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Sound of Magic ~カエルが鳴くから歌いましょっ!~  作者: ブルー・タン
第2章 3歳児お披露目珍道中編
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101 ハムスターってでかいと怖い

普段より長文です。

マイスター・ガルハルトも木工所を出た後、アガンさんの案内で噴水広場に立ってる市場に足を運んでみた。

近づくにつれて人ごみが増して行き、とても広場の前まで馬車を付けることが出来ない状態だ。

アガンさんはよく来ると言うだけあって手慣れたもので、ある程度まで近づいたら御者に近くの大通りに異動しておくように指示を出し、さっさと馬車を下りてしまった。


「ロック君、ここからは申し訳ないが徒歩だよ。さぁ異国の花達が私を待っているから早く行こう」


促されて俺とフーも馬車から下りて、人の波の中を馴れた足取りでスイスイ歩いていくアガンさんの後を俺が追い、その後にフーがついてくる。


「さぁ、ここが広場の入口だ。私は用事が有るので、ここで一旦分かれよう。日暮れの鐘が鳴るころまでに、この通りを反対側に抜けたまえ。そこに私の馬車が待機しているから」


と言うが早いかもう人ごみの中に紛れてしまった。

こっちが頼んだこととはいえ、ちょっと無責任とか思っちゃいけないのだろうか。

だけど、市場と聞いていたからそれなりに人ごみが有るだろうと思ってたが、まさかここまでとは思わなかった。

前の世界で夏と冬に開催される祭典ほどでは無いが、普通に歩けない程度には込んでいる。

これが本当に前の世界の祭典だったら、俺を見た周りの大人は『おいおい、祭典で幼児にコスチュームプレイをさせて連れてくるとかどんだけアレな親だ!リア充輝け!』と思われてたに違いない。

が、どうやらこの先にある神殿への巡礼者も混ざってるらしく、迷子にならないように手を引いたり、肩車して人ごみを歩いていく親子連れも多少ながら目につく。

まぁ、みんな俺よりは年上だと思うけど。

唯一の救いは、祭典みたいに人がランダムなベクトルで動き回るのではなく、みんな一定方向に行儀よく進んでることか。

市場全体も活気が有り、売り子の呼び声がそこいら中から聞こえてきている。

何らかのルールがあるのか、屋台が一定間隔で並んでおり、その間に旅装の人が何人か地べたに座っていくつかの小物を広げたりもしていて、雑然とした感じが非常に面白い。

だが、アガンさんはこの人ごみの中で女性観察が出来るとかどんだけだ。


「何だか楽しそうだね。フー、面白そうなものが有ったら買いたいんだけど、お金ある?」

「大丈夫です。ここで買い物する程度には持ち合わせております」


まぁ、俺とフーの2人しかいないし、フーは護衛も兼ねてるから荷物を大量に持たせるわけにもいかないからその場で購入できるのは小物だけだな。

どうしても欲しいものがあったら、館の場所を教えて料金に色をつけて支払すれば運んでくれる店もあるだろう。

ダメなら今日は諦めて、王都を出る前にもう一回来れるよう親父殿に交渉しよう。

人の流れに合わせてのんびり歩いてると、地べたに座ってる2人組の羊族が並べてる商品が気になった。

20cmくらいの長さのきれいな組紐が何十本も並べてある。

旅装だし巡礼の人だと思うけど、たしかに組紐ならかさばらないし、材料さえ用意すれば船で移動してる間に商品を増やすこともできるな。


「フー、お袋とルーナのお土産にあの組紐を何本か買ってもいいかな?」

「確かに綺麗な組紐ですね。あの2人は恐らく命の川のかなり上流の国の方たちでしょう。あそこまで綺麗な色合いで密に編み上げた組紐はなかなか手に入らないと思います」

「そうなんだ。サジックスを持つ時に首にかける紐があれだったら綺麗かなと思ったんだけど、あの組紐を使うのは難しそうかな」

「被服の職人等に見せれば編み方がわかるかもしれませんし、余分に買っていきましょうか?」

「なら、予算の範囲内だったら金額によっては全部買っちゃおうか」

「お土産としても良さげな品ですし、いいと思いますよ?」


そういうと2人で組紐が並べてある場所へ近づいた。


「お姉さんの国ではこの紐ってどう使うの?」

「あら、可愛いお客さんね。女性が自分の毛に編み込んだりするのが一般的ね。あとは、私たちの国ではお守り的な意味合いもあるから、女性のいいひとが無事に帰ることを願って編んで、もらった男は柄頭や剣帯に結びつけたりね」

