01 人生が終わった日(改稿版)
元の文章でパワハラ・モラハラ等に関する表現について、メッセージにてご指摘をいただき、改稿いたしました。
4月12日にタイトルの数字を【1】から【01】に変更しました。
6/7 誤字の報告をいただきましたので修文しました。
大学時代にイベントの運営をしていた時に、頼んでいた開催場所のオーナーと言った言わないの水掛け論になったことが有る。
それ以来、俺は常にICレコーダーをポケットに入れて持ち歩き、自分が必要と思ったときは必ず音声を記録してきた。
まぁ、せいぜいが大学の講義を録音しておく程度だったけど。
大学を卒業して地元の会社に就職してからもICレコーダーを持ち歩くことはやめなかった。
学生時代の経験を通して、最低限自分の立場を守るのに、証拠が有るのと無いのとでは大違いだとわかったから。
隠して録音すると問題になる可能性があったので、会議や仕事の話の時は必ず相手に断った上でICレコーダーを使ってきた。
そのせいで、会議のメモ出しは全部俺に回ってきたけど、それで自分の立場が守れるなら問題ないと思って嫌がらずにメモを作ったりもした。
ある金曜日、いつも通り会議のメモをさっさと作り終え、会議で決まった通り仕事を進めるよう書類を作るのに集中していて、気が付いたら終電ギリギリの時間になっていた。
普段から職場で寝泊りするための寝袋も用意していたし、月曜日までに上げないといけない仕事も有るから、このまま仕事を続けても良かったが、俺は基本的には無理にでも帰宅して自宅で一息ついて気分をリセットしたい性分だ。
なので、土曜日に休日出勤するつもりで途中まで進めた仕事を保存してからPCを落として職場を出た。
いくら地元に就職したからと言っても歩いて通える範囲ではなく、終電を逃せば1時間以上かけて歩いて帰ることになるため、小走りで最寄りの駅に向かっていた。
仕事ばかりでかなり鈍っている体に鞭打ち、ようやく駅の改札までたどり着いた瞬間。
『○○行、最終電車発射しま〜す。出発〜進行〜』
終電を逃したとはいえ、今から職場に戻る気になれなかった俺は歩いて帰ることにした。
近くのコンビニで酎ハイ何本かとツマミのスナックを買い、これで月でも出てたら一人酒もサラリーマン的風情があるのにな、と思いながらのんびり歩き始め、30分経った頃、薄暗い横道から人が飛び出してきた。
「た、助けてくれ。」
「は!?」
何だ!?荒事か!?
ぱっと見、チャラい外見の男・・・って言うか
「お前、○山か?」
「え?誰だっけ?」
「中学の時に同級生だったろ」
「おい!逃げられると思ってんのか!?」
「え?」
追いかけてきた奴らの方を見ようとした瞬間、顎に強烈な衝撃があった。
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意識を取り戻した時、俺はまだ道端に倒れてた。
運悪く誰も通りかからなかったらしい。
とりあえず、いきなり殴られたことだし警察に連絡をしたらこっちに来るらしい。
警察が来るまでの間、いつもの癖でICレコーダーを取り出すと、容量がいっぱいで録音が終了していた。
長年、何かあった瞬間にズボンの上からICレコーダーのスイッチを入るようにしてきたから、今回も無意識でスイッチを入れたんだろう。
出だしは俺の「は?」から始まり、最後の方で○山の悲鳴が入り何かを引きづって行く音で終わってた。
「え!?」
パトカーのサイレンが遠くに聞こえてくる中、周りを見渡すと地面が濡れているように見える。
俺はパトカーが到着するまで、ガタガタと震えていた。
ICレコーダーの中の○山は、中学のころに○山とつるんでた同級生の名前を叫んでた。
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一歩間違えば俺も死んでたかもしれない夜の後、警察に連れていかれたり事情聴取をされたり、ICレコーダーの説明をさせられたりして、気が付いたら夜が明けていた。
朝から職場の上司に、月曜日までに仕事を上げるべく出勤する予定だったが無理になったと事情を話し、土曜日中は警察に居ない間は自宅待機だった。
そして、日曜日の午後、警察から俺を殴って○山を刺した男が逮捕されたと連絡があり、再度事情聴取を行いたいので警察に来るよう連絡があった。
逮捕されたのはやはりICレコーダーで○山が叫んでた中学の同級生だった。
事情は話してもらえなかったが何らかの犯罪を犯しており、余罪もこれから追及するそうだが、ICレコーダーのおかげで殺人罪は確実だそうだ。
本人確認のためマジックミラーを除いたら、頬がこけ、派手な服を着た不健康そうな男がいたが、同級生だったころの面影が多少残っていた。
事情聴取が終わり、明日から仕事なのに全く休んでないなぁなどと思いながら、電車に乗るために階段を下りてすぐのホームに立つ。
休日の微妙な時間帯で、ホームには人がほとんどいない。
昔から“ヤンチャ”な奴らとそりが合わない俺は、殺されたのが自分ではないこともあり「ざまーみろ」と思いながら電車が来たのに気が付き、線路側に一歩踏み出したところで後ろからいきなり押された。
「お前がいなければ彼が警察につかまったりしなかったのに!」
線路に落ちた傷みに耐えながらホームの方に振り返ると、ケバい女が何か叫んでた。
でも、あいつがやったことを棚に上げておいて、言いがかりだろそれ。
痛みをこらえて立ち上がろうとし、電車の警笛の音で反射的にそちらを向いた瞬間、目の前に電車が写ったところで俺の人生は終わった。
ここで出て来た同級生たちは、今後の話には一切絡んで来ません。
最後に叫んでたのは主人公の初恋の人ですが、ストーリーには全く関係ありません。