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119 按摩師トゥルチド

「改めて自己紹介させていただきます。私はライト家の現当主でであるディーンの息子、ロックと申します。旅立ちの調べで毎年サジックスの演奏を行っていますので、それなりに名前は知られていると思いますが」

「これはご丁寧に痛み入ります。すでにご存じの事とは思いますが、この医院を営んでおります按摩師のトゥルチドでございます。しかし、このような陋屋へ領主様のご子息自ら足をお運びになる日が来るとは。長生きはするものですね」


うしろからフーとサムが庶民相手に敬語で話しては侮られます!とか、話しかける前にひざまずかせるべきです!とか、ロック様を立たせたまま会話をするとは何事か!とか、いろいろと小声で文句を言ってた気がするけど聞こえないことにする。

国王の孫とか有力な領主貴族の子弟とか言っても、王家から見たら所詮は外戚の孫だし、ライト家は基本的に光属性じゃないと継承権分捕りレースに参加すらできない。

将来的には何らかの方法で貴族の爵位を賜るか、王国騎士団にでも所属して地位を挙げて騎士爵をもらうかしないと貴族ではなくなる身なのに、いちいち貴族の矜持とか見栄とか気にしていたら堅苦しすぎる。

前の世界の記憶とか持ってない貴族子弟であれば貴族手だることにこだわるのが普通なんだろうけど、俺はどうにも貴族として他人に傅かれることに違和感を覚えるんだよな。


「今はただの子ども相手と思ってもうちょっと砕けた口調で話しませんか?」

「ご提案はありがたいのですが、私はそもそもがこういった喋り方なのです。ロック様はどうぞ口調を崩していただければと」

「そうか?ではすまんがしゃべりやすいように話させてもらうよ」


何とも丁寧な話し方をする御仁だ。

そのわりに堅苦しい印象は全く受けないのは人徳と言うものなんだろうな。


「ところで、後ろで控えてらっしゃる方達も私の対応にご不満の様子ですし、私本人としても客人を立たせたまま話をするのは心苦しいので、汚れてはおりますがどうぞこちらにおかけになってください」

「それは気を使わせてすまないな。フー、サム、いくら何でも失礼だ。必要があるまで黙っててくれ」


どうやらフーのつぶやきは聞こえていたようだな。

前の世界にもハンデを持った人たちが鈴を入れたボールでやるスポーツもあったくらいだし、聴覚に頼ってい生きていると些細な音にも敏感にならざるを得ないのかもしれない。

そう思いながらトゥルチド師の後について奥へ進むと、全体が雑然とした部屋にテーブルと何脚かの椅子がある部屋に案内され、勧められるままに椅子に腰を掛けた。


「目があまり良くないのでお茶なでのおもてなしはできないことはご容赦いただければと」

「いや、こちらこそ突然の訪問だ。気を使わないでほしい」

「ここで雑談等を交えた方がいいのでしょうが、私も患者を抱える身。早速で申し訳ないのですがお越しになった理由をお聞かせいただいても?」


確かに貴族にビビって逃げたとはいえ、俺がいなくなればそりゃ戻ってくるわな。

そういう意味では彼らにも悪いことをした。


「ではお言葉に甘えて。話は2つ。一つ目はアルブスに関する事です」

「弟子が何かいたしましたでしょうか?」


トゥルチド師は一瞬ほっとした後、今まで以上に緊張感をもってこちらを警戒してしまったようだ。

そりゃ、貴族がアポなしでいきなり自分の職場を訪ねてきて弟子の事を話し始めたら、悪い方に捉える方が一般的ってもんだ。


「単刀直入に言うとですね、チョットした行きがかりで彼と言葉を交わすことになったのですが、その時に意気投合ましてね。私が経営している貴族のご婦人向けのビューティーサロンで専属で雇うことになったんです」

「ほほう、これは彼にとっても良い話の様ですね。でも意気投合したとは言えなぜ?」

「多少は噂になってるかもしれませんが、自分の魔法を生かした魔道具をいくつか開発してましてね。そのうちの一つを使って興した事業が、先ほど言った通り貴族のご婦人方を相手取った美容のためのサロンです。ただ、常々その魔道具だけでは売りとして弱いと感じてましてね」

「それを補うのがアルブスであると?」

「ええ。もちろん探せば彼よりも腕の良い按摩師はいるでしょう。でも、信頼関係はまた別だと思うのです」

「確かに彼は真面目ですが……」


まだ疑われてるかな?


「単刀直入に聞きますが、彼の腕前は師匠から見てどんなもんですか?」

「ははは、人柄だけで雇用を決めてから施術の手腕を確認するとは、ロック様はなかなかに面白い御仁のようですな。彼は勘所もいいですし、丁寧な施術をおこないます。私自身が教えられることはほぼ教えたと思っていますし、未熟な面はこれからの経験が補っていくでしょう」


おおっ!?想像以上の高評価だ。

俺が思っている以上にいい出会いだったのかもしれん。


「ただ、彼の出自が……」

「それに関しては彼の母親には今後関わらないよう手切れ金を……」

「それはいけません」


へ?


