召喚士の帰郷、故郷の現状
タイトルにネタバレが有ります。
場所は剣と魔法の世界ファンシール。
そのファンシールで今人間を支配しようと画策する魔王の居城の魔王の間。
そこで今、一人の少年と一人の美女が相対している。
そして、少年は息を切らせながら言葉を紡ぐ。
「ハア・・ハア・・、やっとここまでこれた・・。長かったな・・。」
「ん~?どうした、勇者よ。そのような様で魔王であるワシに敵うと思うてか?」
「ああ、僕の目的は君を貰いたいという事だからね。その為にムカつく王国の国王の頼みを聞いてここまで来たんだ。幸いなことに、後一つで君を手に入れる条件は全て揃う。君が遊び半分で配下を全てけし掛けてくれたお蔭でね?」
向かい合う少年(勇者)と美女(魔王)はお互いを見ながら会話を楽しむ。
そして、少年の言葉に興味深そうにしている魔王。微笑ながら少年に聞いてきた。
「ほ~、面白い。その条件とは何ぞや?言うてみい。」
その魔王の言葉を鼻で笑いながら少年は語る。
「はんっ!そんな事を言えば条件が満たされる前に死んじゃうじゃないか。そんな馬鹿な事を誰がするもんか。それに、今の状態でやっとの条件なんだ、これ以上不利になる前にさっさと君を貰うぞ。」
「ほ~、余程その方法に自信が有るらしい。良かろう。今のそなたを殺すのは容易い事、その自信を打ち砕かれた顔を見るのも一興よ。どうだ?勇者よ。一度だけ何かしらの攻撃を仕掛けて見よ。ワシはその攻撃が当たるまでは攻撃はせん。貴様はその一撃に全てを掛けて挑んでみよ。もしワシが耐え切れずに死に掛けたら、ワシは貴様の思いどおり、貴様に付き従ってやろう。そのまま殺すも、回復させて僕にするも自由じゃ・・・どうじゃ?」
その魔王の言葉に、少年は食いついた。
「本当か!?本当にこちらの準備が終わるまで待ってくれるのか?」
「くどい!良いから早う来て見よ。もし、期待外れの場合はお主の命は無いと思え?」
「当たり前だ!どうせ、これからやる事が通じなかったら、君に勝てる可能性なんてないんだからな!・・・では、行くぞ!」
「おう、来い!」
二人とも同じように言葉を発するが、少年はこの時すでに「勝った!」と思っていた。
「カードオープン!」
少年がそう言葉を発すると、少年の目の前に数十枚の光の板で出来たパネルが現れ、少年がその中から数枚のカードを選んでタッチする。・・・すると。
「召喚【シーラ・アルタス】、召喚【ノイン・サーチェス】、召喚【メノウ・アーミル】、召喚【シェリス・ルクメール】」
少年がそう言うや、選ばれたカードが発光し、裸体の美女や美少女の体が投影される。
その光景を見て魔王は驚く。このような魔法は魔王すら見たことが無い。だが、少年は気にせず自分の成すべきことを黙々と続ける。
「全員服装儀式用装。儀式剣、アクセサリーは聖者の結界符。・・よし、皆出てこい!」
少年は準備OKとばかりにOKをタッチする。
そして、呼ばれたのは4つの種族の王族。
一人は自らを呼んだアルタス王国に於いて、100年に一人の魔力を持つと言われる才女にして、大陸一と言われる妹には敵わないながら、その美貌でも知られる美姫、シーラ・アルタス。
一人は森に生息圏を持つエルフ族の皇女。その魔力は種族間で随一とされ、次期女王の筆頭候補・・・の筈だった、ノイン・サーチェス。
一人は精霊の住まうグルタル大平原の全ての精霊の女王にして、皇帝ドラゴン種とも渡り合える魔力を持つ精霊王メノウ・アーミル。
一人は浮遊大陸の一つの国家を統べる天使族の女性。美貌もさることながら、魔力も桁外れの規格外の持ち主、シェリス・ルクメール。
そして、少年のやろうとすることの一つは、彼女たちにだけ使用可能な全ての行動を封じる事の出来る大結界魔法<ロイヤルプリズン>。
この魔法は4つの種族の王それぞれに秘儀を教えられたを者のみが使える種族間の絆魔法。当然莫大過ぎる魔力故、それを扱える者が揃う事は珍しく、もはや伝説となっていた。
