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117 天を仰ぐことも無く(SIDE-A 終編)

お久しぶりです。

業務で自分が埋めた地雷を自ら踏みぬきまくって全く更新する余裕(メンタル的な意味で)がありませんでした。

今回で別視点はひとまず終了。

次回からしてんが戻ります。

それからは話が早かった。

馬車の中で前世からの生い立ち(?)を話していたらロックの方から音楽関係のアドバイザー兼、ビューティーサロンのマッサージ師として俺を雇うと切り出してきた。

何でも超音波美顔器が売りのビューティーサロンを開業していて、俺の按摩を美容マッサージと称して売りに出せばさらなる収入が見込めるとのこと。

スラムから抜け出すことも親とヒモから逃げ出すこともできないのに、俺の肩には妹の命すら乗っているのが現状だ。

正直なことを言ってしまえば、自分を更に高く売り込む余裕すらなく飛びついてしまうほど良い話。

自分の腕で飯が食え、妹を食わせ、親に搾取されない生活への切符を、俺は一も二も恥も外聞も格好をつける余裕すら無く鷲掴みにした。

この、思い焦がれた上で諦めていた偶然の出会いを足掛かりに、俺は少しでもまともな食生活が出来る生活をもぎ取ってやるっ!

と、心に誓った瞬間。


「銀貨で100枚あれば準備できるか?」

「ひゃっ!?」


あまりにも現実離れした金額に、俺は思わず女の子の悲鳴みたいな声を出してしまった。

いくら転生元が同郷とは言え俺の様に属性も生業の腕前も中途半端なスラムの人間相手に銀貨100枚は有り得ない。と言うか無い。

俺の準備金と妹の手切れ金を合わせても銀貨20枚もあれば十分だろう。

だが、せっかく貰った銀貨100枚だし、ロックの思いもこもっているんだろう。

有効に使わせてもらう。

親への手切れ金は少し色を付けて銀貨で15枚もあれば十分だ。

女衒に売るよりずっと高い値段だが、手を切ってすぐに野垂れ死にされても後味が悪いし、何よりあんなのでも一応は俺を生んでくれた今世の親だ。

出来ればその金を元手にスラムの極貧生活から抜け出してほしいとも思う。

足手まといの俺と妹がいなくなるんだから可能性はゼロじゃないだろう。

ゼロでない……が、おそらく渡された金は食いつぶす想定でいた方が現実的だろう。

その前にスラムの人間じゃ入り込めない区画に住む場所を決めてしまいたい。

どのあたりが良いかはロックにでも相談して、お互いに都合のいい区画を教えてもらえばいい。

用心棒を雇った方がいいかもしれない。

俺の給金がいくらになるかは相談しなければならないが、大儲けしてる大貴族様がそれなりの待遇と言ってるんだから、用心棒を私的に雇う余裕くらいはあるだろう。

そんなことを考えているうちにロックはどんどん指示を出し、妹の手切れ交渉の人員と師匠をここに連れてくる手配をし、俺はまたしても車上の人となってしまった。


「アルブス様、私、サミュエルソンが妹様の手切れ交渉に立ち会わせていただきます」

「よろしくお願いします。あ、できればアルと呼んでください。その方が呼ばれなれているので。あと、様はチョット……」

「わかりましたアル様、そういうことでしたら私めのこともサムと及びください。あと、様付けは職業病ですから無理ですね」

「そうですか……じゃぁ、私もサム様と呼びますね」

「よろしくお願いします」


声を聴く限りでは、かなり若い男性の声だ。

下手をすると俺と同年代かもしれない。

張りがあり、はきはきとしたしゃべり方はよっぽど鬱屈した精神の持ち主でない限り比較的好感をもたれやすいだろう。

そして、ゆるぎない忠誠心を胸に静かに静かに主人の意思を押し通すタイプ。

そう感じた。


「私めも同席させていただきますが、基本的には交渉はアル様がおこなってください」

「それはなぜですか?」

「私めが直接交渉してしまうと、大貴族が無理やりスラムの娘を金で取り上げたと噂が立ってしまう可能性がありますから。ロック様がゆるぎないほどの権力と財力を手に入れた後であればそういった悪評も糧になるのですが、今はまだ早うございます」

「私が交渉しても同じでは?」

「いえいえ。自らの才覚によって稼いだお金を手切れ金として血縁者が離別の交渉するのでは、話が全く違うのです」

「領主の息子なんだから、そのくらいは握りつぶせないんですか?」

「握りつぶすにも金やコネや権力が必要です。立てる必要のない悪評を態々立てて消して回るくらいなら、もっと別のことに今は力を傾注すべき時なのです」

「色々と面倒くさいんですね」

「それが貴族ですから」


その面倒な世界に片足の小指だけとはいえ、これから踏み込もうってんだから俺もご苦労なこった。

サムは内部の事情にも詳しそうな話しぶりがだ、ロックの周りの人間としてどういう位置づけなんだ?


「サム様はどういったご身分になられるのでしょうか?」

「私めはロック様の私設家宰でございます。私の父は現当主のディーン様の家宰としてライト家に仕えておりまして、その四男坊としてロック様へご紹介いただいたのです。業務としては主にロック様の稼いだ資金の管理・運用などを行っています」


確かにあの金銭感覚が育まれるだけの資金状況であれば確かにそれを管理する人間が必要だろう。

そして四男坊だと、おそらく彼の父が行っている家宰の仕事を世襲することができないであろう彼にとって、やりがいも有る良い就職先に違いない。

そして、ロックはそんな将来は部屋住みが確定していそうな境遇のサムを、親同士の紹介とは言え拾い上げてくれた恩人と言うわけだ。

そりゃ、言葉の端々に忠誠心がにじみ出てるわけだ。


「この後の予定ですが、お母上との交渉を終えましたら妹様もそのままお連れになり、商店の立ち並ぶ区画へ向かいます。馴染みの店にて貴族区画で行動しても衛兵につかまらない程度の衣服二人分を何着か購入した後、散髪して髪の毛を整えてから館に戻ります。生活雑貨等の必要なものは追々そろえてゆけばいいでしょう」

「その前に住む場所を探さないと……」


そうそう。

出来ればライト家の館に近い方が視力のほとんどない俺は楽だし、館に近い方が家屋のサイズも大きいだろうから妹と二人で住むには色々と都合がいい。


「ロック様は別館に部屋を用意するよう指示を出されるでしょう。別館はロック様の魔道具開発などに使われており、ほぼ専用と言っても過言ではない運用をおこなっています。ライト家の方の中には身分差別が激しい方も多少はいらっしゃいますが、他のライト領に住んでいるご方と過多に鉢合わせするようなことはめったにありませんので心配なきよう」

「え!?貴族の家に住むの!?」

「そこもご心配なく。アル様の客分扱いで獣人の方も住まわれてますから」


いや、心配とかじゃなくて・・・・・。

たった数刻前までスラムの住人だった俺にいきなりそんな貴族の館の別館に部屋を割り当てられて困惑しないわけがない。


「ところでアル様、つかぬ事をお伺いしますが……」

「はい?何でも聞いてください」


もうなんだかよく分からなくなってきたな。

いったい何を聴きたいって言うんだ。


「妹様のお名前は何と仰るので?」

「あぁ!言ってませんでしたか、これから交渉に立ち会っていただくのに妹の名前も教えずに申し訳ありません。私の妹の名は……」


作者は床屋の後にエリがちくちくするのが大嫌いなので、散髪は風呂屋が近くのにある床屋に行きます。

散髪後、風呂屋へ直行して身も心も体もスッキリすると、なんだか色々と一新されたような気分になるのです。

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