111 8歳児の運命
章管理を開始しました。
この話から第3章と言うことになります。
3/22 諸事情により大幅改稿しました。
珍道中とも呼ぶべきお披露目の旅から帰ってきてから既に5年の歳月が流れ、俺はついこの間8歳になった。
この5年の間にフォルテ等の協力のもと、録音・再生の魔道具をはじめとしたいくつかの魔道具を開発し、それを使った事業を始める傍ら、魔法の稽古や槍術の稽古も始めたりと、お披露目出発前の生活とは雲泥の差の忙しい日々を送ることとなった。
今、俺はそんな中の一つであり、アクオンとの約束である演奏会において、最終演目を演奏中だ。
最初の演奏会は、お披露目の翌年にお披露目の為にエントシーから船が出港するすこし前にアクオンを竜の牙で呼び出して行った。
お披露目の旅からほぼ1年が経過してそろそろエントシーに来てもらおうかと思ってた時期だったし、お披露目の旅路でアクオンと出会った印象が強かったからだ。
呼び出してみるとアクオンも同じように考えてくれていたらしく、「命の川」の上流に帰るついでにお披露目の為に王都へ向かう船の護衛を申し出てくれた。
だが、それをきっかけにと言うか、目ざといライト領の役人たちが翌年には【子供たちの出発の調べ】と言うイベントタイトルまでつけてお祭り騒ぎにしてしまったのだ。
今では、役所と有志がタッグを組んで前年より良いイベントにするための【出発の調べ準備会】とか言う組織まで立ち上げて本格的に運営する始末だ。
まぁ、主賓(?)のアクオンはお祭り騒ぎを傍目に楽しんでいるようなので全く問題はなかったのだが……。
問題はメンタル強度がおぼろ豆腐以下の俺にあった。
2回目の演奏はいつにしようかと考え始めた時期に、役人からいきなりイベントの話を説明されたのはまだしも、イベントの規模があまりにも大きく、そこで演奏しなければならないプレッシャーから、王城のお披露目の直前のようにぶっ倒れてしまったのだ。
それでも一度動き始めたイベントを取りやめることもできず、絶不調の中演奏を行い、終了後に定期的に人前で演奏するよう親父殿に義務付けられ、日々の日課に寝る前の親父殿によるサジックスの特訓が追加されてしまった。
おかげでサジックスの腕も上がり製作者の面目は躍如しているし、今ではイベント前の緊張にもすっかり慣れて、ちょっとお腹が緩くなってトイレが近くなる程度だ。
ちなみに【準備会】のメンバーは役人以外の有志はエントシー商工会の上役を主軸に、その年のお披露目に参加する貴族の家臣団等、欲望とメンツの渦巻く錚々たるメンバーとなっており、できれば近づきたくない。
貴族の中にはお抱えの楽団を持っていて、自分のメンツの為だけに『ロック様もサジックスの開発者とはいえ、素人に演奏させるよりわが楽団に演奏させた方が祭りも盛り上がるに違いない』と楽団に得意の楽器で演奏させろとゴリ押してくるバカ貴族も居るが、アクオンに蛙の声のサジックスで俺が演奏を聴かせるというそもそもの趣旨があるため、丁重にお断りしている。
まぁ、舵取りをしてる役人連中はちゃんと趣旨が分かってるので、よっぽどでなければ変なことにはならないだろうけど。
どしてもやりたいなら自分の領地でお祭りを立ち上げて勝手にやればいいのに。
今日の最後の演目として今演奏しているのは、アガンさんがサジックス用の曲として3年ほど前に書き下ろしてくれたものえ、タイトルはズバリ【旅立ちの調べ】だ。
アガンさん曰く、かわいらしい子蛙が親たちに見守られながら静かに流れる【命の川】へと泳ぎだす様を曲にした、勇壮な中にもどこかコミカルでかわいらしいイメージのある素晴らしい曲である。
蛙は両生類だから卵生で親とは過ごさないとか言う突っ込みはしてはいけないのである。
音階を4段階に変えたサジックス4台で演奏する蛙四重奏であり、俺はメインのメロディーパートを、親父殿とアガンさんがリズムパートを演奏七エル。
そして、高い音程でかわいらしい子蛙を演出するパートを今年から初めて妹のルーナが担当しているのだ。
そしてラスト、旅立ちのシーン。
ルーナによるソロ演奏が静かに【命の川】の潺に消え、今年の演奏会における最後の演目がようやく終了した。
「ロック君、本当に上達したね。さっきの演奏の抑揚の付け方なんて、そこらのご婦人に聞かせたら一発で参ってしまうに違いない!ルーナ殿も初めての舞台とはとても思えない堂々たる演奏!会場の男性陣が頬をバラ色に染めていたのが見えたかい?このままではすぐに私なんて追い越されてしまうね!ディーン殿も王家の花と呼ばれた奥方と素晴らしい演奏をされるお子様方に囲まれ、この上ない優雅な日々を送られているに違いないね」
