77 ふよふよする
「ではシェイナ、始めようかの。○●×●■△レ■……」
そう言うと同時にシャンデリアの照明が落とされ、王様は石版を両手で掲げて長い呪文を唱え始めた。
照明が落とされて薄暗くなった謁見の間で、王様とシェイナちゃんの方を見ていると、スーッと足元が明るくなり、目を向けてビックリした。
明るい中では気が付かなかったが、いくつもの床石が半透明な素材でできており、その下に魔石が幾つも埋め込まれて、ほんのりと蒼いキラキラした光を放ってたのだ。
そして、呪文が進むにつれて光は範囲を広げて行き、最初は床だけだった光が、壁や天井まで広がり、どんどんその数を増やしてゆく。
それは、まるで星の渦の中にいるような、海の中から空を見上げたような、呪文に合わせてキラキラと瞬いたり揺らめいたり、前の世界でもこれほどきれいな光景は見たことが無いと断言できるほどの、なんとも幻想的な光景だった。
そのキラキラした光が、ふっと床や壁から抜け出たように見えたかと思うと、そのままシェイナの周りにまとわりついて光が消え、同時に呪文も終了した。
壇上を見ると、王様が地面に片膝をついており、さっきまで掲げていた石版が手の中に無い。
「これからおよそ3年後に先ほどの魔道具によって準備が整うとインベントリの口が開かれる。それまで魔力量を増やす努力をするがよい。では、他の子供たちの居る場所にさがって儀式を見学していると良い。次、テサードを円に」
テサードの次はいよいよ俺だ!
テサードの時も同じようにキラキラと進行してたが、今回は王様の方を注視してた。
王様は呪文の途中で掲げてた石版をゆっくり床に向けて降ろしていき、そのまま床の中に沈め、手を抜くと同時に呪文が終了した。
あれで、子どもの中に作ったインベントリに魔道具を入れたって事なんだろうか?
「ふむ。ちゃんと入ったのう。次、ロックを円に」
ついに俺の番だ。
と言っても、インベントリを付与してもらえるのはスゴイ嬉しいが、すぐ使えるわけじゃないのが何とももどかしい。
インベントリをもらったら、アクオンの牙だとか魔石を抜いたサジックスだとか、しまって持ち運びたい物はたくさんあったのに。
まぁ、自分の魔力量がどのくらいかわからないから、しまえる量もわかんないけどね。
お役人様に促されて、シェイナちゃんたちがさっきまでたってた円の中に入る。
「では始める。○●×●■△レ■……」
さっきと同じ呪文を唱え始めた。
この円の中から見てると、呪文開始と同時に俺の周りの床から光り始めてるのが良く解る。
王様も真剣なまなざしでこっちを見ているので、俺も王様の方をじっと見てた。
呪文が中ごろに達すると、突然王様の方から影がスッっと伸びてきた。
俺の足元に影が到達すると、足の方から何か冷たい物がチュルンと入ってくるような感覚におそわれる。
もしかして、これがインベントリから物を出し入れする時の感覚か?
ゼリーをスプーンから吸い取るような、濡れた氷が手から飛び出るような、ちょっと気持ちいい感触で、俺の音魔法を魔石に移す時とは大違いだ。
呪文が進むにつれ、チュルチュルチュルと俺の中に入ってきては少しずつ頭の中の場所を占領していくような感じが続いたかと思うと、王様が膝をついて魔石を床に押し付けた。
その途端、俺の中に狭い入口から一気に滑り込むようにチュルーンと何かが入ってきて、頭の中の脳内タイトルと同じ感じで【インベントリ:準備中】と脳内表示された。
インベントリ内に入れたものってどうやって指定して取り出すのかと思ってたが、脳内タイトルを指定するのか。
脳内タイトルとかは音魔法で使い慣れてるしかなり便利だ。
「よし、終了じゃ。次はラックラングを円へ」
こうして俺は、使えるようになるのは3年後とは言えインベントリを手に入れた。
これからは魔力量がもっと増えるように、今まで以上に魔法を使って行かないとな!
インベントリ付与は謁見の間自体が魔道施設、インベントリ定着・維持用の魔道具、呪文の3つがそろって初めて使用可能なので、ロックが呪文だけ録音しても使えない魔法でした。