「へ~。何だか素敵ですね」

「そうね。後は結婚を申し込まれた女性が良い返事として男性に組紐を返して、もらった男性はそれを自分の毛に編み込むのよ」


そう言われて、隣に座ってる男性の髪を見ると、右の耳あたりに組紐が編み込んであった。


「じゃぁ、お2人は婚約されてるんですね?」

「ええ。今回の巡礼から無事に国に帰ったら結婚式を挙げるのよ」


そういうと2人はそれぞれ、女性は幸せそうに、男性は照れくさそうに笑った。


「そうなんですか、おめでとうございます。この組紐をお土産にと思ったんですが、一本おいくらですか?」

「こっちの細いのは5銅貨、こっちの太いのは10銅貨になるわ。玉を編み込んであるのは20銅貨ね」


思ったよりも高いが、どれもきれいなグラデーションになってるし、糸や布が高価なこの世界では妥当な金額なのかもしれない。


「フー、よくわかんないんだけど金額的にはどうなの?」

「紐としては少々割高かもしれません。ただし、染色技術は非常に高そうですし、それを考えて装飾品や土産物として考えれば妥当な金額ではないでしょうか」

「そっか、予算的にはどう?」

「問題ありません」

「じゃ、全部ちょうだい」

「え?」

「えっと、細いのが13本、太いのが12本、玉付が5本だから……65たす120たす100で……285銅貨かな?」

「え?えっと……」


お姉さんは俺の言った金額が正しいか、指折り数え始め、地面に指で数字を書いて計算し、さっきから空気の婚約者に確認してようやく俺の言った金額が正しいと判断したようだ。


「そ、そうね285銅貨だけど、全部買ってくれるなら270銅貨におまけするけど……本当に全部買ってくれるの?」

「もちろん。フー、銀貨を3枚ちょうだい」


俺がそういうとフーは何も言わずに俺に銀貨を3枚渡してくれた。


「じゃぁ、お姉さんこれで。婚約のご祝儀ってことでお釣りは取っておいてください」


前の世界で生きていた時は、人生で一度は言ってみたかったセリフ。

お釣りは取っておいて。

……今の俺ってば超絶カッコイイのではないだろうか?


「ほ、本当にいいの?君ってば結構いい身なりしてるし、どっかの貴族のお坊ちゃん?」

「うん。ライト家って知ってる?」


あ、2人ともフイた上にその場でドゲザ状態になってしまった。


「ライト家の方とは知らず申し訳ありません!」

「な、なにとぞご容赦を!」

「待って待って!何の事?別に楽しくお話しして買い物しただけじゃない。何を謝ってるの?」


そういっても、2人はブルブル震えあがってしまってる。

周りの人たちは何事かとこっちを気にはするものの、巻き込まれたくないのか客は足早に移動するし、隣の店の人はこっちを見ないようにしており、中にはあわてて店をたたもうとする人までいた。

