105 三度立つ!(但し、親の実家)
実験的な書き方をしたら切どころが上手くいかず長くなってしまいました。
今日も良い目覚めだ。
王都へ到着した時の体調不良がウソのようだ。
パリスと契約を済ませてから2日間が経過した。
この二日間は午前中は爺さんから発注されたサジックスにはめ込む為の魔石を作って過ごし、午後はアガンさんの馬車でマイスター・ガルハルトの所へ行って試作した木管に魔石をはめ込んで試奏したりしてた。
音魔法の魔石作りについてはかなり個数を作ったおかげで大分コツをつかめてきた。
音程調整がかなりスムーズになって想像した音程に調整するのがかなり早くなってきた気がする。
ただ、アガンさんに言わせると俺が同じ音のつもりで作った魔石も微妙に音程が違うらしく、プロの耳はスゴイと関心した。
親父殿曰く、魔力操作の技術が上がればより微細な調整が可能になるから、最終的には全く同じ音程の魔石を作れるようになるだろうとのことだ。
お披露目終了後はサジックスの練習を全くしてないので、領地へ帰る旅程中は暇つぶしと魔力操作の技術向上の一石二鳥を狙って練習しようと思う。
木管部分については、木管内に音を受ける部分と反響させる空間を別にする細工を施したいらしく、木管を前面と後面で割って中に細工をしてから再度張り合わせる工程を増やし、場合によっては呪文を施すと言ってた。
貼り合わせるならと思って、EDO指物のちぎり木みたいなものは無いのか聞いてみたら、この世界の木工の常識は貼り合わせるなら膠で、固定するなら釘だったようだ。
ジャパニーズ宮カーペンターみたいに木と木を木で固定して釘を使わないと言う発想は無かったようで、ものすごい詰められた。
しかし、俺の木工に関する知識はせいぜい親父とやったDIYとテレビジョンの番組とネットの知識程度のものだ。
だが、俺の中途半端な知識から来る曖昧な説明でもマイスター・ガルハルトには思うところがあったらしいく、その後は工房で唸りながらなんか作業してた。
それと、アガンさんとマイスター・ガルハルトの間で、ラッパ部分を今まで通り金属製にすべきと言う意見と、サジックス全体を木製で統一すべきと言う意見で割れている。
アガンさん曰く木製にすると音が柔らかくなり、金属製にするとアタックが強くなるそうだ。
俺には違いが良く解らなかったので聞いてみたら、木製はソロで柔らかく聞かせるのに適しており、金属製は合奏の際に他の楽器に負けない音になると言われたが余計に解らなくなった。
薄々気が付いていたが俺には音楽の才能は無いのかもしれないとアガンさんにこぼしたら、経験を積めばいいと言われたから俺頑張る。
サジックスは爺さんに王都に居る間に10本納品してほしいって言われてたので、現状の木管で10本作ってほしいってマイスター・ガルハルトにお願いしたら超睨まれた。
職人さんは納得の行かないものは作らない的なあれだったらしい。
しょうが無いので、魔石20本分をアガンさんに預けて、10台分で試行錯誤してもらい、完成したら10本を王様へ納品してもらうよう頼んだ。
爺さんの俺に対するお孫様フィーバーを思うに、本当は俺から受け取りたかったんだろうけど仕方あるまい。
今日、王城に言ったときに状況を説明して素直に謝れば許してくれるに違いない。
なんてったってフィーバー中だからね。
話は全然変わるが、昨晩パリスが衛兵に引っ立てられて来た。
そこでいきなり、ライト家の館の衛兵に取り押さえられグルグルの簀巻き状態にされかかった、どうにかしてほしいと頼み込んできた。
しかも、何らかの怪しい動きをしたわけでもなく、入口の衛兵に俺達が領地へ戻る出立日を確認しに来ただけだった。
『契約の石版』まで使って俺と契約てるのに、契約相手の俺が王都を出立する日程を確認しただけでそんな扱いじゃいくらなんでもひどい。
親父殿になんかいい方法は無いのか確認したら、革地に銅で作られたライト家の家紋がついているバングルを渡した。
親父殿に悪用されないかと聞いたが、ライト家に出入りしてる商人には渡してるレベルのもので、裏地に渡した相手の名前が入っているので、それを見れば大体要件がわかるのだそうな。
領地に戻った後の連絡の取り方とかどうすればいいか全く考えてなかったけど、繋ぎの人がバングルを持ってライト家に来ればいいってわけだ。