そして、この魔法が魔王にすらも通じる事は過去に一度だけ実証されている。その為、彼女らを自分の魔法で従わせるのも苦労はしたが、それだけの価値はあると思っている。
だが、問題はここからだ。
「皆、<ロイヤルプリズン>の発動をお願い。僕は、召喚魔法の使用に入る。・・・皆の魔法の発動後、僕の魔法が失敗に終わったら、すまないけど、僕と死を共有してくれ。」
少年が魔法の発動と、失敗時の覚悟を語ると、美少女達を代表して、シーラが優しく言い聞かす。
「マスター、その様な事は、従うと決まった時に既に覚悟は出来てます。マスターは何の気負いもなく、事が成就する様に作戦を遂行してください。」
そう言った少女の後ろで、他の3人も皆頷いている。
「わかった、ありがとう。・・では、皆用意・・・散れ!」
「「「「はっ!」」」」
そう元気よく応え、4人は一瞬で魔王の周囲4角に散る。それを見た魔王は
「ほう~、皆素晴らしい位の魔力を秘めておるが、残念ながらこの者たちではワシには勝てんぞ?この者達が切り札なら、期待外れも甚だしいが?」
「その言葉が最後にはどうなるか楽しみだよ。・・・皆<ロイヤル・プリズン>発動!」
「「「「はっ!<ロイヤル・プリズン>」」」」
少女たちは魔力を放出し合い、4つの魔力柱を形成し、それを魔王にぶつけた。・・そして。
「・・ぐぐぐぐ・・。確かに一切の魔力を使えぬし、行動も出来んが。それでも貴様如きの拳で倒れる程ワシは貧弱ではないぞ?」
「そんな野蛮な事はしないよ。僕はただ、君なキスをするだけなんだから。」
この少年の言葉で、魔王は一瞬唖然となった。それはそうだろう、幾ら魔王が女性でも、少年にキスをされた位で惚れるとは誰も思わない。しかも、この場合は無理矢理なのだ。これで落ちれば逆に可笑しいだろう。
だが、少年は大真面目に話す。
「僕の魔法は特殊でね?有る条件を満たせば、相手がどんな強力な人でも女性で有る限り僕に従属する召喚生命体に出来るんだ。実際に魔王に効くかどうかは賭けだけどね?天使や精霊の女王に効いたんだから、可能性は〇じゃない。その証明を今からするよ・・。覚悟は良いね?」
「ふふふ・・はははは・・はーはっはっはっは。良いだろう。やって見せよ。ワシの尊厳と貴様の魔法の規格外さ、どちらが上か勝負だ。」
「了解!」
少年はそう言って、魔王に向かって進む。
一歩、二歩、5歩、10歩。そして、20歩進んだ処で漸く魔王に接触できる位置に来た。
「それじゃ、唇を貰うよ?」
その言葉の後チュッと唇が触れ合う音と共に少年の体から膨大な魔力が立ち昇り、魔王と自身を包み込む。そして、その魔力が再び少年の体に戻った時、勝敗は決した。
魔王を包んでいた魔力が光の粒子になり、その場に一枚のカードが残ったのだ。
それを拾い上げた少年はカードを見て笑う。
「はーはっはっは!よっしゃー!勝ったぞー!皆ーお疲れ様ー!僕らの勝利だ!」
そう少年は高らかに宣言した。少年の手に持たれたカードには、こう記されていた。
魔王アルテア年齢5142歳
召喚生命体
レベル ∞
召喚者 天野正也
こうして、少年の魔王討伐はなされ、仮初の平和に皆が溺れていく中、水面下で次の騒動の狼煙も着実に上がっていた。
それから3年後・・・物語りは動き出す。
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場所は剣と魔法の世界ファンシール。
そしてそこのとある邸宅。今そこの主にして稀代の魔法士が約束のゲートの前に立つ。
「本当に行くのですね?正也様。本当は残って研究を続けて貰いたい、というのは我がままでしょうか?」
正也と呼ばれた少年に彼の使役生物であるエルフ執事が引き留めようとする・・・が。
「まあ、本当は最後まで続けたかったんだけどね。しょうがないよ、僕の生まれた場所がこの世界の魔物に襲われるって言う先視を和葉がしちゃったんだから。お前もあの子の先視の魔法の的中率は知ってるだろ?」
「・・ええ、聞くところによると99パーセント。唯一の失敗は正也様の魔王討伐の成功の過程を読み違えた事。まあ、あのような結末は誰も予想できないでしょうが・・・。」
