平穏なホワイトデーの前には実は嵐が吹いていたとか
今回は前作のバレンタイン短編を踏まえた内容になっていますので、読んでいない方はお手数ですがそちらから読まれることをお勧めします。
「さて、3月に入った訳だけど、そろそろ決めなきゃいけないことがあるな」
「何ですか?」
さっきの言葉通り、今は3月に入った頃。突然部長が女子だけ集めてそんなことを言い出した。
「決まってるじゃないか。とりあえず、先々週何があった?」
「先々週?」
何だろう? 分からない私がきょとんとしていると、
「ああ、あれの事ですね」
「なーんだ。突然言い出すから何かと思いましたよ」
「私は分かってましたけど」
みんな返事が予想外。ちなみに上からユミ、エミ、ユズ。
「え? ええ?」
これってつまり、分かってないの私だけ?
結局何かと言えば、今月14日、ホワイトデーの話だった。
部長が言った先々週っていうのはバレンタインのこと。
「まあ、そんなわけでそろそろホワイトデーに向けて色々決めておくべきだと思うわけだ」
「何となく言いたいことは分かりましたけど、何決めるんですか?」
「決まってるじゃないか、なあ?」
部長はみんなに振った。これってまたみんな分かってるパターン?
「それって、誰が作ってくるかってことですよね?」
「その通り。ユミはいつも察しがいいな」
「あのー、それは分かるんですけど、何で誰がって決めるんですか?」
今度はエミが聞いた。確かに私もそれは疑問。
「エミ、よく考えてみろ。先週はバレンタインデーだったわけだが、その時チョコを1人だけ手作りしてきたのは誰だった?」
「えっと、ああ、ショウでしたよね」
「つまり、お返しの意味があるホワイトデーには、あいつ以外の誰かが何か作ってこなきゃいけないってことだ」
部長以外:「「「「な、なんだってー?!(棒読み)」」」」
言われてみれば何のことはなかったけど、つまり、私たちの誰かが何か持ってこなきゃいけなくて、しかももし私に当たったらクリスマスの惨劇が繰り返されそうな気が……。
「ああ、先に行っておくがルリは対象外な」
「はい?」
私? 対象外ってどういうこと?
「クリスマスの分作って来たのはルリだからな」
あの部長、何だかすっごく意味ありげな顔っていうか黒い笑みみたいなのが見えますけど。
……とは言わず、代わりに私は
「まあ、大変でしたからね。じゃあ今回はお言葉に甘えて辞退させてもらいますね、部長」
と言った。多分今私悪い顔してるよねーとか思いながら。
「……まさか返し技を打ってくるとは、ルリらしくないな。今度もいつも通り慌てふためく予定だったんだけど」
久しぶりに見たかも、部長の苦い顔。
「まあいいか、ルリも成長したってことで、それより皆、そんなわけで、どうやって担当を決めようか」
部長以外:「「「「……(沈黙)」」」」
何かいい方法ってあるかな?
「……誰も思いつかないみたいだから、とりあえず明日考えるか」
「ですねー」
しばらくして部長がそう言ったから、別に今すぐ決めなきゃってものでもないしって思ってたらユズが突然
「『明日やろうは馬鹿野郎』と言いますが」
なんて言い出した。
「突然だなユズ。まあ、私らは野郎じゃないからいいんじゃないか?」
「そうそう、今日はひとまず解散ってことで」
「エミはとりあえず時計を見てから話そうか」
「あれぇ? おかしいな、まだこんな時間だったのか」
「というわけで今日の残りは普通に部活で。じゃああとは各自」
部長以外:「「「「はーい」」」」
というわけで、この日は普通に部活して帰った。
え? 今、「普段部活してないよね」って言った?
そ、そんなわけないよ! ちゃんとやってるよ! ……多分。
◇ ◇ ◇
帰ってから家でくつろいでたら、何となく机の隅に置いてあったトランプが目に付いた。
「そういえばしばらくやってないなあ……あ、そうだ」
これ持ってったらいいんじゃないかな? 明日。
でも、トランプで、個人戦で、やるのは部長とエミとユミとユズの4人で、うーん、何できるかな?
