72 歌が終わって
曲は終わったんだが、子どもたちが俺の周りから離れない。
って言うか俺の方を期待の眼差しで見つめてる。
けど、今は謁見の前でお披露目中で、開始してからまだ4家しか終わってなくて、後ろにはお披露目の終わってない男爵以下数十家が待機している。
正直、ライト家だけでかなり時間を使っちゃってるし、完全に予定をオーバーしてるに違いない。
子ども達が楽しそうだからってこれ以上引っ張れるわけがないので、チラっと親父殿を見ると、無言でうむって言ってるので俺の考えと一緒ってことだな。
「ねぇ!あなたロックって言うんでしょ?お披露目で聞いてたから知ってるわ。それ、ちょうだい!」
「え?」
いきなり話しかけられたので、声がした方を見てみるとアイナ姫様がいた。
「私もお姉さまみたいにお歌を歌いたいからそれ頂戴!」
「いや、でも・・・」
どうやらサジックスの事を言ってるみたいだが、献上するのは木管部分の装飾が綺麗になったことも含めて金属音の方を予定してたはずだ。
こっちの蛙の鳴き声のサジックスはルーナへのお土産なのだ。
どうすべきか判断を親父殿に丸投げすべく、そっちの方に視線を向けた瞬間。
「いいから頂戴!」
そう言ってサジックスに手を触れると、俺が演奏するために抱え込んでたサジックスが手の中から消えた。
「え!?」
「「「あっ!」」」
何が起こったんだ?
周りの大人は親どころか、隣に控えてるコーナの両親やムルスイの親父まで叫んでる。
アイナ姫様自身は周りの大人の「あっ!」にビクッとして固まってる。
「アイナ~、インベントリから出しなさい~」
「でも、お姉さまみたいに歌いたいんだもん!」
「あとで一緒に歌ってあげるから~、いったん出しなさ~い」
あ、インベントリに入れたのか。
マジで何が起こったのかわかんなかったわ。
あんなに一瞬でものが消えるもんなんだ。
「・・・はい・・・」
アイナ姫様を見てると、足元のスカートの裾辺りからサジックスが生えてくる。
そう言えば自分の影が有る場所から出し入れするんだっけ?
出したサジックスをお袋が受け取って、おれに渡してきた。
「ロック~、ちょっとサジックスを演奏してみて~」
あれ?なんか前に親父殿に説明を受けたときに、インベントリに魔石を入れると魔法が吸収されちゃうようなことを言ってたような・・・
焦りながらサジックスを抱えると、魔石に指を添わせた。
「・・・音が鳴らない・・・」
「え!?」
「アイナ~?お父様から魔道具はインベントリに入れちゃいけませんって教わったでしょ~?」
「あっ!」
「その時に理由も聞いたでしょ~?」
「・・・うん」
「その、音が鳴らなくなった楽器を、アイナはどうするつもりだったの~?」
「・・・ごめんなさい・・・」
俺は船での魔石の音階を作る作業の手間を思って半べそになりそうだった。
まぁ、音階は一回作ってるから、もう一回作るのはそれほど大変じゃない。
だが、塗装の終わったプラモを溶剤のバケツにぶち込まれたようなガッカリ感だ。
「ライトよ、すまんのう」
「王よ、もとよりこちらの金属音の方のサジックスを献上する予定でした。受け取ったこととしてもらえば問題ありますまい」
「その楽器、サジックスと申すか」
「それも含めて予定が色々と狂いましたが、以上でロックのお披露目を終わりたいと存じます」
「あいわかった。ロックよ。素晴らしい演奏と歌声を聞かせてくれたのに、家の娘がすまんかったの」
「いえ、大丈夫です」
「アイナ」
「・・・はい・・・」
「お披露目が終わったらお仕置きじゃ」
アイナ姫様が半べそになった。