そんな中、フーが2人に近寄って耳もとで何かをしゃべると、ぱっとこっちを見た後、あわてて立ち上がった。

フーってば何を言ったんだ?だけど、俺も2人を安心させる方向で話を進めた方がいいだろうな。


「こんな素敵な組紐を見つけられて俺はすごい幸運だな。2人がここで店を広げててくれた事を神に感謝したくなるほどだ」

「そうですね、ロック様」

「どうやら僕は2人をかなりびっくりさせてしまったようだし、お詫びがしたいんだけど、どうすればいい?」


フーは俺にそっと近づき、手に銀貨をもう一枚握らせてくれた。

ま、心づけとしてはかなり高額な気がするけど、貴族がお詫び使用ってのにこれより安いんじゃ面目も立たないんだろう。


「2人ともごめんね」

「いえ、こちらこそお楽しみの所を騒がせてしまって大変申し訳ありません」

「じゃ、お互い謝ったってことでここは納めて、紐を持って帰れるようにまとめてもらっていいかな?」

「あ!申し訳ありません。……どうぞ」

「ありがとう。さっきも言ったけど、お釣りはお祝いとお詫びだから取っておいて」

「「ありがとうございます!」」


俺もフーも周りの視線がかなり気になったので、2人のお礼を背に聞きながらその場を足早に移動した。


「さっきはなんでライト家の名前を出しただけで2人ともびっくりしてたの?」

「ロック様はあまり御自覚が有りませんが、ライト家と言えば他国にしてみれば踏んではいけないドラゴンの尻尾なのです」

「なんで?」

「人が生きていくには塩が必要で、この大陸の西側では沿岸部の国以外は命の川を経由しなければ塩が手に入らないのです」

「でも、個人には関係ないでしょ?」

「過去にライト家を怒らせた国の末路は有名ですからね。一般人でもライト家と言えば怖い貴族と言う認識が、その手を止めろ!」


話をしてる途中で、いきなりフーが叫んだ。

ビックリしてフーの方を振り返ると、小柄な男(?)の喉元にフーが大ぶりのナイフを突きつけていた。

で、その小柄な男の右手が俺の懐に入り込んでる。


「え?わっ!何?掏摸?え?何これ?」

「鼠族の掏摸です。掏摸に対する刑罰は利き手の親指を落とすことです。捉えた者がその場で落としても罪になりませんので、ロック様の許可が有ればこのまま落としますが?」

「ちょっと待ってくれ!話があるんだ!」


いや、いくらフーに手を動かすなって言われたからって、人の懐に手を突っ込んだまま叫ばないでくれ。

耳が痛い。


「俺は鼠族そぞくのエッペンパリスファルティマン。噴水市場じゃ仲介人テンバイヤーのパリスで通ってる」


鼠族そぞくってどこにでもいるって聞いてたけど、エントシーでは見たことなかったなぁ。

エントシーの町にほとんど出たことないけど、出歩いたときも見かけることが無かったから、どんな見た目かは知らなかった。

勝手な想像でグレーな毛並みでチョット不潔な感じなのかと思ってたけど、目の前の鼠族はハムスター的な鼠で、フワフワした白と茶の毛並に丸い小さな耳がついてる。

ってか、テンバイヤーって明らかに前の世界のジャパニーズネットスラングじゃねぇかよ。

アクオンに名前を付けたって言うジャパニーズはこの王国が出来る前の人物らしいから、それ以外にもこっちの世界に記憶を持って転生してきてる奴がいるってことだよな?

もう、わけわからんな。


「でも、ただの掏摸じゃん」

「いやいや、そっちの猫族のお嬢さんがお付をしてるってことは、旦那は結構な爵位の貴族の御子息なんだろ?」

「まぁ、お察しのとおりだ」

「だろ?で、猫族が俺如きのやったことに気が付かないわけがない。ってことは俺は貴族の御子息と直接話をする機会を得るってわけだ」

「第一印象最悪だな」

「でも、お付が居るってことは、旦那が直接金目の物を持って歩たりはしてないだろ?」

「まぁ、魔石くらいか?」

「ちなみに、ロック様は特殊な属性の持ち主だ。魔石一つが金貨1枚に匹敵する。指を落とす覚悟は出来たか?」

「え゛!?そんな!し、知らなかったんだ!勘弁してくれ!」

「犯罪者は皆そう言う」


フーはそう言いながらこっちに目線を送ってきた。

落としていいかどうか判断を仰いでるんだろうけど、パリスとしても自分の指の運命が見た目幼児の俺にかかってると思えば生きた心地もしないだろう。


「フーならいつでも指なんて落とせるだろ?ちょっとだけ話を聞いてみたいんだけど」

「必要ないと思いますが……」

「いよっ!若旦那、最高!懐が広くていらっしゃる!」

「まぁ、こんな人通りの多い市場じゃ話もできないから、ちょっと場所を移そうか。その前にパリス?話ってなんなの?」

「へえ。音魔法の事なんで……」


俺は膝から崩れ落ちた。


エントシーは荷の積み降ろしはライト家への許可制となっており、書類に無い荷物の積み下ろしが行われると、港の利用権利が全て失われることとなります。

そのため、密輸等は深い闇にまぎれて行うため、それらに付随する犯罪組織なども通常では目に着かないほど深く潜っており、疑われやすい鼠族等はこの地に配置しません。

因みに、見た目は溝鼠だと可愛くないので、モルモットとかハムスター的な方向で。


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