38 港町リセムへ
6/7・6/15 誤字の報告をいただきましたので修文しました。
話が終わってようやく船から降りた。
船員がこの町は港町リムセだと教えてくれた。
エントシー以外の初めての町だ。
エントシーは良くも悪くも貿易港なので多種多様な文化が入り混じった街並みだったけお、この町はかなり統一感がある。
ほとんどの家が、赤いレンガの壁に川に向かって傾斜した群青色の片流れ屋根で、船から見るとキラキラした青い屋根が並んで見えており、水鳥が横切る風景がまるで映画のワンシーンの様で幻想的ですらある。
その屋根の波の向こうにひときわ大きな石造りの館が見えるから、おそらくあれが太守の館だろう。
貿易港エントシーと王都を繋ぐ中間拠点になる町なので、エントシーほどではないがかなり賑わっている。
海側からの風を使って大型船で遡上できるのはこの町までで、そこから先は風魔法や水魔法を併用して川上に向かうため、船のサイズが小さくなる。
ここから王都に向かって陸路を行く者と、そのまま川沿いのいくつかの町を経由しながら遡上して、他国へ向かう者にわかれるようだ。
だいたい陸路が1割、遡上する者が9割だそうだから、この川上方面にどれだけ国が点在しているのか想像できない。
遡上する船の荷物の半分以上かが塩だと言う。
この川を使う者たちが「命の川」と呼ぶのは言いえて妙だが、陸地で岩塩なんかは採掘できないのか?
ライト家の船は町から少し上流にある中洲(?)の様な島にいったん停泊し、そこから橋で陸地へ移動する。
この島には大型船だけが停泊しているので、大型船とそれより小さい船では停泊する場所が違うのだろう。
「親父殿、あの町に泊まるんですか?」
「うむ。・・・その言い回しの方が自然な感じがするな。だが、実質的な年齢はお前の方が年上ではないのか?」
「あんまり覚えてないけど、生まれた後の3年を足しても親父殿よりチョット下だと思うよ。」
「うむ。昨晩の内にサジックスの固定台は太守を通じて発注しておいた。それほど凝った形にしたわけではないから昼頃には届くであろう。」
「仕事が早いですね。」
「自分の部下に命令するだけだからな。」
「設計図も必要なのでは?」
「そんなものは仕事の内に入らん。早々に太守の館に移動して練習を開始する。」
「了解。」
心の中での呼称と実際の呼称が一致すると会話も楽だな。
その辺で不自然さを感じてたのかもしれないな。
・・・最初から心の中でも父上って呼んでれば問題なかったのではなかろうか?
後の祭りだけど。
「今後の予定ってどんな行程ですか?」
「今日一泊した後、王都まで馬車で3日、到着したら王城へ連絡を入れ、準備をしたうえで3日目に披露目及び舞踏会がある。準備期間を含めて10日程王都に滞在し、領地へ向けて出発だ。」
「ダンスなんてできませんが?」
「3歳児でダンスが出来る者もおるまい。待機室から入場する際に名前を呼ばれるから、それが貴族全体への披露目になっている。その後は子供用の立食スペースに行くことになろう。」
「舞踏会でも演奏とかする必要はありますか?」
「そのあたりは後程、王に諮ろう。」
「できれば演奏は献上する時だけにしてほしいんですが。」
「なぜだ?」
「大勢の前では緊張するじゃないですか。」
「披露目の際も相当人数がいると思うが?」
「え?」
「今年、3歳になる者とその家族が総べてくるのだ。貴族の子供を産むのは正妻だけではないから、それなりの人数になるはずだ。」
聞いてないよ。
王とその側近程度の人数かと思ってた。
プラスして3歳児の人数×3(本人、両親)ってことだな。
さー、一気に緊張感が高まってきましたよ?
明日も10時に投稿されます。