良く考えなくてもパリスの本拠地は王都だから、情報をライト家に持ってくるためにいちいちエントシーまで来るわけにもいかないだろう。
魔道具の開発が済んだ後の魔石の受け渡しなんかについても方法を考えておかないとな。
パリスで思い出したけど、パリスとであった噴水市場で買った組紐をお袋とフーに上げた。
お袋の髪の毛は綺麗な金髪だから、編み込んだ時にアクセントになるように緑色がメインの組紐で、フーは普段から黒が基調の服を着てるから、剣帯に飾った時に見栄えがするように白とオレンジがメインの太い奴にした。
お袋は素直に喜んで早速女中に頼んで髪の毛に編み込んで、褒めてもらいに親父殿の部屋へお礼をしながら駆けていった。
フーはまさか自分がもらえるとは思ってなかったのかビックリしながらも、俺の前でいそいそと剣帯の邪魔にならない所に結び付けて見せてくれた。
その後、お袋は今日の王城での昼食にもつけていくと言ってたし、フーは俺が親父殿と一緒になるたびに自慢げにホーに見せびらかしてた。
ホーも愛妻家らしく、フーのいないちょっとした隙に俺の所に寄ってきてお礼を言って親父の警護に戻ってた。
自分の選んだプレゼントで人が喜んでくれるのは本当にうれしい。
まだ組紐はたくさんあるし、王城に行く時にいくつか持って行って、お姫様方にも一本ずつあげよう。
お袋とお揃いだったらみんな喜んでくれるに違いない。
他にも、王城に行ったりサジックスの話をまとめたりして忙しく動き回ってる間に、ライト家の館にはヌイグルミの注文が殺到していたようだ。
王都に法衣として居を構えている貴族はやはり貴族社会の情報に通じているのか、そう言った貴族の中の伯爵以上の家はほとんど注文してきているようだ。
それも1個や2個ではなく、中には10個単位で注文してくる人もいため、大変な注文数になっている。
どうも、地方の領地を持っている貴族と血のつながりが有るような貴族が、王都に来た時に恥をかかないようにあらかじめ用意する等の理由もあるようだ。
現状は王家とシェード家しか持ってない珍しいアイテムとは言え、蛙の鳴き声を記録した魔石を埋めただけで、とても魔道具とはいえないような子供のオモチャに何故とも思うが。
お姫様達は相当気に入ってくれたのか常に持って歩いているらしく、その上、話を聞かれれば蛙の声を再生して自慢してくれてるらしい。
まさに流行の最先端、広告塔と呼ぶのすらおこがましい宣伝効果が発揮されており、その点に関しても親父殿の読み通りというわけだ。
ただ、これから増産するヌイグルミが全部同じ色でおんなじ形ではすぐに廃れてしまう。
そのため、まずは侯爵家以上の家に限定して注文を受けることにして、ライトグリーンや薄い水色など、色の希望を確認してから作成することにした。
また、蛙のポーズも手を上げたり頭に葉っぱを載せたりとアレンジして、出来るだけ違いを出すように職人に伝える。
これは今後、別の動物のヌイグルミを作るときに選択肢があった方が選ぶ楽しみも増えることを事前に予測させ、期待感を持たせる効果を狙ったものだ。
新しいとか珍しいだけで一気に同じものが飽和状態になったら、飽きられたら単発で終わっちゃうからね。
基本的には最初のうちは需要に対して供給を絞って欲求を高めておき、ある程度種類を作れる状態になったら徐々に緩めて行く。
ヌイグルミは最終的には庶民が自分の娘に特別な贈り物としてプレゼントできるくらいまで世間に広まるのが目標だ。
ヌイグルミをもらった女の子が夜にベッドの中で、自分の秘密を自分だけの物言わない友達に打ち明る、そんな想像するだけで気持ちがホッコリする未来を目指すのだ。
余談だが女の子のオモチャだけじゃ面白くないので男の子の為のオモチャも考案中だ。
布で剣の形のヌイグルミ(?)を作り、中に木の軸を入れて手元に魔石を入れる。
魔力を流すと『ガキーン』と言う金属音がするオモチャの剣だ。
こっちは正式に剣の訓練を受け始める前のヤンチャ盛りの貴族の子弟が友達同士のチャンバラで怪我をすることが無い安全なおもちゃを目指す。
まぁ、男の子は怪我をしながら成長するもんだとも思うけど、しないに越したことは無いからね。
さて、お昼から王城で爺さんと叔父・叔母達と食事だし、色々と準備させられるだろうし、俺もちょっとした準備が有るからさっさと起きよう。
・
・
・
俺はついに!ついにこの地に戻ってきたぞ!
