103 血は争えない
気絶したパリスを積んだ馬車がライト家の館に着き、そこでアガンさんとは別れた。
どうも、カヤヨさんと接触するのが面倒くさかったらしい。
あと、帰りの馬車でアガンさんのマシンガントークが炸裂しなかったので、口数が少ないですねって話を振ったら、パリスは寝てようが気絶してようが周りで何を話されたか覚えてるから、コイツの周りではうかつな話はしない事にしてるそうだ。
まぁ、浮名が流れまくってるアガンさんが気を付けることって何かわかんないけど、貴族には色々と知られたくないことも多いんだろう。
俺もサジックスに関する話とかはしない方がいいのは確かそうだ。
カヤヨさんと前の世界の料理関する話を始める前に親父殿にパリスの話を相談しないといけないと思い、出迎えてくれた使用人に親父殿の居場所を聞くと、書斎に居るとの回答があった。
旅行中とはいえどんな書類が有るかわからない書斎にパリスを連れていけないので、親父殿に客間へ来てもらうよう使用人に言づけて館に入った。
パリスは館に着く直前に馬車の中で意識を戻しており伴って館の中に入ると、満を持して俺を待ち構えてたカヤヨさんがこっちに突入……してこようとしたんだけどパリスの顔を見ると「おれっちの料理が冥土への良い土産話になるな」と言って踵を返して調理場へ入ってしまった。
パリスはまた泡を吹きそうになってたところを、フーが頭をはたいて無理やり起こしてたけど。
口が軽い系(?)の人たちはパリスに恨みでもあるのかもしれないけど、いちいちライト家を引き合いに出してパリスを気絶させようとするのはやめてほしい。
正直、自分の生家がどれだけ恐怖の対象となっているのか本気で不安になる。
客間に入って親父殿を待っていると、お茶をお盆に乗せた使用人を引き連れて親父殿が入ってきた。
俺の正面に座ったので、そのまま流れてしまった情報とパリスの事を説明して親父殿の判断を仰ぐ。
「うむ。誘拐犯の一人が死んでなかったのが一番の問題だが、どれもこちらでは対処がしきれない範囲のことだ。いたし方あるまい」
「属性の情報とかが流出してしまうのはまずいのでは?」
「あ、それは大丈夫だと思うっすよ。特殊な属性ってのは希少ではありますがね。特殊な属性が重要なんじゃなくて、その属性に何が出来るかって方が重要なんす。旦那の属性が【勇】属性だってんなら戦略兵器として厳重管理されるかもしれないっすけどね」
「【勇】属性?」
なんかテンプレの臭いが……
「うむ。物語等に出てくる【勇者】としての資質をもって生まれた者のことだ。属性に関係なく呪文だけで魔法が発動し、異常なほど物覚えが良くあらゆる武術を納めたりと、1人で軍隊に匹敵する戦力として成長する可能性がある属性だ」
あ~、この世界にはやっぱガチの勇者とかいるのか。
神様もテンプレ的な異世界って言ってたから薄々居るんじゃないかと思ってたよ。
でも、勇者が【勇】属性っていうことは俺がブレイブになるディスティニーはないってことだ。
よかったよかった。
「それで旦那の属性って漏れ聞こえてくる話以外に何が出来るん……!?」
パリスがそう言い切る前に親父殿から、物理的な圧力のあるんじゃないかと思えるほどの殺気が噴出し、家族ですら裸足で逃げ出したくなる程の鬼がそこにいた。
隣に立ってるホーが親父殿が差し出した手に剣を握らせようとしてるのを見た瞬間、確かにライト家は家族以外にとっては怖い存在なんだと自覚した。
「親父殿、待った!」
家族思いの親父殿としてはパリスを通して情報がこれ以上流れないよう殺してしまおうとしたのかもしれんが、さすがにここで流血の惨事は勘弁してほしい。
俺を睨みつけながらパリスに殺気を放ってる親父殿を横目に、懐にしまってた小袋から音魔法を付与したクズ魔石を一つ取り出してパリスに放り投げた。
「パリス、その魔石に魔力を込めながら今から俺が言うことを聞け。……いいか?これから言うことはお願いじゃなくて取引だ。代価はお前の命を親父殿から助けること。俺の魔法は情報屋や密偵にはそれなりに有用な物だと言っておこう。それを踏まえて、お前に俺の魔法を付与した魔石を10個貸し出そう。1個につき何も付加価値の無い状態でも金貨1枚にはなるらしい。その魔石を使用して、使用者が魔力を直接込めなくても魔石が発動する魔道具を開発しろ。俺の魔石を後からはめ込むことで再利用が可能なタイプが良いが、それを開発するに当たって俺の能力が漏れないよう細心の注意を払えよ。それを俺に納品したら、新たな取引を発生させてやる。取引の細かい条件は後から決めるとして、大まかに言えば、ライト家を探るな、ライト家の情報を一切売るな、ライト家の求める情報を優先的に調べる、有用な情報は優先的に全部持ってこいだ。では、魔石に魔力を込めるのを止めて俺に放れ」