「まあいっか、それは後から考えよう。それより宿題宿題!」
で、一通り宿題が終わって、もう1回トランプを眺めながら考えてみる。
「うーん、4人、4人……あ、4人!」
いいこと思いついた、っていうか、久しぶりに見たくなったな、あれ。
◇ ◇ ◇
次の日の部活。
「さて、みんな何か思いついたものはあったか?」
「すいません、忘れてました」
「特になかったです」
「わたしも思いつかなかったですね~、あはは、すみません」
って、こういう時に限ってなんでみんな忘れてきてるの……。
「全く……、ルリはどうだ?」
「その、これとかどうでしょう?」
「トランプか。で、トランプで何するんだ?」
「ハーツとかどうかなー、って思ったんですけど、どうでしょう?」
うーん、今改めて考えると微妙かな……。
「ハーツ? 何でまた」
「いや、久しぶりに見たくなったので」
「まあ、いいんじゃないか? みんなどうだ?」
「いいんじゃないですか~?」
「いいですよ。私が勝ちますが」
「他の人とやるのは初めてですね。いいですよ~」
ふう、みんな意外に乗り気みたいでよかった。
◇ ◇ ◇
こうして甘木高校美術部主催のハーツ大会が始まった。
ハーツって何? って人もいると思うけど、ハーツはナポレオンとか大富豪みたいにしてカードを取っていって、最後に持ってたカードの分だけ持ち点が引かれていくゲームで、大抵最初の持ち点は100くらいで、これが0になった人が負けになるよ。
まあ、簡単に言うと、ナポレオンとかと違って、カードを押し付けあうゲームっていう感じかな。
「さて、今日は火曜日。金曜日まで4日間、私は1日持ち点250点、4日間で合計持ち点1000点でのゲーム開始を提唱する!」
「部活する気ないんですか部長。私はその半分、1日125点の合計500点くらいがちょうどいいと思いますけど」
「まあそっちのがまともか。んじゃユズの他に何か意見ある人ー」
「その辺りがちょうどいいですね」
「私も賛成でーす」
え? 4日続けるっていうのには誰も突っ込まないの?
「ところで、オプションルールはどうするよ」
「えっと、パソコンに入ってたりするやつ以外に何かあるんですか?」
「あれ? ルリ持ってきといて知らなかったのか、まあ無理ないけど。あれは基本のやつにスペードクイーン13点を付け足したブラック・レディにブレークルール足して、スラムをシュート・ザ・ムーンにとっかえてあるんだ。基本はあれでいいだろうけど、何個か足したほうが面白いだろうと思って」
「はい?」
い、今何て?
「提案ですが、ダイヤ10を加算10点に、スラムにシュート・ザ・サンを追加、くらいでいいかと」
「シュート・ザ・サンって要るのか?」
「私が使いますから」
「なんてこった」
この2人、何言ってるんだろ。
「ねえエミ、ユミ、分かる?」
「分かるわけないじゃない」
「わたしはパソコンのしか知らないので……」
「だよねー」
良かった。私だけじゃないみたい。
「さて、それじゃ色々と説明も終わったことだし、始めるか」
「「「おー!」」」
今度こそハーツ大会が始まった。
けど、長いから区切っていくよー。
――1日目――
「最初って誰からでしたっけ」
「クラブの2だ。というか誰も出さないからエミじゃないか?」
「あ、ほんとだ」
「ここでブレイクです!」
「む、それは予想外」
「ふふふユズ、どうやらこの回はそっちみたいだな」
「今度はこっちから、スペードクイーン!」
「何?!」
「ただじゃやられませんよ、部長」
「むぅ」
結果――部長:+36 ユズ:+32 エミ:+9 ユミ:-3
通算――部長:+36 ユズ:+32 エミ:+9 ユミ:-3
――2日目――
「私らだって負けてらんないですよ、っと」
「なんだか今日は調子がいいですねー」
「きっついなー」
「あまり芳しくないかな」
結果――ユミ:+28 エミ:+25 ユズ:+3 部長:-8
通算――ユズ:+35 エミ:+34 ユミ:+25 部長:+24
――3日目――
「こっからが本番ってね、シュート・ザ・ムーンだ! 全員マイナス26点!」
「油断したっ!」
「このタイミングでですか?!」
「やられましたー」
「まだまだ! 今度は無いのも確認済みっ!」
「ってちょっ! 私まで被害が!」
「あっれ? 私の持ち点こんな減ってたっけか?」
結果――部長:+15 ユミ:+6 ユズ:+1 エミ:-4
通算――部長:+39 ユズ:+36 ユミ:+31 エミ:+30
――最終日――
「そこっ!」
「甘いですね!」
「なんのぉ!」
「「……あの、私たちは……」」
「ハハハッ、危なかったが、これで最後だ!」
「……フッ、かかりましたね」
「そんなにカードを取っておいて何言ってるんだ」
「その通り、周り見てみてくださいよ、部長」
「え? ……! ぜ、全部取ってるっ!」
「これが私のフィニッシュですよ! シュート・ザ・サン! 全員マイナス52点です!」
「「「な、なんだってぇぇぇ?!」」」
結果――ユズ:+5 ユミ:-35 エミ:-37 部長:-47
↑蚊帳の外だった2人はそこそこ点残ってたのに一撃でこの有様、てかあのままいけば勝ってたのに。
最終結果――ユズ:+41 ユミ:-4 エミ:-7 部長:-8
◇ ◇ ◇
と、言うわけで、ホワイトデーの準備は部長に決まったけど……来週中にできるのかな?
