で1位はもちろん親父殿だ。
「うむ。モロー殿が提案してくれてなければ、ここまで素晴らしいお披露目にはならなかっただろう。こちらこそ礼を言わせていただきたい」
うお!?親父殿が頭下げてる……ってか、目の端に浮かんでるのは涙ですか!?鬼の目にも涙ですか!?
誰か~!槍が降ってくるから防御魔法を~!怪我人が出たときのための回復魔法を準備しろ~!
「ライト!」
「うむ。何だムルスイ」
うわ、折角の感動のシーンなのに豚親父も寄ってきた。
そりゃ、上の貴族が残ってるんだからムルスイ家もいるか。
「………………」
「何か用かムルスイ」
「……礼を言う。それから、ロックと言ったな。すまなかった」
「うむ。謝るだけでは済まさんぞ」
「わかっておるわ!いくぞ、テサード!」
ギャーーーーーーーーーー!豚親父がデレたーーーーーーーーーーー!
天変地異に備えて避難所の準備が必要だーーーーーーー!
きーもーいーよーたーすーけーてー!
「ディーン殿。今回の事をきっかけに、ムルスイ家も持ち直すかもしれませんね」
「うむ。もともと能力は有るのだ」
え?
豚親父ってそういう評価なの?
「父上、どういうことでしょうか?」
「うむ?あ奴は性格はともかく、野戦の指揮をとらせれば国内でも有数の指揮官だ。武人としても槍の腕は相当なものだし、自分の傘下に入ったものに対する面倒見は良い。そうは見えんかもしれんがな」
「でも、指揮官としても武人としてもディーン殿に勝てなくてね、もともとの性格があれだから彼と親しくする人も少なくてね。基本的には手当たり次第喧嘩を売るような行動になってたんだよ」
うん、あれで優秀な指揮官で武人とはとても見えない。
「ところでロック君、どうもシェイナが君になついてしまったようでね。一緒に居たいと言うんだ。王都を出るまでで良いから遊んでやってくれないかい?」
「もちろんですよ。彼女は僕にとって初めての友人ですから」
「おお!そう言ってくれるか。ありがとう」
「明日、シェイナちゃんに約束した良い物をあげますね。と言っても、王家に献上したヌイグルミと同じものですけど」
「え゛!?良いのかい!?」
「ええ。初めての友達へのプレゼントです」
「うむ。今後も仲良くしてやってくれ。さ、人もはけたしお互い準備も有ろう」
「……そうですね、行きましょうか」
親父殿も王様もモローさんも、音魔法がからむと大人はみんな面白い表情になるな。
頑張って2話分をつなげてみたわけではなく、切りどころが無かっただけです。
後半は「豚親父デレる!」とかのタイトルも考えてたんですがね。
次回の更新は7月16日(水)10:00を予定しています。




