34 初めての友達
明日も10時に投稿されます。
アクオンの泳ぐ速度で2時間くらいで寄港地に着くくらいの距離らしい。
『いきなり呼ばれるとは思わなかったぞ。』
「僕もいきなり呼ぶことになるとは思いませんでした。」
『齢三歳にして危険な人生を送っているな。』
「アクオンの加護が無ければおぼれ死んでました。すごい加護ですね。」
『そりゃ、人間が古竜と呼んでる竜より、ずっと古くから生きてるからな。出来ることもそれなりだ。』
「スゴイですね。ところであの船に乗ってた人間はどうなったでしょうか?」
『7割は溺死。3割はどうにか岸辺に泳ぎ着いたようだな。追いかけて殺すか?』
「いえ、放置で良いでしょう。ライト家からの報復が怖ければこの国にとどまることはしないでしょうし。」
親父の裂帛の斬首宣言を聞いた後に、良く俺を誘拐する気になったもんだ。
「アクオンには何とお礼を言っていいのか。この恩はいつか必ず返します。」
『幼子がそういう事を言うもんじゃない。それに、曲を弾いてくれる貸しの前返しだ。』
「・・・そうは言っても・・・」
『そうじゃな、では、我と友になろう。』
「友・・・ですか?」
『友ならお互いを助けても、貸し借りなぞと言わんだろ。』
「そんな・・・」
『なに、お前とお前の魔法が気に入ったんだ。よし。今日から我はロックの友だ。そう決めた。』
「・・・わかりました。今日から僕はアクオンの友達です。アクオン、せっかく友達になったんですから、たまにはシーエントの町に遊びに来てくださいね?」
『曲を聴きに行く用事もあるしな。たまにはお邪魔しよう。』
その後、アクオンの背で前に加護をあげた竜の声を聴く者の話や、水の属性神の話、普段は何をして暮らしているかなど、取り留めもない話をしながら寄港地に向かった。
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1時間ほど川を上ると、ライト家の船が全速力で川を下ってくるのに遭遇した。
『父上。母上。戻ってきました~。』
日はすでに沈みきっており、水面に光を当てながら進んでくるが、光の当たってない場所は見えてない。
船の水切音に打ち消されないよう、自分の声を録音の上、大音量再生して船に知らせる。
『ロック。頭に乗れ。船の上に揚げてやろう。』
「アクオン、有難う。」
『どういたしまして。このまま港に戻るまで一緒に居てやろう。』
「わかった。父上も怒ってるだろうし、帰りはたぶん大丈夫だと思う。」
『そうだな。お前の父の怒りには竜でも触れたくない。』
そうなの?
アクオンの頭によじ登って、角につかまった段階で船のヘリに持ち上げてもらう。
そこには涙の止まらないお袋と、ビックリ顔が可愛く見えるほどの、正に鬼面と化した父が立っていた。
「ロック~!」
甲板に降りた途端、お袋に抱きしめられた。
顔が涙と鼻水でベジョベジョだ。
「アクオン殿。重ね重ね礼を言う。」
『なに、我とロックは友だ。友を助けるは当たり前の事だろう。』
「いや、これは親としての礼だ。いずれ何らかの形で恩は返す。」
『・・・親としてと言われては断れんな。礼は楽しみにしているよ。』
そして、親父の顔は鬼のままだ。