パリスは親父殿の殺気にブルブル震えながら俺に向かって魔石を放ったが、全く狙いが定まらず俺の足元に落ちた。
それを拾った俺は、そこに記録されている音声を再生させる。
パリスが震えて歯の根が合わないガチガチと言う音の背景に、俺の話が再生される。
それを聞いたパリスは目を剥き、再生が終わるころには震えも止まっていた。
どうやら俺の提案の意味が分かったらしい。
「俺の魔法を込めた魔石の効果がわかったか?」
ビックリして声も出ないのか、それともこれからの事を計算しているのか、ブンブン首を振っている。
「さてパリス。さっき俺が言った、魔道具を開発すること、ライト家を探らない、ライト家の情報を一切売らない、情報を持ってくる。他にも細かい条件は後々整えるとして、これらを守るなら、開発した魔道具にセットするための魔石を俺が提供してやる。どうだ?」
「これは取引って言ったっすよね?ってことは、俺がNOと言ったら、代価として殺された上に、他の情報屋に同じ条件を提示するってことっすよね?」
「そうだ」
「これは取引じゃなくて脅迫って言うんじゃないっすか?」
「パリスが不用意な発言で自分の命をBETしたのが悪いと思うけどね。第一こうでもしないと俺じゃ親父殿を納得させられないからな」
「ここに俺が連れてこられたってことは、もとより取引を持ちかける予定だったと?」
「俺の魔石で作る魔道具の開発を他人に任せることになって、全部自分でやる必要は無いってわかったからね。まぁ、最終的には親父殿の判断を仰いだうえだったけど、本来はパリスにももうちょっといい条件を提示するつもりだったし、考える時間もあげられたんだけどね。この状況になっちゃったら悪いんだけど今決めてよ。まぁ死にたくないだろうからYESだろうけどさ」
「今よりいい条件ってのは?」
「開発費用とかは後払いでヌイグルミとかサジックスの売却益からちゃんと払うつもりだったんだよ。捕獲してないドラゴンの素材計算だけど、ヌイグルミだけでもそれなりの金額になる予定だしね」
取らぬ狸のウンチャラと同じ慣用句です。
たぶん、過去のジャポネーゼがこの世界に合わせて使った言葉なんだと思います。
「でも、さっきの条件ってのは……」
「そう、半分ライト家の密偵状態だ。情報屋にとって音を記録できることの有用性と、それをライト家の仕事以外に使うのを禁止しないことを取引材料にすればYESと言うと思ってたよ。まぁお互いにこの取引条件を口外することは無いんだから、パリスの商売としても支障はないでしょ?」
「……そうっすね。まぁ命を盾に半分脅迫とはいえ、今後、使い勝手のいい商売道具が増えると思えば元はとれるっすね。いいっす。その取引、乗ったっす」
「って事なんだけど親父殿。これでパリスの命を買ったと思ってもらえませんかね?」
「……うむ」
そう言いながら親父殿は握ってた剣をホーに返し、殺気を納めた。
「信用第一って言ってたんだからここまで来て約束を破ることは無いと思うけど。じゃぁこれさっき言ってた魔石10個ね。10個で開発しきれなかったらライト家の領地に来てよ。使用済みの魔石と交換で新しいのあげるから。あ、さっきの条件に魔道具の開発が完了したら設計図を納品することってのも入れとかないとね」
「いや、それは」
「やなの?ライト家の求めに応じて魔道具を無償で提供することってして、いきなり千個とか発注しても良いんだよ?」
「わかりました!わかりましたよ!旦那もライト家の血を十分継いでるって十分解りましたから!」
ぬ?
今、俺も恐怖の対象に格上げされた?
うーん、解せぬ。
だけど、パリスは何かむかつくから便利に使えれば別に何でもいいや。
なんだか、主人公が弱い奴には金の力で強く出る嫌な奴になってしまった気がします。
そんなつもりはなかったんですけどなんでだろうか?
ちょっと作者が荒み気味だったので、自衛の手段の一環と思っておいていただきたい。