109 再会を夢見て
短いです
その後、晩餐までそれほど時間は無かったけど、演奏の練習をして過ごした。
ホールで練習してたのでシェイナちゃん達が来て、結局いつも通り歌を歌ってただけだけど。
最後だから、王都からリセムの町までの3日間にみんなに教えた曲も演奏することにした。
練習後の晩餐に食べた太守の館の料理は相変わらず美味かったけど、カヤヨさんの料理を食べた後だと一味足りないと感じた。
まぁ、舌が肥えてるわけじゃないので何が足りないかは全く理解できなかったんだけど、どっちが美味いかと聞かれればカヤヨさんだと断言できる。
いや、こんな美味いものライト家の領地じゃ食えないんだから、全く文句を言うつもりはないんだけどね。
晩餐の間にホールの準備は館の人達がセッティングしてくれてたらしく、食後のお茶を飲んた後にホールへ行ったらサジックを含めいつでも演奏可能な状態になっていた。
「では、館の人たちも集まったようですし、ささやかな演奏会を開始させていただきたいと思います。最初にライト家当主である私の父上が演奏による私の母上の歌からお聞きください」
俺の口上により、俺たちの最後の演奏会が幕を切った。
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館の人達は、親父殿とお袋の子守歌に感動の涙を流し、子ども達の歌に微笑みを浮かべ、かなり満足してくれた様子だ。
ここで、最後の曲としてリセムまでの道のりで新たに練習した曲を披露する。
歌うのはもちろん子ども達だ。
「では、次の曲は王都を出た後にみんなに教えた曲なので、王様にも聞かせてない曲です。私を含めた6人の友誼が今後も続き、満開の花を咲かせることを願いこの曲を選びました。『さくらさくら』」
さくら さくら
野山も里も
見わたす限り
かすみか雲か
朝日ににおう
さくら さくら
花ざかり
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演奏会は館の人達と自分たちの親しかオーディエンスが居ないとはいえ盛況に終わった。
リセムへの道中に親父殿から」聞いた話では、こっちの世界にも桜と呼ばれる木があるらしい。
ただ、似たような樹木に過去の勇者が桜と名付けたものらしく、夏の盛りに花をつける見た目以外は全く違う植物だ。
だが、その木に桜と名付けた勇者は、木が満開になるとその前で酒を飲みながら静かに涙を流しつつ、この「さくらさくら」を歌っていたとか。
勇者は歌詞をジャパニーズランゲージで歌ってたらしく、こっちの世界の人達には意味が分からず曲のみ伝わっているとか。
ただ、こちらの風潮では長い楽曲が好まれるため、この曲を演奏する人はあまりいないとか。
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別れの朝だ。
シェイナちゃん達はよくわかってないようだが、これで各々の船に乗ったら次はいつ会えるかわからない。
「モローさん。流通に乗せて小遣いの範囲で手紙を送ろうと思います。良ければシェイナちゃんに読んであげてください」
「もちろんだとも。僕もロック君の手紙を楽しみにしているよ。その楽器の開発も進んでるみたいだし、そのあたりもよかったら手紙に書いてくれたまえ」
「書ける範囲で近況も書きますね」
「ありがとう。さぁ、シェイナ。お船に乗りなさい」
「はーい。ろっくくんもはやくのろうよ」
「い、いや、僕は別の船に乗らなきゃいけないんだ」
「えー。なんで?」
「シェイナちゃんはシェイナちゃんのお家に帰るでしょ?僕も僕のお家に帰るんだ。僕のお家はシェイナちゃんのお家とは全然違う場所にあるから一緒にはいけないんだよ」
「じゃぁ、ろっくくんもシェイナのうちにすめばいいのよ。わたしのおうちはとってもひろいからだいじょうぶよ?」
「そういうわけにもいかないんだよ」
「えー。やだやだ。いっしょにシェイナのうちにかえっていっぱいおうたをうたおうよ」
あ~。
やっぱよくわかってなかったか。
3歳児じゃしょうがないけど、前の世界でも子どもなんていたことが無いから、どうしたら良いかわからず、助け舟が欲しくてモローさんの方に視線を向ける。
「シェイナ。もし、シェイナが私や母上と別れてずっと会えないことになったらどう思う?」
「そんなのいやっ!」
「そうだろう?だったら、ロック君もロック君のお父上やお母上と別れて暮らすのはイヤだと思わないかい?」
「だったらろっくくんのおとうさんたちもいっしょにシェイナのうちにすめばいいじゃない」
「私がシェード家の家に帰らなければいけないように、ディーン殿もライト家の家に帰らなければいけないんだよ。だから、ロック君がお父上達と別れないでいるには、ライト家の家に帰る必要があるんだ。わかるかい?」
「そうなの?じゃぁ、つぎはいつあえるの?」
「シェイナが良い子にしていたら、ディーン殿に頼んでいつか家に来てもらえるようにしよう。ディーン殿の都合がつかなければ私たちが遊びに行ってもいいしね」
「じゃぁ、シェイナいいこにしてるから、ろっくくんのうちにつれてってね?やくそくよ?」
「あぁ約束だ」
普通の親子のやり取りってのはこういうものなのかもしれないな。
まぁ、ライト家にはライト家の親子のコミュニケーションがあるから羨ましいとは思わないけど。
「じゃぁろっくくん。またね~」
「うん。またね」
そういって、別れの時は泣かれるかもしれないなどと己惚れていたが、そんなことは無く、各家はそれぞれの船に乗り込んで別れた。
せっかくできた友達だし、これっきりってのも寂しい。
豚親父ですらまたいつか会いたいと感じる。
子ども達はみんな3歳児だから、再開した時に俺のことを忘れてる可能性が高いけど、俺が忘れることは絶対にないし。
いつかまた俺を含めた6人で歌が歌えることを夢見つつ俺もライト家の船に乗り込んだ。
しんみり書いてますが、伴奏の音は蛙の声です。
次話投稿は12日以降になります。