……すいません。王城の門の前です。
お約束的にこのセリフを言ってみたかっただけなんです。
ぶっちゃけ、王家と血縁が有るからこの地に立つ機会は今後増えそうではあります。
親父殿曰く、今日の王城での昼食は爺さんにパリスの話だけしておけば後は普通に談笑してれば良いと言う判断らしい。
お孫様フィーバーの爺さん相手にするだけだから気楽なもんだ。
バカなことを考えてる間に馬車は王城の車寄せに到着し、馬車を降りるとそのまま食事をするための部屋へ案内された。
・
・
・
「ロック~!よう来たのう!」
いやいやいや、普通は地位の低い側が先に部屋に入って地位の高い側が来るのを待つもんじゃないの?
ナチュラルに王家の人が全員部屋で待ち構えてるけどそんなに暇なの?仕事とか大丈夫なの?
「お父様~、またお仕事サボったの~?チャイッドもお父様のマネしちゃダメでしょ~?」
サボりかよ!
「良いではないかミアス。王都を出れば次は何時会えるのか解らんのじゃし」
「ルーナのお披露目で王都に来る約束したじゃない~」
「2年も先の話じゃよ?折角の初孫なのに2年も会えぬ爺にもうちょっと気を使ってもいいじゃろ?」
「爺って、お父様まだ40台じゃないの~。いくらでも会う機会は有るわ~」
「姉さん、まぁ良いじゃないですか。今日は異世界料理じゃなくて王都の代表的な料理を用意してもらってますから、冷める前に食べましょう」
確かに世界の料理はしょっちゅう食べてたけど、普通に普段王家が食べてるような食事は食べてないな。
俺と親父殿は促されるままに席に着いたが、お袋はお姫様方の所へ歩いて行ってしまった。
様子を見てると、どうやら俺が上げた組紐を自慢しに行ったらしいんだが、みんな羨ましそうに見てる。
大丈夫、ちゃんと王家の女性全員分用意して来てるから。
お腹が減ってるので食事を開始しませんかね?
・
・
・
「ロックが原因じゃったのか~。昨日、マイスター・ガルハルトから現在受注している家具を納品したらそれ以降の仕事は全部弟子がすると連絡が入ったのじゃ」
とりあえずサジックスについて話をしたら、何かマイスター・ガルハルトが家具つくりを辞めるって方々の貴族家に連絡を入れて大事になってるらしい。
ヌイグルミの事もあるし、王家がファンってことはマイスター・ガルハルトの家具を求めてる貴族は相当数居るんだろうが、俺ってば恨まれたりしないかな?
「まだ引退する年齢でもないのにおかしな話じゃと思っておったのじゃ。ワシもマイスターのファンじゃから残念じゃ」
「すまん」
「なに、ロックの謝ることじゃない。マイスター・ガルハルトも新たな道を求めて歩き出したんじゃ。残念に思う者も多いじゃろうが人の生きる道はそれぞれじゃ」
前の世界の知識から来る貴族ってのはそんなに聞き分けの良い生物じゃないんだが、この世界の貴族はまた違うのかな。
あと、マイスター・ガルハルトは家具つくり辞めて、今後、サジックスだけで食っていけるのかな?
サジックスが販売可能なレベルまで完成したら、その後の事も話さないとな。
「サジックスの話のついでっちゃ何だけど、爺さんにプレゼントが有るだ」
「ほほう!?プレゼントとな!?」
「……魔石か?ロックのプレゼントと言うからには音魔法が込めてあるんじゃろうが……」
「まぁ、良いから魔力を込めてみてくれよ」
~♪~♪~♪
「これは……」
魔石から流れ出したのはお披露目会場で俺と親父殿の伴奏で歌ったお袋の歌声。
爺さんのお孫様フィーバーの一因として、お袋が嫁いじまった事もあるんじゃないかと推測した俺は、爺さん孝行のつもりで王城へ向かう前にこっそり用意しておいたのだ。
「音源名は『伴奏つき天使の歌声』だ。時間の有るときにでも婆さんと二人で聞いてくれ。せっかくだから何か適当な人形にでも埋め込めば、それっぽくなるんじゃないか?」
「これは……何とも優しい魔法じゃな」
爺さんの目じりには涙が、叔父・叔母の年長組はそれを見てウンウン頷き、年少組はうっとり聞き惚れている。
ストーリー進行をもう少し早くするため、時間軸を飛ばす練習も兼ねて実験的にこの話を書いてみましたが、いかがでしたでしょうか?