「おうやら貴方はスラムの住人の寝穢さを侮っておられるようだ。手切れ金などで円が切れるなら、とっくに私が養子として迎えております」

「将来的には貴族の籍からは外れますが、それでも私は領主の息子としてできることは多いと思ってます。そうならないよう手を打つつもりですが?」


遺憾遺憾、チョットイラッとして思わず語調が強くなっちまった。


「彼の親のような人間はそれでも付きまとって金を無心する物です。たとえ相手が貴族でもそれをしますし、手段を択ばないため始末におえないのです。今同居している男が妹を相手に母親を人質に取る程度のことは平気でするでしょう」

「それは……」

「もし金を出すのであれば、アルブスを奴隷として親から購入してしまう方がまだ良い」

「奴隷!?いや、でもそれは……」


俺も元ハポンだ。

この世界に奴隷制度があるのは知っていても、積極的に奴隷を持つ期には到底なれない。

そもそも、ライト家の中では奴隷ってみたことないから、基本的にライト家は奴隷を持たない方針なんじゃなかろうか?


「奴隷と言っても建前上の事です。一時的にでも貴族の完全な所有物になってしまえば相手の打てる手が減ります。それに、普通の人間は奴隷相手に集るだけの給与が支給されているとは考えないものです。そして、貴族がいつ奴隷を解放したか等わかるものではない」


一理ある……のか?


「アルブスの妹も引き取って一緒に暮らさせる予定でしたが、この場合は妹も一緒に購入の方がいいんですよね?」

「その方が無難でしょう」


うーん。方法論としてはアリなのかもしれないが、奴隷を購入ってのは木悲観が半端ない。

こればっかりはいったん屋敷に戻ったらアルと相談した上じゃないと決められないな。

アルが嫌がることを態々するのはこっちも気が重いから、断ってきたら当初予定通り進めた上で方策を考えるしかないな。


「サム、あれを出してくれ」


あれとは。

俺が作った魔道具の一つで遠距離通信用の魔道具だ。

この魔道具も電話みたいに相互に会話が出来れば問題なかったんだが、そうすると部屋を一つ埋め尽くすほどの巨大な道具になってしまう。

現在はフォルテが小型化するために鋭意努力中だが見通しが立っていない。

今、サムに取り出してもらったのは必要な大部分を俺の魔法で補うことにより、装置を持っている人間に、一方的に音声を送信する装置で、使用する魔力も洒落にならないくらい莫大なため、現状では本当に俺にしか使えない魔道具だ。

通信網として各町に一台すら夢のまた夢。

しかも、相手への接続確認も取れないので一方的に話すだけ。


「アルブスの実家へ向かっている者は、既に交渉にはいいている場合でも切り上げて一旦屋敷へ戻れ」


ひとまずあっちはこれでよし。

もし、横にアルブスの親がいてもこれでは内容が分からないだろう。


「トゥルチド殿、話が大分それましたが、アルブスの師匠としては彼の腕前は一人前で、私が雇用する事も問題ないと認識していいですか?」

「はい。先ほども話しましたが私が彼に教え有れることは無いと言っていい。この診療所へ通わせていたのも経験を積ませることもありますが、二人の食事のためです。アルブスは十分に一人前です。そしてここから先は彼の人生ですから、私が口出しすることではありません。二人をよろしくお願いします」


そういってトゥルチド殿は俺に頭を下げた。

弟子とはいえ、他人の人生をここまで気遣うことが出来る彼は、本当に優しい人なんだろう。

アルにとって彼に師事できたことは、こっちの世界での最大の幸運と言える。


「わかりました。最善を尽くします」

「ところで、先ほどお話は2件と仰っていましたが、もう1件はどのような内容で?」


正直、アルの話は師匠に対する報告であり、俺自身が来ることによって誠意を見せて信用を得るべきだと考えただけだ。

トゥルチド殿が言った通り彼の人生の選択を否定する人ではないとも思っていたい。

だが、これからの交渉は彼の人生の選択であり、その優しさや責任感ゆえにおそらく断られるだろう。


「トゥルチド殿、もう1つの話はあなた自身に関する事です」

「私ですか?今までの流れからなんとなく想像はつきますが……」


だが、話をしなければ何も始まらない。


「トゥルチド殿」


ホワイト オア ブラック、白と出るか黒と出るか。


「アルブスと一緒に私に雇われませんか?」


まさかのアル君、奴隷ルート。

まだわかんないですけどね。


主人公は初孫様に対する思いの強さの認識が甘いです。

最後の文章は、こんな書き方をすれば多少緊張感が出るかと思っただけです。

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