「惜しかったな」
「危なかったですね」
「あのまま行けば私たち勝ってた気が……」
「まあいいんじゃないですか?」
「みんなお疲れ様ー」
「じゃああと部活なー」
「「「「はーい」」」」
そんなこんなでホワイトデーまであと1週間。部長、何持ってくるんだろう?
気になったから後でメールで聞いてみたら、
『その日にその目で確かめよ』
とのこと。
で、みんなの予想聞いてみたら、
『部長だしねー、何か突拍子もない物持ってきそう(笑)』 byエミ
『とりあえず食べ物の可能性すら低いと思う』 byユズ
『おいしいといいですよねー』 byユミ
だって。みんな勝手なこと言ってるから、部長には教えられないなぁ。
「あーあ、本当になんなんだろう」
気にはなっても答えは出ないし、仕方ないから諦めた。
◇ ◇ ◇
結局あれから1週間。部長は普通に部活に出てたし、特に疲れてる感じでもなかった。
……この間ショウは倒れてたのに。
で、ついにやってきた3月14日、ホワイトデー。
単にお返しの日っていう感じで、クラスとかもバレンタインほど浮ついてなくて、ごく普通の1日だった。何だか予想外だけど。
最近はもう消化分みたいになってきた授業も一通り終わって、私としてはようやくな放課後。
当然まっすぐ部室に行った、んだけど、
「あ、あれ?」
誰もいない?
仕方ないからしばらく黙って座って待ってようと思ったら、すぐに
「ありゃ、ルリだけ?」
エミが来た、けど反応は私と一緒。多分みんな普通に遅れてるだけだって分かってとりあえず一安心。
その後しばらくしてみんな揃ったけど、
「部長、来ないね」
「前にもこんなことがあった気がするけど」
「覚えてますよー、クリスマスの時ですね」
「あー、そういえばあったね」
そんなわけでみんなで部長の噂話とか他にも適当におしゃべりしてたら、今度は
「あっれ? 今日は部長いねえの?」
ショウが来た。なんだろう、ずっと部活来てたはずなのに、すっごく久しぶりな気がする。
「あ、トランプあるじゃん」
「今まで気づいてなかったの?」
「いや知ってたけど」
「じゃあなんで言ったの?」
「気分」
「……」
空いてた椅子に座ったショウがテーブルの上を見ながらそんなことを言った。
「ねーねー、部長来るまで遊ばない?」
そしたらエミがそんなことを言い出して、
「んじゃ、5人いるし、ナポレオンでもするか?」
ということに。
で、カード配ってたら
「すまんすまん、また遅くなった」
ちょっと間の悪いタイミングで部長が来た。
「さて、こいつが私の持ってきたアイテムボックスだ」
それはいかにも“それっぽい”模様のついた箱(模様はご想像にお任せします)。
「いやお呼びでないんですけど」
「まあそう言うなユズ。というわけで、今回の主賓であるショウに開けてもら「拒否です」……じゃあルリだな」
「えっちょっ、なんで私なんですか?! ていうかショウはなんで拒否?!」
「いいから開けてみろって、部長がやるこったし、怪我はしないだろうから」
「怪我しないってそれどういう基準? おかしいよね?」
「えい」
「え?」
突然ユズが止める間もなく、私に向けて箱を開けた。
バビューン!
「ひゃあぁっ!」
な、何か出たあ!!
「やっぱりか」
「うん、予想通り」
「何かオチ見切れてたよねー、ユミ」
「わ、わたしはノーコメントでー、っていうかなんでそこでわたしに振るんですかー?」
つまり
「ハハハッ、そういうわけだ。予想通りこいつはビックリ箱だったんだ」
そういうこと。
「もう! 部長ってばなんて物作ってくるんですか!」
しかも被害者は私だけで、そんなの理不尽だよね、おかしいよね?!
「まあまあ落ち着け。とりあえずもう一回中見てみなって」
「え? はい、えっとこれって、カラオケの割引券、ですよね」
「その通り! というわけでさて皆、これからカラオケ行くぞ!」
さすがにそれって突然すぎますよ部長、いや、私はいいですが。
と思ったら
「「「オー!!」」」
「ってみんな?!」
みんな行く気満々だった。
そんなこんなあったけど、そんなわけで今年のホワイトデーは結局部活のみんなとカラオケに行くことになった。
初めてだったけど、すっごく楽しかった。それに部長、歌上手かったなぁ……。
また、みんなで行きたいな。……今度は次の1年生も連れて。
どうも作者こと藤桐です。
というわけで、なんか逆な気がしますがホワイトデーです。
今回は元々もう少し書くはずだったんですが、時間の都合で後ろを圧縮した結果なんかトランプやってるだけになってしまいました(汗)
こんなものでも最後まで読んで下さってありがとうございました。
ではまたいずれ読んで頂けることがあれば。