「確かにね・・・。」
二人揃ってその理由を思い出し、苦笑する。理由と言うのは簡単で、正也の魔法による意外な服従化。誰が女だからと言って異性を服従させ、カード化する事の出来る召喚魔法が魔王相手に通用すると思うだろうか・・・。
そもそもの話、魔王の居城に行くまででもかなりの危険があるのに、勇者として召喚した国が着のみ着のままで放り出すと言う訳のわからない行動に出たのだ。・・・そのお蔭で何の遠慮もなく王国一の才女と言われる第一王女と大陸一の美貌で名高い第二王女を服従させることが出来たのだが・・・。
「そう言えば、リーナ王女様とシーラ王女様は連れて行くのですか?ゲートを使わなくとも正也様の召喚生物として連れて行くことは出来るでしょう?」
エルフの執事が疑問を口にする。確かに正也の召喚魔法は執事の言うようなことが出来る、・・・が。
「いや、和葉の魔法に由れば、俺は向こうで魔法士を育成する学校に通う事になるらしい。魔物が襲ってくる恐れのある世界の学校だから、それなりの実力者が居るだろうが当分は一人で頑張ってみる予定だ。・・その為に、最近間違って召喚された優月を付き添いに連れて行くんだから。」
「ああ、確か彼女も正也様の毒牙に掛けられたのでしたね・・・まっこと手の速い主で有ります事か。」
「う、煩いな!あまりに綺麗だったんだからしょうがないじゃないか!それに、僕の加護を得られる権利も生まれるんだから、強くなりたいって言ってた優月の願いは叶えたんだから、良いじゃないか。」
執事に己の手の速さを指摘された少年はそう反論する。・・・が、更に執事は言い放つ。
「そうやって、どれだけの女性の唇を奪う気なのか解かりませんが、正也様の居た世界の女性がココに来ることはあまり薦められませんよ?ココは平和な場所に居る者が長い事居られる場所ではありませんからね。こちらは何時でも待機しておりますから、何らかの方法で通信手段を確保してくださいね?こちらも花帆殿が正也様の所持品の一部を預かって研究はし続けますが、開発に関しては正也様に勝る者はこのバトラー、心当たりがございませんから。・・では、正也様の元の世界での新居に招かれるを心待ちにしております。」
「うん、なるべく早く連絡するよ。まあ、最悪の場合研究チームのチーフメカニックの栞くらいは何時でも来れるようにさせといてよ。向こうがどれだけの魔道技術か分からないんだからさ、良ければ俺の技術と合わせて面白くなるけど、悪ければ何の参考にもならないかも知れないんだしね?」
正也はそういって曾ての自分の生まれた世界に思いを馳せた。
今あの世界はどう変わっているだろうか。優月に聞いた限りでは、正也が召喚されてから数世紀の時が流れ、陰陽術から魔法に変わり。魔法も詠唱をするものから、機械を通して発動するMBIと言われるブレスレット型や指輪型など、所謂魔道具を使う魔法士や、魔法陣を空中に刻んでそれに魔力を通して発動する魔術師と言われる者が居るとの事。更に別の研究機関も開発段階ではあるが、存在していたと言う。
学校ではその分野ごとにクラス分けをしたり、開発者の育成にも力を入れる所もあるらしい。
正也の居た頃は、お札を使って色々な式神を作り出す者くらいしかなかったから、この変化に結構驚いた物だ。・・・聞く分でこれだけの驚きだから、実際に見たらどうなるかは分からないが・・。
「そういえば、正也様が向こうに着くころにはどの位の年月が経っているのか分かっているのですか?」
バトラーが不意にそう聞いてくる。正也は「一応ね」と前置きし、
「今、何らかの理由で世界の歪の影響で時間軸が一定らしいから、今日の内に向こうに着ければ問題ない筈だよ。では、行ってくるね。」
「お気を付けて。」
「「「行ってらっしゃいませ、主様」」」」
こうして、正也と呼ばれた剣と魔法の世界ファンシールに召喚された外道な勇者は、自らの世界に戻って行くのだった。
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