演奏終了後、舞台で貴族風にお辞儀をして退場しながらアガンさんからマシンガンのように褒め言葉を浴びせかけられるが、これは毎度のことなのでどこまで本心かわからない。
ただ、ルーナも厳しい練習を乗り越えて本番を終えた後なので、褒め言葉が素直にうれしかったらしく、お袋の所に駆けて行って満面の笑みで報告してるのが微笑ましい。
「ありがとうございます。でも、家族で舞台に立って演奏ってあんまり貴族っぽくないですね」
「生む。領民への慰撫だと考えれば、多少変則ではあるがそれほどおかしくもあるまい。ロックには感謝している」
貴族的な意味合いで言えば、定期的にそういったことができる旨みがあるんだろうけど、感謝までされるとは思わなかったな。
「父上、船がお披露目の為に出港するまでまだ時間もあるでしょうから、アクオンと話してきます」
「うむ。アクオン殿によろしく伝えてくれ」
アクオンが演奏会を楽しみにしてくれているのはわかっているが、その帰りに船を護送してくれるのは、完全に友と思ってくれている俺への善意からだ。
親父殿はライト家として何らかの礼をしたいところではあるようだが、人が竜に贈り物をしてもさして喜ばれない。
それでも誠意だけは伝えなければいけないため、こういった物言いになってしまうのも致し方あるまい。
ちなみに、演奏会は家族以外の目がどこにあるかわからないので準備期間中から終了するまでは親父殿に対しても常に敬語だ。
「アクオン!せっかく来てくれたんだから静かなところで話をしよう!」
『よかろう』
そういうと舞台の上の屋根に顎を載せてオブジェクトの様にじっとしていたアクオンが伸び上がった。
観客の中にはアクオンが、イベントの為の演出として竜に演奏を捧げていると言う体の為に作った張りぼてだと思っている貴族達が毎回少なからずいて、そいつらがそこら中で悲鳴を上げ、中には走って会場から逃げ出そうとしてスタッフに駆けよられてなだめられている人もいる。
毎回、演奏開始時や休憩時にアクオンが本物の竜であるというアナウンスは入れているのだが、どうも一部の人間が全く信じてくれないのだ。
アクオンは演奏中も瞬きしたり口を開けたり身動きしたりと、明らかに作り物ではない動きを見せているはずなのに、なぜ気が付かないのだろうか?
全く取り乱しもせずに落ち着いてる人たちの方が大多数なため、少しすると沈静化するんだが、これも毎年恒例の光景になっている。
イベントが回を重ねて、本物の竜が演奏を聴きに来ていると知れ渡れば騒ぎもなくなるだろう。
と、その前に
「アクオンすまん。移動する前にサジックスを馬車に置いてくるからチョット待ってて」
『おう』
サジックスは開発段階に音の響きの違いなどを考慮し、様々な木材で試作したところ、ドラ王国内でも入手が容易な木に落ち着いたのだが、その木材が湿気にかなり影響を受けるため、長時間水辺で演奏するには向かないものになってしまった。
蜜蝋等から作るワックスを塗ったりして対処はしているのだが、それでも完全に湿気を防ぐことが出来ず、現在、マイスター・ガルハルトが湿気に強い木材で試作を続けてくれている。
前の世界で言う栗の木に近い物をメインに試行錯誤を繰り返しているものの、残念ながらうまくは行ってない。
俺がアクオンに待機するよう話をしてから馬車に向かって歩き始めると、フーが俺の後ろに張り付くように動き、それと同時に人垣がスッと割れて道が出来た。
フーはお披露目の道中で俺がさらわれて以来、俺に近づく人間を異常に警戒するようになっていた。
最近ではすっかりあきらめているが、当初は色々と問題を起し、一時は解雇寸前までいったのだが、俺の金を管理してたりと護衛以外にもいろいろと任せてある部分も多く、なぁなぁのまま今に至っている。
正直、高い忠誠心からくるので文句も言いずらいが、心の中では自動イザコザ発生ファン○ルと呼ぶほどの状態だ。
3回ほど企てられた俺の誘拐もすべて未遂に終わっていて有能なことも相まって、余計に文句が言いづらい状態だ。
「無礼者!」
フーが俺の目の前にいきなり割り込み誰かを弾き飛ばした。
その時、俺は正直、『あ、またやった』としか思っていなかった。
それが運命の出会いだとも知らずに。
前のプロローグバージョンを読んでる方には申し訳ないのですが、PC破損中に脳内プロットが大幅に書き直されてしまい、大幅に改稿しました。
しばらくはできれば週一くらいのペースで書ければと思ってます。