エーデルヴァイス夫人について〜元侍女Bの話
……はあ。夫人を好きだった方?
そんな方、いるわけがありませんわ。
いつもムスッとしていて、何を考えているのか分からなかったんですもの。
そのくせ細かいところに目ざとい人でね……。
私が夜中、こっそり外へ散歩に行こうものなら、わざわざ起きて来て。
『なぜこのような時間に出ていくの!!?』
――と、酷い剣幕で怒鳴られましたもの。
私だって、たまには気分転換で出歩きたいというのに、ねえ。
ええ。
夜の外出は禁止でしたわ。
何でも以前、エーデルヴァイス夫人が嫌で嫌で、夜逃げした人が大勢いたとかで……。
それで散歩どころか急用でさえ、禁じられていました。
他にも……夫人がいつでもつまめるよう、焼き菓子を常に食堂のテーブルへ置いておきなさいとか。
客室に飾ってある人形やぬいぐるみは大切なものだから、決して動かすなとか。
他の部屋は塵一つ残さぬよう厳しく掃除を命じるくせに、旦那様と夫人の部屋だけは、何があっても絶対に掃除をするなとか。
一つ一つが理不尽な注文ばかり。
心の弱い人は結局、半狂乱になって屋敷を逃げ出していきましたわ。
彼女の相手なんて、私のように神経の図太い人間でなければ務まりませんのよ。
更に恐ろしいのは、従者が逃げ出したと知っても、夫人は知らぬ存ぜぬといった様子で……。
さすがは“冷血女”だと、思い知りましたわ。
あら、私?
私は最後まで勤め上げてやりましたの。
だって……こんな意地悪ばかりの老婆が、どんな寂しい最期を迎えるのか、絶対に見届けてやろうと思いましたもの。
だから、彼女の最期はしっかり見ましたけれど……。
まさか、あんな最期になるとは思ってもみませんでしたわ。
あのとき聞いた断末魔は、まるで呪いのように、今でも耳から離れませんの。
本当に、酷い死に様で――
まあ、そのことに関しては。
さすがに少しばかり、同情もしたくなりましたけれどね。




